死因統計分類の変更が人口動態統計に及ぼす影響について(ICD,人口動態統計,世代マップ,糖尿病,腎不全,老衰,心不全,脳血管疾患,虚血性心疾患,悪性新生物,骨腫瘍):(東京都健康安全研究センター)

東京都健康安全研究センター年報,68巻,287-293 (2017)

  死因統計分類の変更が人口動態統計に及ぼす影響について ( sage20172.pdf : 1.4MB, Acrobat形式 )


 

研究要旨

 

 東京都健康安全研究センターで開発している疾病動向予測システムを用いて,死因統計分類の変更や死亡診断書の改訂が人口動態統計に及ぼす影響について考察した.日本で使用する国際疾病分類(ICD)が第8版から第9版へ変更された1979年と,第9版から第10版への変更のあった1995年に,糖尿病による死亡者数の大幅な変動がみられる.このように使用するICDの変更に起因する死亡数の変動は,腎疾患において日本のみならずアメリカ,フランス,オランダ,スウェーデンなどでも観測される.日本では,死亡診断書の改訂が1993年に行われた.この改訂により心不全による死亡者数が約30%も減少した.ICDや死亡診断書の改訂を行う際には,人口動態統計に与える影響を十分考慮して改訂を行う必要があろう.

 


 

研究目的

 

 ヒトの一生は出生に始まり死亡で終わる.出生は家族に多くの喜びをもたらし,死亡は大きな悲しみをもたらす.出生や死亡を始めとする人生の節目節目の情報を国家的に収集・蓄積し公表しているのが人口動態統計である.我が国では,1899年から中央集査による人口動態統計が実施されている(1944年から1946年を除く).この情報を利用することにより100年以上にわたる日本人の死亡現象を解析することが可能である.また,WHOも1950年以降の情報を収集し,インターネットを介し一般に提供している1).当センターでは,地域における疾病事象を把握し,衛生行政を支援するために疾病動向予測システムを開発している.本論文では,このシステムを用いて国際疾病分類(ICD : International Classification of Diseases) 改正や死亡診断書の改訂などが,人口動態統計にどのような影響を与えているかについて,いくつかの死因を取り上げて分析した結果を報告する.

 

研究方法

 

 東京都健康安全研究センターで開発している疾病動向予測システム2-8)(SAGE:Structural Array GEnerator)を用いて糖尿病と腎不全,老衰,心不全などの死因について分析した.

 

研究結果および考察

 

 1. 国際疾病分類(ICD)の沿革

 1899年の国際統計協会の会議において,パリ市統計部長のBertillonが中心としてまとめ,その当時広く支持されていた「死因のBertillon 分類」の採用に関する決議が採択された.その翌年,1900年には国際死因リストの修正に関する第1回国際会議が開催され,Bertillon 分類の国際的な採択が行われるとともに,10年周期での修正が勧告された9).その後,概ね10年ごとにICDの改正が行われている.

 

表1.国際疾病分類(ICD)の沿革9)

国際会議 開催年 我が国の適用期間
第1回 1900 1899~1908
第2回 1909 1909~1922
第3回 1920 1923~1932
第4回 1929 1933~1945
第5回 1938 1946~1949
第6回 1948 1950~1957
第7回 1955 1958~1967
第8回 1965 1968~1978
第9回 1975 1979~1994
第10回 1990 1995~

 

 2. 糖尿病と腎不全

 糖尿病による死亡者は,1950年の男子1,005人,女子1,029人から増加を続け,1978年には男女おのおの4,632人,5,053人となった.それが1979年には男子3,839人,女子4,205人と男女とも約17%も急減した.その後は,再度増加を続け1994年には男子5,276人,女子5,597人となった(図1).しかし,1995年には男子は35%も増加し7,107人,女子は28%増加し7,118人となった.糖尿病は生活習慣病に分類される慢性疾患であり,1年で死亡者数が大きく変化することは考えにくい.この1978年から79年にかけての急減と1994年から1995年の急増の原因は国際疾病分類(ICD: International Classification of Disease)の変更による影響と考えられる.表1に示したとおり,1979年から1994年まではICD9が使用され,それ以前はICD8,それ以降はICD10が使用されている.このICDの改訂が人口動態統計に影響を与えた可能性が高い.

 ICDの変更が糖尿病の死亡者数に影響を与えたと仮定し,死亡分類を推測して腎疾患の年次推移を見てみた.1978年には男女おのおの3,338人,3,294人であったのが1979年には男子4,671人,女子4,593人と急増しており,ちょうどこれが糖尿病の減少と対をなしている.しかし,1994年から1995年にかけては,男子が8,994人から9,954人,女子が9,795人から11,427人と糖尿病と同様に増加しており,減少はしていない(図2).この1978年から1979年の挙動と1994年から1995年の挙動の差は,1995年頃に厚生労働省がICDの変更による人口動態への影響を十分認識していたことによるものと考えられる10)

 図3に6か国の男子の腎疾患による死亡数の年次推移を示した.各国でもちょうど疾病分類をICD8からICD9へ変更した際に死亡数の大きな変動が見られている.1970年後半から1980年にかけての時期,日本のみならずアメリカ(ICD9への変更年:1979年),フランス(ICD9への変更年:1979年),旧西ドイツ(ICD9への変更年:1979年)などでも大きく変動している.また,ICD9からICD10への変更の際にも,アメリカ(ICD10への変更年:1999年),フランス(ICD10への変更年:2000年),オランダ(ICD10への変更年:1996年),スウェーデン(ICD10への変更年:1997年)などは死亡数が変動している.このように各国での死亡数の変動が目立つ中,日本で目立った変動を示さなかったことはICDの変更に対する担当部局の努力の賜物であり,状況認識とその際に払われた労力は高く評価されるべきと考える.

図1.糖尿病死亡者数の年次推移

図2.腎疾患死亡者数の年次推移

図3.各国における腎疾患死亡者数の年次推移

 

 3. 老衰

 老衰による死亡者は,1950年の男子23,474人,女子34,938人から長期的に減少を続け,男子では2001年に6,094人,女子では1996年に14,506人となる.その後,増加基調に転じ,2015年には男女おのおの20,894人,63,916人となっている.この年次推移を見ると,1957年から1958年にかけて急減が見られる.男子28,472人が19,479人に,女子では44,856人が31,567人に急減している(図4).この急減も疾病分類がICD6からICD7へと変更されたためと考えられる.

 世代マップを見てみると男子の死亡のピークは1950年頃には70歳代前半であったが2015年には90歳位に,女子では80歳位であったものが90歳代前半になっている(図5).人口動態統計は医師の死亡診断書に基づき死因が決定されるものである.高齢化によって老衰と診断する年齢は押し上げられているものとみられる.

図4.老衰死亡者数の年次推移

図5.老衰死亡者の世代マップ(上:男子,下:女子)

 4. 心不全

 1) 年次推移

 心不全による死亡者の年次推移を見ると,1993年から1994年にかけて急激に減少している.これは,当時の厚生省が死亡診断書の改訂を行い「死亡の原因」欄に「I欄、II欄ともに疾患の終末期の状態としての心不全、呼吸不全等は書かないでください」との注意書きを記載したことによると考えられる11).また,1993年11月8日の朝日新聞夕刊にも「心不全では通りません 死亡診断書 初の大幅改訂12)」という表題で大きく取り上げられている.

 実際,1993年には男子51,362人,女子57,103人だったものが1994年には男女それぞれ37,536人,42,266人と急激に死亡者数が減少した.そして,1995年には男子16,627人,女子19,552人と更に減少した.しかし,それを底に1996年には男子18,076人,女子21,851人と増加に転じている(図6).

 2) 心不全と他の疾病との関連

 死亡者総数が変わらないのであるから,心不全の減少は他の疾病による死亡者数の増加につながるはずである.虚血性心疾患,脳血管疾患,悪性新生物など心不全の減少に関連があると推定される疾病による死亡者の年次推移を図7~9に示す.図を一見してわかるとおり,いずれの疾病でも1993年から1994年にかけて増加している.このことから心不全の減少がこの3つの疾病の増加に関連しているだろうと推定できる.また,年次推移を見る限り,糖尿病と腎不全の死亡者数にも影響している可能性も否定できない(図1,図2).

図6.心不全死亡者数の年次推移

図7.虚血性心疾患死亡者数の年次推移

図8.脳血管疾患死亡者数の年次推移

図9.悪性新生物死亡者数の年次推移

 3) 都道府県別指数

 心不全による死亡者数の1996年以降の増加は地域により異なる.1993年における各都道府県の心不全による死亡者数を1とした指数での年次推移を図10に示した.

 東京は全国と同様の傾向を示しているが、必ずしも全国と同様の傾向とはなっていない地域もある。男子では,神奈川と秋田の増加が大きく,女子では神奈川と北海道の増加が目立つ.高齢化の程度は地域により異なるが,この増加の差についての理由は不明である.

図10.心不全死亡の都道府県別指数(上:男子,下:女子)

 

 4) 心不全と虚血性心疾患の平均死亡率比

 2)で示したとおり,心不全の減少と虚血性心疾患の増加には関連があることが推定される.そこで,この2つの死因による平均死亡率比の都道府県マップを男女別に図11に示した.マップを見ると,心不全の少ない地域で虚血性心疾患が多いとは必ずしも言えないようで,心不全も虚血性心疾患も多い地域,心不全も虚血性心疾患も少ない地域などが見られる(表2).宮崎を除く九州地方において,心不全と虚血性疾患の平均死亡率が低い傾向が見られる.

図11.心不全と虚血性心疾患のマップ

表2.心不全と虚血性心疾患の都道府県別平均死亡率比(2013-15年,15歳階級別)

  心不全 虚血性心疾患
男子 女子 男子 女子
高-高 和歌山 1.27 ( 4) 1.30 ( 2) 1.40 ( 4) 1.40 ( 3)
高知 1.28 ( 3) 1.26 ( 4) 1.14 ( 9) 1.17 ( 8)
高-低 愛媛 1.57 ( 1) 1.44 ( 1) 0.75 (37) 0.78 (36)
秋田 1.41 ( 2) 1.27 ( 3) 0.57 (45) 0.63 (44)
低-高 栃木 0.79 (44) 0.82 (44) 1.59 ( 1) 1.59 ( 1)
東京 0.75 (46) 0.77 (46) 1.43 ( 2) 1.39 ( 4)
低-低 福岡 0.78 (45) 0.79 (45) 0.65 (42) 0.75 (39)
熊本 0.80 (43) 0.85 (41) 0.56 (46) 0.61 (47)
佐賀 0.85 (40) 0.87 (39) 0.58 (44) 0.63 (46)

カッコ内は都道府県別の順位

 

 5. 骨腫瘍

 骨腫瘍は,1955年から1967年までは基本分類196の「骨の悪性新生物(顎骨を含む)」,1968年から1978年までは基本分類170の「骨の悪性新生物」, 1979年から1994年までは三桁基本分類170の「骨及び関節軟骨の悪性新生物」,1995年以降は三桁基本分類C40の「肢の骨及び関節軟骨の悪性新生物」とC41「その他及び部位不明の骨及び関節軟骨の悪性新生物」の合計値として分類されている.

 骨腫瘍による死亡者は1955年の男子470人,女子341人からはじまり男子では1963年の639人,女子では1962年の489人をピークに,その後は順調に減少し,2003年に男子193人,女子164人となる.それが,2004年に男子378人,女子240人,2005年には男子535人,女子369人と急増する.しかし,2006年には急減し男子214人,女子170人と2003年の水準に戻る(図12).このことから,2004年と2005年の死亡数が異常であろうことが推定できる.骨腫瘍も悪性新生物に分類されるのであるから,このような急増急減が起こることは考えにくい.この時期にICDの変更も行われてはいない.政府統計の総合窓口「e-Stat」に掲載されている2004年と2005年の人口動態統計を見ても2017年7月14日現在,この情報の修正は行われていない.また,WHOが2016年9月15日に公表している情報をみても同様の値が計上されている.

 

図12.骨腫瘍死亡者数の年次推移

 WHOで公表されている情報からコードC410に計上されている死亡者数をみると表3の様になっている.一見して骨腫瘍の増減については,このC410の増減が大きく寄与していることがうかがえる.C410には「斜台部脊索腫,上顎悪性エナメル上皮腫,上顎骨悪性腫瘍,上顎骨骨肉腫,上顎骨軟骨肉腫,頭蓋骨悪性腫瘍,頭蓋骨骨肉腫,頭蓋底骨肉腫,頭蓋底軟骨肉腫,副鼻腔軟骨肉腫」が含まれるが,これらの死因による死者が急増急減するとは到底考えられない。WHOの情報は国際的に広く公開されている,この情報の齟齬に関しては早急に原因を究明し,今後の再発防止を図る必要があろう.また,必要に応じて情報の誤りを訂正できるよう,「人口動態調査死亡票」を電子化し保存していくことも重要であると思われる.

表3.C410に計上されている死亡者数

年次 死亡者数
男子 女子
2002 22 20
2003 13 18
2004 134 87
2005 312 197
2006 25 15
2007 17 18
2008 23 23

 

結論

 東京都健康安全研究センターで開発している疾病動向予測システムを用いて,死因統計分類の変更や死亡診断書の改訂が人口動態統計に及ぼす影響について考察した.日本でICD8からICD9への変更が行われた1979年と,ICD9からICD10への変更のあった1995年に,糖尿病による死亡者数の大幅な変動がみられる.このように使用するICDの変更に起因する死亡数の変動は,腎疾患において日本のみならずアメリカ,フランス,オランダ,スウェーデンなどでも観測される.日本では,死亡診断書の改訂が1993年に行われた.この改訂により心不全による死亡者数が約30%も減少した.ICDや死亡診断書の改訂を行う際には,人口動態統計に与える影響を十分考慮して改訂を行う必要があろう.

 

参考文献

1) WHO:Health statistics and information systems WHO Mortality Databaseホームページ:http://www.who.int/healthinfo/mortality_data/en/(2017年7月14日現在,なお本URLは変更または抹消の可能性がある)

2) 東京都健康安全研究センター:SAGE(疾病動向予測システム)ホームページ:http://www.tokyo-eiken.go.jp/sage/(2016年7月14日現在,なお本URLは変更または抹消の可能性がある)

3) 池田一夫,竹内正博,鈴木重任:東京衛研年報,46, 293-299, 1995.

4) 池田一夫,上村 尚:東京衛研年報,49, 321-328, 1998.

5) 池田一夫,上村 尚:人口学研究,30, 70-73, 1998.

6) 倉科周介,池田一夫:日医雑誌, 123, 241-246, 2000.

7) 池田一夫,矢野一好:東京衛安研セ年報,57, 395-400, 2006.

8) 倉科周介:病気のなくなる日−レベル0の予感−, 1998, 青土社, 東京.

9) 厚生省大臣官房統計情報部:人口動態統計100年の歩み,2000, 厚生統計協会,東京.

10) 厚生省大臣官房統計情報部人口動態統計課:第10回修正死因統計分類(ICD-10)と第9回修正死因統計分類(ICD-9)の比較:http://www.mhlw.go.jp/toukei/sippei/icd.html(2017年7月14日現在,なお本URLは変更または抹消の可能性がある)

11) 厚生省大臣官房統計情報部人口動態統計課:死亡診断書等の改訂(案)について,厚生の指標,41(4),20-25,1994.

12) 朝日新聞夕刊1993年11月8日.

13) e-Stat政府統計の総合窓口:https://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/eStatTopPortal.do(2017年7月14日現在,なお本URLは変更または抹消の可能性がある) 

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