研究年報 第52号(2001) 和文要旨

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和文要旨
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Ⅰ 感染症等に関する調査研究

同時期に発生したコアグラーゼIV型黄色ブドウ球菌食中毒2事例について

 2000年4月に東京都内でコアグラーゼIV型黄色ブドウ球菌による食中毒2事例が発生した.原因食品は,仕出し料理および仕出し弁当であった.本菌型による食中毒が稀であることに加え,発生時期もほぼ同じであったことからdiffuse outbreakの可能性を考慮し,細菌学的疫学解析を行った.両事例由来株は,いずれもエンテロトキシンA産生菌株で,うち1事例では食品残品からエンテロトキシンAが2〜16ng/g検出された.またPFGE解析では,各事例毎でDNAパターンはそれぞれ同一であったが,2事例間では明らかに異なっており,diffuse outbreakの可能性は否定された.
黄色ブドウ球菌,ブドウ球菌食中毒,コアグラーゼ,エンテロトキシン,ポリメラーゼ連鎖反応,パルスフィールドゲル電気泳動

  

循環式浴槽水からのMycobacterium aviumの検出ならびに分離株のRFLP解析の試み
 M.aviumは,エイズ患者における日和見感染,家庭用循環式浴槽水の汚染とそれに起因する皮膚感染症事例などにより,近年注目されている.今回我々は循環式浴槽水からのM.aviumの検出と,IS1245をプローブとしたRFLP法による分離株の分子疫学的解析を試みた.浴槽水39試料中,抗酸菌は10試料(うちM.aviumは4試料)から検出された.今後,循環式浴槽水中のM.aviumに対して監視強化と注意喚起が必要である.M.avium分離株及び保存株のRFLP解析ではバンド数は1-19本に分布し,本法の疫学マーカーとしての有用性が示唆された.

トリ型菌,トリ型菌群,レジオネラ属菌,浴槽水,RFLP解析,挿入配列IS1245

 

東京都におけるノーウォーク様ウイルス(NLV)の遺伝子解析
 平成11年度の東京都内で発生した食中毒および関連事例の行政検査の中から,疫学情報が得られ,かつノーウォーク様ウイルス(以下NLVと略)が検出された61事例を対象にNLV遺伝子の解析を検討したところ,検出されたNLVの8割は,G2群の由利/95株(31%),ローズデール/93株(22%),東京/99株(16%)とメキシコ/89株(15%)の主要4サブタイプに分類された.NLVのサブタイプの出現頻度と発生時期・規模・場所・潜伏時間の発生要因との関連性は認められなかった.

ノーウォーク様ウイルス,急性胃腸炎,遺伝子の多様性

 

呼吸器系感染症における起因ウイルスの検出状況について
 2000年11月から2001年5月までに搬入された呼吸器感染症患者臨床検体を対象とした起因ウイルスの検査に,新たに開発したRT-PCR法を導入して比較検討した.遺伝子検査ではインフルエンザウイルスが23.7%と最も多く検出され,次いでアデノウイルス(19.3%),RSウイルス(9.0%)が検出された.しかし,従来から実施しているウイルス分離試験では,インフルエンザウイルス,アデノウイルスは分離されたが,RSウイルスは生存温度条件が厳しく分離されなかった.また,インフルエンザウイルスは2月以降に多く検出されたが,アデノウイルスは検査期間を通して持続的に分離された.一方,RSウイルスは11月から1月のシーズン早期に1歳以下乳幼児の下気道炎から多く検出されるという特徴が認められた.

呼吸器感染症,インフルエンザウイルス,RSウイルス,アデノウイルス,ウイルス分離,RT-PCR

 

東京都におけるデングウイルス検出状況
 平成12年度感染症発生動向調査においてデング熱疑いの患者18名の血清を対象に,デングウイルスに対する抗体検査と病原体検査を実施したところ,デング熱患者7名が確認された.この7名は全員,東南アジア等の海外渡航歴があり,輸入感染症例であった.また,病原体が検出されなくても,血清中の中和抗体価を測定することにより,血清型別が可能であるか否かを検討したところ,デングウイルスの血清型別が可能であり,その有用性が確認された.

デング熱,デングウイルス酵素抗体法,RT-PCR法,中和抗体

  

1996〜2001年におけるサケ・マス類からのアニサキスⅠ型幼虫の検出状況
 近年,低温・広域流通の発達によりサケ・マス類の生食を原因としたアニサキス症が増加傾向にある.1996〜2001年の5年間にわたるアニサキス寄生状況の調査から,輸入サケ・マス類において,アラスカ産の天然シロザケとベニザケではアニサキスの寄生率が90%以上であった.しかし,冷凍したものから摘出されたアニサキスは全て死滅しており,養殖したものからは全くアニサキスが検出されなかった.国産サケ・マス類においては,シロザケから92%と高率にアニサキスが検出され,さらに,アニサキスはその80〜90%が通常食する筋肉部に寄生していた.また,低真空走査型電子顕微鏡は従来必要とされた試料の臨界点乾燥などの前処理を必要としないため,アニサキスの微細形態の観察・同定を迅速に行うことが可能である.
アニサキス,アニサキス症,サケ・マス類,検出率,低真空走査型電子顕微鏡

 

Ⅱ 医薬品等に関する調査研究

医薬品製造所における洗浄バリデーション事例
 都内医薬品製造所において医薬品製造工程における洗浄等の作業の妥当性を検証した事例を3例報告する.液体製剤(殺菌消毒剤),水に難溶性成分を含有する固形製剤(錠剤)及び液体製剤(注射剤)の製造工程を対象にスワブ法,最終リンス法により洗浄効果の確認を行った.主剤及び洗剤の残留,エンドトキシンの有無を滴定法,HPLC法,吸光度法及びエンドトキシン試験により確認した.バリデーションシステムが完了していると思われた製造所においても分析法等に問題が見いだされ,改善の余地が認められた.
洗浄バリデーション,医薬品製造所,製造管理,品質管理

 

毒劇物による事故の対処法 −毒物デ−タ集−
 毒物劇物による事故が発生した場合,健康被害及び環境被害を最小限にくいとめるには原因物質の確認が急がれる.毒物劇物による事故検体の試験依頼があった場合迅速に対応するため,「毒物及び劇物取締法」により「毒物」と指定されている化学物質について各種の情報を収集した.収集した情報は物理的及び化学的性状,注意事項,毒性データ,検出方法,廃棄及び中和方法,漏洩時の処理,中毒発現機序,急性症状,応急処置などのデ−タで,収集結果はアクセスのテ−ブルに保管した.
毒物及び劇物取締法,毒物による事故,検出方法

 

痩身を標榜する健康茶から検出された医薬品成分について
 昨年,試供品として街頭で配布されていた健康茶を飲み,健康被害を被ったという情報が東京都に寄せられた.当所で試験を行った結果,医薬品成分であるセンナの葉が検出されたことから,当該品は薬事法違反として行政上の指導を受けるに至った.本報では,その試験の経緯を報告するとともに,センナの瀉下成分であるセンノシドA(SA)及びセンノシドB(SB)を情報提供者が実際に摂取した量を類推するために,センナ葉の切度及び粉末度と抽出法から考察を加えたので,併せて報告する.
センナ,センノシドA,センノシドB,総センノシド,抽出率,摂取量,健康茶,痩身

  

原料生薬に含まれる有害物質の実態調査(第4報) −タイソウについて−
 生薬として使用頻度の高いタイソウについて有害性物質の調査を実施した.ヒ素及び金属元素含有量は,本来的に含まれている一般的な量と考えられた.また,放射能,カビ毒については特に問題は認められなかった.残留農薬については有機塩素系殺虫剤のジコホールやDDTが検出された.特にジコホールの検出頻度が高かった.

タイソウ,ナツメ,生薬,漢方薬,重金属,放射能,カビ毒,残留農薬

  

Ⅲ 食品等に関する調査研究

ジャム及びマーマレード中のサッカリン及びズルチンのHPLC分析
 ジャムやマーマレードなど糖度の高い食品中のサッカリンナトリウム及びズルチンを,同時に測定するための最適な透析条件を検討し,これらの分析法の改良を試みた.透析内液量を50mLとし,透析開始1時間後に撹拌し,それ以後は2時間毎に2回以上撹拌することで,糖度の増加に伴っておきる回収率及び再現性の低下を防止できた.ズルチンは,検出波長を243nmにすることで高感度で測定できた.本法は,糖度の高い食品中のサッカリンナトリウム及びズルチンの分析法として有効に使用できると考える.
サッカリン,ズルチン,透析法,液体クロマトグラフィー,ジャム,マーマレード

 

保存容器への食品中のパラオキシ安息香酸エステルの吸着
 醤油に添加した10種の保存料のプラスチック製容器7種への吸着について検討したところ,パラオキシ安息香酸イソプロピル,プロピル,イソブチル及びブチルでエチレン酢酸ビニル樹脂(EVA)製容器への吸着が見られた.パラオキシ安息香酸エステルのEVA製容器への吸着はエステルの疎水性に起因し,疎水性の高いほど吸着が多く,又,吸着率は5°Cより25°Cで増加し,保存温度により大きな影響があった.
プラスチック製容器,エチレン酢酸ビニル樹脂,パラオキシ安息香酸エステル,保存料,吸着,食品

 

HPLC-ECDによる缶入り飲料中のビスフェノールAの分析
 缶入り飲料中のビスフェノールA(BPA)のHPLC-ECDによる分析法を検討し,市販品に適用した.試料をGL-Pak PLS-2カートリッジにより固相抽出した後,Sep-Pak NH2カートリッジによりクリーンアップを行い,HPLC-ECDで分析することができた.検出限界は,コーヒーで5.0ng/g,果汁飲料で2.0ng/gであった以外は,1.0ng/gであった.本法を用いて市販の缶入り飲料54銘柄を分析したところ,13銘柄から1.2~6.0ng/gのBPAが検出された.缶胴の内面コーティングがエポキシ系樹脂であり,さらに加圧加熱殺菌されたものでBPAの検出率が高かった.缶胴の内面コーティングにエポキシ系樹脂が用いられているコーヒー飲料と紅茶飲料を65°Cで28日間保存したが,保存中に飲料中へのBPAの移行はみられなかった.
ビスフェノールA,電気化学検出器,高速液体クロマトグラフィー,缶入り飲料,エポキシ樹脂,塩化ビニル樹脂,ポリエチレンテレフタレート

 

オイスターソースの衛生化学的調査
 オイスターソース12試料について衛生化学的調査を行った.食品添加物では日本語表示がない1試料からソルビン酸0.46g/kgが検出され,また9試料からプロピオン酸(PA)0.007-0.11g/kgが検出された.VBNは4.5-140mg%検出され,不揮発性アミン(NVA)ではヒスタミンとチラミンが比較的高濃度で検出されるものがあった.ヒ素及び重金属は原料由来と考えられ,PA,VBN,NVA含量の高い試料は重金属類含有量も高い傾向があり,原料のカキエキス含量を反映するものと考えられた.

オイスターソース,ソルビン酸,プロピオン酸,エチルアルコール,揮発性塩基窒素,不揮発性アミン,重金属

 

固相抽出法による柑橘類,バナナ及び濃縮果汁中の防かび剤の簡易系統分析法
 固相抽出カートリッジを使用し,柑橘類,バナナ及び濃縮果汁中の防かび剤(オルトフェニルフェノール(OPP),ジフェニル(DP),チアベンダゾール(TBZ)及びイマザリル(IMZ)のHPLCによる簡易系統分析法を検討した.試料中の防かび剤はアルカリ性下で酢酸エチルで抽出した後,ミニカートリッジ(Mega Bond Elut SI + Bond Elut Jr. SCX)に負荷し,非吸着分画(OPP,DP)及びSCXカートリッジに保持された分画(TBZ,IMZ)を各々HPLCにて測定した.本法による4種の防かび剤0.01~1.0µg/g添加における回収率は83.4~97.0%と良好な結果が得られた.
ボンドエルートSCX,オルトフェニルフェノール,ジフェニル,チアベンダゾール,イマザリル,柑橘類,バナナ,濃縮果汁,C18ファーストカラム,高速液体クロマトグラフィー

 

既存公定試験法を応用した玄米中シメトリンの分析
 既存のカフェンストロール等告示試験法を応用した玄米中シメトリンの分析法について検討した.その結果,シメトリンの定量限界は0.01ppm,玄米を用いた添加回収実験での回収率は約80%であり,クロマトグラム上に分析を妨害するピークも認められなかった.よって本試験法を利用することでシメトリンを含めた12種の農薬を同時に分析することができ,分析の省力化を図ることができた.
シメトリン,農薬,農作物,ガスクロマトグラフ(GC), アルカリ熱イオン化検出器(FTD),質量分析計(MS), 公定試験法

 

アセトニトリル抽出/ミニカラム精製を用いたGC/MS及びHPLCによる農産物中のN-メチルカルバメート系農薬の分析
 農産物中のN-メチルカルバメ−ト系農薬(NMC)12種について,アセトニトリルで抽出後,C18及びEnvi-Carb/LC-NH2の2種のミニカラムを用いた固相抽出法で精製し,GC/MS及びHPLCにより分析する方法を検討した.GC/MSではメソミル,チオジカルブ,オキサミル以外の9種のスクリーニング法として適用でき,またアイソクラティックによるポストカラムHPLCで11種のNMCの定量が可能であった.回収率はエチオフェンカルブを除きGC/MS及びHPLCとも良好な結果が得られた.
N-メチルカーバメイト系農薬,アセトニトリル抽出,固相抽出法,農産物,ガスクロマトグラフ/質量分析計,液体クロマトグラフィー

 

アセトニトリル抽出/ミニカラム精製を用いたGC/MS及びGCによる農産物中の有機リン系農薬の分析
 有機リン系農薬34種について,農産物を対象にアセトニトリル抽出後,固相抽出法(SPE)を用いて精製しGC/MSによりスクリ−ニングした後,GC/FPDにより定量する方法を検討した.野菜,果実の4農産物を用いた添加回収実験では,一部の低い回収率を示した農薬を除きGC/MS及びGC/FPDいずれも良好な回収率を示した.GC/MSはスクリ−ニング法としてGC/FPDは定量法として使用できることが確認できた.本法は,簡易で有機溶媒使用量も少なく,省スペ−スでの操作が可能な一斉分析法として充分使用できると考える.
農産物,有機リン系農薬,ガスクロマトグラフ/質量分析計,ガスクロマトグラフィー,アセトニトリル抽出,固相抽出

 

牛肉中の残留有機塩素系農薬の実態調査

 国産及び輸入牛肉中の有機塩素系農薬の残留実態調査を実施した.30検体中25検体からp,p’-DDE,p,p’-DDT,ディルドリン及びヘプタクロルエポキサイドが検出された.特にp,p’-DDEは検出率が高く,検出濃度は0.001~0.012ppmであり,低濃度での残留が認められた.食品衛生法の暫定的基準を超えた検体はなかったが,本調査で分析した農薬は内分泌かく乱化学物質の疑いがあるため今後も実態調査を継続する必要がある.

有機塩素系農薬,残留,食肉,牛肉,内分泌かく乱化学物質,ガスクロマトグラフ/質量分析計,選択イオン検出

 

国内産野菜・果実類中の残留農薬実態調査 −平成12年度−
 2000年4月から2001年3月までに都内に入荷した野菜・果実類29種111検体について,慣行栽培品及び無・減農薬栽培品の残留農薬実態調査を行った.慣行栽培野菜・果実類からは有機リン系農薬,有機塩素系農薬,カーバメイト系農薬等17種類が12種21検体から痕跡~2.2ppm検出された残留農薬基準及び登録保留基準を超えたものはなかった.無・減農薬栽培野菜からは,有機リン系農薬,有機塩素系農薬及びカーバメイト系農薬等23種類が19種35検体から痕跡~3.8ppm検出された.このうち,MEPが残留農薬基準を,TPNが登録保留基準を超えていたが,通常の喫食では健康上特に問題はないと考える.
残留農薬,野菜,果実,有機リン系農薬,有機塩素系農薬,カーバメイト系農薬,ピレスロイド系農薬,殺虫剤,殺菌剤,有機栽培

 

輸入農産物中の残留農薬実態調査(有機リン系及び含窒素系農薬) −平成12年度−
 2000年4月から2001年3月に都内の市場等で購入した輸入生鮮農産物等224作物について,有機リン系農薬及び含窒素系農薬の残留実態調査を行った.その結果,18種の作物から有機リン系農薬8種類が15作物から痕跡~2.0ppmの範囲で,また含窒素系農薬9種類が11作物から痕跡~1.6ppmの範囲でそれぞれ検出された.これらの残留農薬量は,アメリカ産ブルーベリーから1.6ppm検出されたシマジンを除き残留農薬基準値,国際残留農薬基準値あるいは各国残留基準値以下であった.
残留農薬,輸入農産物,有機リン系農薬,含窒素系農薬,収穫後使用

 

輸入農産物中の残留農薬実態調査(有機塩素系,N-メチルカーバメイト系農薬及びその他) −平成12年度−
 2000年4月から2001年3月に都内の市場等で購入した輸入生鮮農作物等82種224作物について,有機塩素系,カーバメイト系及びその他の残留農薬の実態調査を行った.有機塩素系農薬では,5種の殺虫剤及び3種の殺菌剤が0.01~2.1ppm検出された.カーバメイト系農薬は,2種の殺虫剤が0.02~0.09ppm検出された.その他の農薬では,4種の殺虫剤,3種の殺菌剤,1種の除草剤及び1種の共力剤が痕跡(0.01ppm未満)~6.5ppm検出された.検出された農薬の種類に地域差はほとんど見られず,輸入される農作物の種類に由来する傾向が認められた.
残留農薬,輸入農産物,有機塩素系農薬,カーバメイト系農薬,殺虫剤,殺菌剤,除草剤,収穫後使用

 

国内産生鮮野菜及び果実中の残留農薬実態調査(平成12年度)
 平成12年度4月から平成13年度3月までに多摩地域で流通していた野菜16種28検体,同地域で生産流通された野菜26種51検体及び果実2種10検体の残留農薬実態調査を行った.有機リン系殺虫剤3種が3種3検体,有機塩素系殺菌剤1種が5種6検体,カーバメイト系殺虫剤1種が2種2検体検出された.検出された農薬は食品衛生法の残留基準が設定されているものはいずれも基準値以下であったが約50%のものが残留基準が未設定のものであった.過去3年間の多摩地域産と他地域産の検出率の比較では,多摩地域産の方が若干低かった.また,年度別の両地域の検出率の推移に特に相関はみられなかった.
残留農薬,野菜,果実,有機リン系農薬,有機塩素系農薬,カーバメイト系農薬,含窒素系農薬,殺虫剤,殺菌剤,除草剤

 

「清浄地域」で栽培された米中のカドミウム,銅,ヒ素濃度
 「清浄地域」で栽培された米を50点分析した.米中のカドミウム濃度(風乾物重量)は平均値0.03mg/kg,中央値は0.02mg/kgであった.また,銅濃度は平均値2.02mg/kg,ヒ素濃度は0.10mg/kgであった.カドミウムの濃度分布は,流通米に比較して「清浄地域」で栽培された米の方が顕著に低濃度側にシフトしていた.しかし,銅,ヒ素については濃度分布の差は小さかった.米中カドミウムのバックグラウンドレベルは,「環境汚染の判断尺度」とされている0.4mg/kg より遙かに低い濃度であり,その約6割は0.02mg/kg以下にあるものと推定した.

バックグラウンド濃度,米,汚染,カドミウム,銅,ヒ素

 

輸入食品中の放射能濃度(第10報) −平成12年度−
 チェルノブイリ原子力発電所爆発事故による放射能汚染食品の実態調査のため,平成12年4月から平成13年3月までに都内で流通していた輸入食品等254試料について放射能濃度を調査した.放射能濃度が暫定限度値370Bq/kgを超えるものはなかったが,5試料が50Bq/kgを超えた.その内訳はトルコ産の紅茶が86Bq/kg,81Bq/kg,イタリア産キノコのポルチーニ(ヤマドリタケ,乾燥)が95Bq/kg,蜂蜜(栗の花)が70Bq/kg及びフランス産キノコのピエ・ド・ムトン(カノシタ,生鮮)が220Bq/kgであった.
チェルノブイリ原発事故,放射能汚染,輸入食品,調査,セシウム,キノコ,紅茶,蜂蜜,ヨウ化ナトリウム検出器

 

乳・乳製品等の苦情事例
 平成12年度に乳肉衛生研究科,乳研究室で検査した乳・乳製品等の苦情検体について苦情内容別に分類した.異味・異臭および外観異常の苦情の多くは,細菌の増殖が原因と考えられた.そこで,細菌が増殖したときの官能試験,pHおよび酸度の結果について,今後の参考となるようにまとめた.また,外観異常の苦情事例として液状になっていたヨーグルトについて紹介した.異物混入の苦情については,3つの事例(ハチミツ中の白い異物,ヨーグルト中の異物,牛乳中の鳥の羽根様異物)を紹介した.
苦情,乳,乳製品,異物

 

食品の苦情事例(1)異物検査法及び検査結果の概要
 平成12年度の食品研究科における,食品の苦情に関する検体数は,前年度比4.2倍の282件であった.その内訳は異物に関する苦情が42%,異味・異臭が34%,その他が24%であった.これらの中の異物では,ネズミの糞や人の毛髪の混入が多く,食品の一部を異物と勘違いしたり,苦情者自身が入れてしまった異物も多かった.また,異物鑑別の検査手法の一部について若干検討し,市販デジタルカメラによる顕微鏡写真撮影方法,ペットボトル中に浮遊する微小異物の採取方法,実体顕微鏡用の簡易暗視野照明装置,簡易な偏光観察方法などを開発した.

食品,苦情,異物

 

食品の苦情事例(2)異物
 平成12年度に食品研究科に搬入された食品に関する苦情件数は,例年に比べて増加した.このうち,特に異物混入に関するものが多く,ネズミの糞,毛髪,カビなどの微生物,金属片や樹脂片など多種多様であった.本報では,平成12年度に食品中に異物が混入しているとして当研究科に搬入された苦情のうち,ネズミの糞と毛,人毛,鉱物,樹脂片及び食品の原材料が異物として見間違えられた事例について報告した.異物は様々な食品から発見されており,その混入物質も多種多様であるが,類似の事例もしばしば発生していることから,データを蓄積し,今後の異物解明の一助としたい.
異物,食品,ネズミ,パン,酒石酸塩,ワイン,走査型電子顕微鏡,フーリエ変換赤外分光光度計

  

食品の苦情事例(3)異味・異臭
 食品から異臭及び異味があるとして食品研究科に搬入された代表的な事例について報告した.すなわち「墨汁臭のしたウォーターサーバー中の水」,「異味,異臭のしたミネラルウォーター」,「石油臭のしたタケノコの惣菜」,「薬品臭のした和菓子」,「異臭のしたタピオカココナツ菓子」について原因解明を行った結果について報告した.異臭事例では何らかの原因物質を予想することが大事で,なるべく多くの情報を収集することが重要である.原因物質が不明の時は,GC/MSで参考品と異なるピークをみつけ,確認することが有効な手段であることが分かった.
異臭,異味,ウォーターサーバー,2-メチルイソボルネオール,ミネラルウォーター,2,4,6-トリクロロアニソール,ガソリン

 

東京都多摩地域における食品の苦情事例
 平成12年度に東京都多摩地域の保健所から当研究室に110検体の苦情食品が持ち込まれた.その内訳は異物59検体(植物性異物9件,動物性異物6件(内毛髪3件),鉱物性異物6件,合成繊維やフィルム等21件,食品成分10件,カビ3件),異臭味49検体であった.食品群別の分類では乳及び乳加工品の苦情が多かった.これらの事例のうち,コンニャクの苦み,紅茶中の綿状物質,くず餅の異物,厚焼き玉子の黒班,牛乳パック中の砂状物質について,その異物の同定及び発生原因の解明に至る経過を報告した.
食品の苦情,異物,コンニャク,紅茶,くず餅,卵焼き,牛乳

 

化学物質及び自然毒による食中毒等事件例(第18報) −平成12年−
 平成12年に発生し原因物質の究明を行った化学性食中毒等の事例のうち,①素人がフグを料理し,肝臓等を摂食したことにより,しびれ,運動麻痺等の症状を呈した食中毒2例.②カジキマグロのヒスタミンにより,顔面紅潮,頻脈,発熱等の症状を呈した有症苦情.③焼きそばに混入した銅により,嘔吐,腹痛,下痢等の症状を呈した食中毒.④ツキヨタケの誤食により,吐き気,嘔吐等の症状を呈した食中毒.⑤オムレツに混入した洗剤により,舌のしびれ,嘔吐等の症状を呈した有症苦情.以上6事例について報告した.
化学性食中毒,フグ,ヒガンフグ,ショウサイフグ,ヒスタミン,銅,ツキヨタケ,洗剤,界面活性剤

 

イワシの蒲焼きによるヒスタミン食中毒
 平成12年10月,都内の社員食堂で127名の患者を出した化学性食中毒が発生した.検査の結果,ヒスタミンが検出され,原因物質はヒスタミン,原因食はイワシの蒲焼きであった.さらに,イワシの残品及び参考品について,318検体を分析したところ,227検体から最高470mg%のヒスタミンが検出された.データ解析したところ,ヒスタミンによる最低発症量は100mg%であると推定された.また,原因食材のイワシは水揚げから真空包装されるまでの過程において衛生管理が不十分であったため,ヒスタミンが生成されたと考えられた.
ヒスタミン,食中毒,イワシ蒲焼き,調査

 

「都民の栄養状況」から算出したビタミン,ミネラル推定量
 栄養所要量の改定に伴い,新しく策定されたビタミン種,ミネラル種の摂取量を明らかにするため,都民の栄養状況から,そのビタミン・ミネラルの摂取量を計算により,推定した.その結果,ビタミンKが296µg,ビタミンB6が1.56mg,葉酸が398µg,ビタミンB12が7.1µg,パントテン酸が7.05mg,リンが1177mg,マグネシウムが300mg,マンガンが3.9mg,セレンが149mg,クロムが126.5µg,モリブデンが264.5µg,を示し,これらすべては栄養所要量を上回った.一方,銅は1.33µg,亜鉛は9.1mgとなり,栄養所要量を下回る結果となった.穀類,豆類,調味嗜好飲料,野菜類,魚介類,肉類は各ビタミン,ミネラルの摂取量に対する寄与率が高かった.
ビタミン,ミネラル,栄養所要量,許容上限摂取量,一日摂取量

 

HPLCによる食品添加物製剤中の5′−リボヌクレオチドの分析
 食品添加物製剤中の5′−リボヌクレオチド(RN:5′-CMP, 5′-UMP, 5′-GMP, 5′-IMP)のHPLC分析法を検討した.カラムにYMC-Pack ODS-AQを,移動相に0.05mol/L TEA(pH5.0,リン酸)−メタノール=100:1を用いたペアードイオンクロマトグラフィーにより良好な結果が得られた.製剤に5′-CMP, 5′-UMP, 5′-GMP及び5′-IMPを添加した際の本法による回収率は,5mg/g添加で5′-CMP 98.5%,5′-UMP 104.4%,5′-GMP 93.1%及び5′-IMP 100.0%であった.本法は,簡単な前操作で,迅速かつ精度良くRNの配合量の少ない製剤の分析ができた.
5′−リボヌクレオチド,食品添加物製剤,高速液体クロマトグラフィー

 

既存添加物増粘安定剤の品質試験
 既存添加物増粘安定剤の品質規格試験を第7版食品添加物公定書あるいは業界自主規格に従って行った.キサンタンガム,カロブビーンガム,アルギン酸,ジェランガム,グァーガム,タマリンドシードガム,カードラン計12試料について試験を行った.一部第5版食品添加物公定書の試験法を準用した項目があったが,全ての試料について規格値の範囲内であった.
増粘安定剤,規格試験,既存添加物

 

食品用ポリ塩化ビニル製ラップフィルム中のノニルフェノール含有量及び食品への移行
 市販ポリ塩化ビニル製ラップフィルム中のノニルフェノール(NP)含有量を測定した結果,10検体中9検体から検出され,平均値で730µg/g (330~1,550µg/g)の含有量を示した.フィルムから疑似溶媒への溶出試験では,溶媒の脂溶性が高まるほど溶出量が増加した.また,米飯及びメンチカツを用いたフィルムからのNP移行試験では,使用温度が高いほど,接触時間が長いほど,フィルム中の含有量が多いほど,NPが食品に移行しやすいことが明らかとなった.
ノニルフェノール,ポリ塩化ビニル,ラップフィルム,含有量,移行試験,食品

  

Ⅳ 生活環境に関する調査研究

ヒト爪中の元素含有量(第2報)
 男子個人の手足の爪を2年間毎月採取して,Ca,Cu,Fe,Mg,Mn,Ni,P,Sr,ZnをICP-AESにより測定した.手の爪の元素濃度はCa>P>Zn>Mg>Fe>Cu>Ni>Mn>Srの順に減少し,足の爪の元素濃度はZnとFeが入れ変わった以外は同じ順であった.手の爪はCa-Pの1組の元素で相関があり,足の爪はMg-Ca等8組の元素で相関があった.手足の爪元素の季節変動を検討した.
爪,金属,元素,りん,カルシウム,鉄,銅,亜鉛,マンガン

 

有機スズ化合物の衛生化学的研究(第9報)魚介類中のトリブチルスズ及びトリフェニルスズ化合物含有量(1994-1999)

 1994年度から1999年度の6年間,魚介類(対象数1059検体)中のTBT及びTPTの汚染調査を行った.各年度のTBT平均は1994-1997年度までは0.02ppmで,その後は0.01ppmを推移しており,TPT平均は1996年度の0.03ppmを除いて他の年度はすべて0.01ppmであった.前回の1989-1991年度の調査における各年の平均よりTBTは1/7-1/16,TPTは1/17-1/22まで低下した.これらの結果から,1991年に我が国の化審法で有機スズ化合物の製造・使用の規制が定められた後直ちに日本の海洋環境におけるTBT及びTPT使用量が減少し,海洋環境の汚染の改善が急速に図られたことが読みとれる.強力な法規制による環境改善の有効な結果と考えられる.

トリブチルスズ化合物,トリフェニルスズ化合物,防汚塗料,魚介類,含有量,環境汚染

 

空気中フタル酸エステル類及び有機リン酸エステル類の分析法
 石英及びODSフィルターを用いた捕集法により,空気中のフタル酸エステル類及び有機リン酸エステル類を同時に採取し,分析する方法を確立した.フタル酸エステル類11物質及び有機リン酸エステル類19物質について,回収率は80.3%〜100.8%,検出下限値はフタル酸ジ-n-ブチル(DnBP)15ng/m3,フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)10ng/m3,その他の物質は0.5〜5.0ng/m3であった.上記の方法を用いて,新築直後の木造一戸建て住宅で室内濃度を測定したところ,フタル酸エステル類7種,有機リン酸エステル類8種が検出された.これらのうち,濃度が高かったのは,DEHP(871ng/m3)及びDnBP(1,046ng/m3)であった.
フタル酸エステル,有機リン酸エステル,可塑剤,有機リン系農薬,有機リン系難燃剤,内分泌攪乱化学物質,室内空気,新築住宅

 

トリメチルシリル誘導体化ガスクロマトグラフィー/質量分析法による空気中ビスフェノールAの分析
 空気中ビスフェノールA(BPA)をトリメチルシリル(TMS)誘導体化した後,ガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC/MS法)によって分析する方法を確立した.TMS誘導体化することによりキャピラリーカラムにおける分離性能が著しく向上した.石英及びODSフィルターを重ねて空気中BPAの捕集を行ったところ,BPAは粒子状物質として石英フィルターに捕集され,毎分10Lで24時間(14.4m3)空気を吸引しても破過しないことがわかった.石英フィルターからの添加回収率は平均85.6%,空気中BPAの定量下限は0.07ng/m3であった.本法を適用して外気濃度(1ヶ所)を測定したところ0.42ng/m3であった.一方,室内2ヵ所の空気中BPA濃度は1.19ng/m3から1.85 ng/m3で外気に比較して高濃度であった.
ビスフェノールA,室内空気,内分泌かく乱化学物質,トリメチルシリル化,誘導体化,ガスクロマトグラフィー/質量分析法

 

加熱脱着法による室内空気中有機リン系殺虫剤の微量分析法
 シックハウス症候群の原因物質の一つとして考えられる有機リン系殺虫剤について,少量の空気試料で測定でき,分析操作が簡易な加熱脱着法を検討した.加熱脱着法により空気試料を分析する際に,標準液及び空気採取後の捕集管にジエチレングリコ−ル及びポリエチレングリコ−ルを添加することにより,検量線は安定化し,直線性が得られた.また,添加回収率もほぼ100%となり精度も上昇した.本法は空気中の微量の有機リン系殺虫剤をng/m3レベル(フェニトロチオン 0.31ng/m3,クロルピリホス 0.066ng/m3,ピリダフェンチオン 0.090ng/m3)で検出できる実用的な方法と考える.
加熱脱着,フェニトロチオン,クロルピリホス,ピリダフェンチオン,室内空気,ガスクロマトグラフ−質量分析計

  

室内空気汚染発生源の推定事例 −靴用補修剤からのテトラクロロエチレンの発生−
 建材や内装材(接着剤や塗料を含む)から発生する化学物質が,室内空気汚染の原因になることは知られている.今回,居住者が健康被害を訴える一般住戸の室内空気を分析したところ,比較的高濃度のテトラクロロエチレンが検出された.発生源が建材や内装材ではないことと,この住戸のみ高値を示すことを確認し発生源を調査したところ,家庭内にある用品の靴用補修剤から発生していることが確認された.住戸内に意識されず持ち込まれる用品が化学物質の発生源となり,室内空気汚染を引き起こす可能性があることがわかった.
室内空気,発生源,テトラクロロエチレン,補修剤,家庭用品

 

室内空気中化学物質の実態調査 −平成11年度−
 平成11年11月〜平成12年3月の冬期に,東京都内の住宅(23軒,46室),オフィスビル(12軒,24室)及び外気(35ヶ所)について,ホルムアルデヒド,VOC及びフタル酸エステル類,計19物質の濃度を調査した.室内における各物質の濃度範囲は,ホルムアルデヒド7.0〜125µg/m3,トルエン7.3〜2020µg/m3,エチルベンゼン1.6〜19.7µg/m3,キシレン2.9〜32.0µg/m3,スチレン0.59〜36.6µg/m3,パラジクロロベンゼン1.0〜1150µg/m3,ブタノール
ホルムアルデヒド,揮発性有機化合物,フタル酸エステル類,内分泌攪乱化学物質,室内空気,外気

 

水中農薬の自動固相抽出−HPLC法による分析(II)
 アシュラム,オキシン銅,チウラム,メコプロップ,イプロジオン,ベンスリド,カルベンダジム,シデュロン,チオファネートメチル,ベノミルなどHPLC対象農薬10成分を一斉分析するに当たって,前処理及びその分析手法の検討を行った.自動前処理装置によるオンライン固相抽出法では従来の固相抽出法に比べて一検体あたりに要する試料量が500mlから5mlと少量になっても感度はかわらず,また前処理時間も短縮された.ポリマーカラムによるアイソクラティック法とODSカラムによるグラジエント法の分析においてはグラジエント手法の方が直線範囲,検出限界,再現性ともに良好な結果となった.
農薬,高速液体クロマトグラフィー,固相抽出

 

伊豆諸島の火山・地震活動にともなう水道原水及び水道水中の無機成分の実態調査
 伊豆諸島の火山・地震活動にともなう水道原水および水道水の無機成分の水質実態調査を実施した.三宅島の水道原水で,鉄,マンガン,硬度,色度が水道水水質基準値を超えた.新島の水道原水1地点でヒ素が基準値を超えた時期があった.水道水はすべて基準値の40%以下であった.監視項目では,三宅島の3地点のニッケルが指針値を超えた.同じ調査地点で,火山・地震活動前の測定値と比較し高かった項目は,三宅島の鉛,クロム,カドミウム,硬度,ホウ素,新島のヒ素であった.
無機成分,ヒ素,水道原水,水道水,火山活動,地震,三宅島

 

多摩地域における地下水中の臭化物の実態調査
 多摩地域における地下水中の臭化物の汚染実態を把握するために,井戸水,沢水及び湧水中の臭化物(臭素イオン,臭素酸イオン,臭素化トリハロメタン)の調査を行い,以下の結果を得た. 1) 多摩地域の井戸水中の臭素イオンの検出率は約70%で,平均値は約0.1mg/Lであった. 2) 多摩地域井戸水85件について臭素酸イオンを定量下限値1.0µg/Lまで測定したが検出されなかった. 3) 残留塩素を検出しない井戸水において,濃度は低いが,臭素化トリハロメタンが検出された.
臭化物,臭素酸,地下水,多摩地域

 

水の従属栄養細菌試験における培地並びに培養条件の検討
 現在水の微生物試験に用いられている各種の試験方法における従属栄養細菌の試験方法を基に,従属栄養細菌の計数に及ぼす培地や培養温度,培養期間等の影響について比較検討した.その結果,PGY寒天培地又はR2A寒天培地を用い,25°Cで7日間培養する方法が,下水処理水から給水栓水までの広範囲な水質の水試料における従属栄養細菌試験方法として最も適しているとの結論に達した.またこの結論を以て,JIS規格における新たな従属栄養細菌試験方法として提案した.
従属栄養細菌,PGY寒天培地,R2A寒天培地,標準寒天培地,一般細菌

 

生活用水からのレジオネラ属菌の検出状況 (平成11〜12年度)
 平成11〜12年度に採取した水試料1,080件について,レジオネラ属菌検査を実施した.冷却塔水は,合計412件について試験した.検出菌数をみると,平成11年度は26.5%が,12年度は43.8%が指針値を超えていた.浴槽水は,合計438件について試験した.検出菌数をみると,平成11年度は35.4%が,12年度は32.3%が指針値を超えていた.給湯水は,合計158件について試験し,平成11年度4件及び12年度5件からレジオネラ属菌を検出した.温泉水は,合計21件の調査であったが,検出率は57%を超えていた.今後監視を強化しなければならない施設と思われる.
生活用水,レジオネラ属菌,冷却塔,給湯,温泉

 

水道水並びに水源河川等における原虫類の検出状況 (平成12年度調査結果から)
 平成12年度年に採取した水道原水,浄水,河川水並びに雑用水の原虫類(クリプトスポリジウム,ジアルジア)を調査した.浄水と雑用水では原虫類不検出だった.多摩地区及び島嶼の水道原水から原虫類が初めて検出され,糞便汚染が進行していることが推察された.多摩川上流の河川水から原虫類が初めて検出され,また多摩川下流からわが国の河川水としては最高値の原虫類が検出された.東北地方の水道水源河川,多摩川並びに淀川水系での原虫類の検出状況から,2001年1〜2月頃に全国的な原虫感染の増加があった可能性が示唆された.
クリプトスポリジウム,ジアルジア,原虫,水道水,水道原水,河川水,表流水,糞便汚染指標細菌

 

放線菌を原因とするウォーターサーバーのかび臭発生事例

 業務用のミネラルウォーターを用いたウォーターサーバーのかび臭苦情(墨汁臭)の発生原因を調査した.当該装置内に残存していた水から放線菌が検出され,この放線菌の培養試料からGC及びGC/MS分析によって本件苦情の原因と同じかび臭原因物質の2-メチルイソボルネオールが同定された.このことから,この放線菌がかび臭の原因生物と判明した.分離された放線菌は70°Cよりも低い温度ではほとんど殺菌できず,当該装置の除菌システムが正しく作動していなかったか,除菌処理の条件が不適当であった可能性が示唆された.

かび臭,放線菌,2−メチルイソボルネオール,ウォーターサーバー,ミネラルウォーター

 

Ⅴ 毒性に関する調査研究

食品添加物のエームス試験における既知変異原の変異原性に対する影響(第3報)

 58種の食品添加物について4種の既知変異原の変異原性に対する影響についてエームス試験を用い検討した.4種の既知変異原は4-ニトロキノリン-1-オキシド(4NQO),フリルフラマイド(AF-2),ベンツ(a)ピレン(BP)及びトリプ-P-1(T-P-1)である.エームス試験系にこれらの変異原と食品添加物を加えることにより変異原性が増加または減少した化合物は6化合物であった.過酸化水素は,4NQOの変異原性を増強した.バニリンは,4NQO,AF-2,BP及びT-P-1の変異原性を抑制した.パラヒドロキシ安息香酸エチル,パラメチルアセトフェノン及びピペロナールはT-P-1の変異原性を抑制した.l-メントールはT-P-1の変異原性を増強した.

抗変異原性,助変異原性,食品添加物,エームス試験

 

天然添加物フェルラ酸のF344ラットによる亜慢性毒性試験
 天然添加物フェルラ酸の添加飼料(0,0.32,0.8,2.0及び5.0%)をF344ラットに13週間投与し,亜慢性毒性を検討した.高濃度群の平均体重,摂餌量及び摂水量は対照群よりも有意に低く,5%群ラットでは脱毛が観察された.生化学検査で5%群雌雄にALB,ALP及びAMYの有意な増加が認められ,病理学検査で5%群雌雄に耳下腺腺房細胞の軽度萎縮,大腿骨骨端部の骨梁減少,大腿骨骨幹皮質骨の厚さの減少,5%群雄に精巣精上皮の変性が認められた.これらの変化は,用量相関性を示さなかった.

フェルラ酸,亜慢性毒性試験,F344ラット,天然添加物,酸化防止剤

  

小柴胡湯のF344ラットによる13週間毒性試験

 漢方方剤である小柴胡湯のF344ラットによる13週間毒性試験を行った.実験は雌雄,一群,各10匹を用い,小柴胡湯を0(対照群),0.2,0.8,3.2%の割合で添加した飼料を摂取させた.飼料中濃度0.2%は成人の一日薬用量に相当する.投与期間中の一般症状,体重変化,摂餌量及び摂水量には異常はなく,また死亡例もなかった.投与終了後の血液及び血清生化学的検査,臓器重量及び組織学的検査結果には,いずれも投与に関連した変化は認められなかった.以上の結果から小柴胡湯は最高濃度の3.2%,すなわち一日被験物質摂取量として雄2019,雌2104mg/kg体重の用量での13週間投与によっても障害作用は認められず,安全性は高いものと考えられた.

漢方薬,小柴胡湯,13週間投与試験,ラット

  

哺乳期マウスの子宮及び膣の微細構造に及ぼすエストラジオールの影響

 内分泌かく乱化学物質の生体影響について,光学顕微鏡では観察が困難な所見を電子顕微鏡で検索した.エストロゲン作用を持つエストラジオールの子宮及び膣の微細構造に及ぼす影響を哺乳期マウスで対照動物と比較した.子宮では粘膜上皮細胞の背高の伸長や多列化,微絨毛の伸長,更に子宮腺では肥大や円柱上皮の多列化がみられた.膣では上皮の角化を伴った重層化が認められた.ケラトヒアリン顆粒の蓄積や有棘細胞で多数の細胞間橋の形成,張原線維の発達がみられた.これらの変化を観察することは,内分泌かく乱作用が疑われる物質の低用量域での検索及び作用機序の解明に有用と考えられる.

エストラジオール,子宮,膣,マウス,電子顕微鏡観察

 

Ⅵ 公衆衛生情報に関する調査研究

日本における栄養摂取と生活習慣病との相関分析
 死因と栄養指標との相関分析を行った.相関係数の絶対値が0.5以上だった組み合わせは,脳血管疾患-食塩相当量(男子 0.50,女子 0.57),脳血管疾患-トリグリセライド(男子 -0.53),脳血管疾患-食物繊維(女子 0.53)などであった.食生活の変化による増加が指摘される結腸癌や乳癌との相関係数の絶対値が0.4を越える栄養因子は,結腸癌-動物性タンパク質(男子 0.41)と結腸癌-動物性脂肪(男子 0.45)だけであった.
生活習慣病,栄養摂取,人口動態統計,SAGE,死亡率比,平均死亡率比

 

消耗品予算執行管理オンラインシステムの構築
 平成12年度から運用している毒劇物・危険物管理システムを大幅に拡張して,消耗品予算(一般需用費)を執行するすべての物品等を対象に,請求,決裁,契約,納品,予算執行を支援する消耗品システムを構築し,平成13年度より運用を開始した.用度係での契約事務量の削減に顕著な効果があった.また,会計係へ予算執行額を,研究部門へ納入状況および予算執行額を提供することで,より確実な予算管理が可能となった.
消耗品,発注システム,データベース管理システム,予算管理

 

Ⅶ 精度管理に関する調査研究

 

平成12年度東京都食品衛生検査施設GLP内部点検調査報告
 東京都食品衛生検査施設に対する信頼性確保部門の業務の一つとして,平成12年度は衛生研究所22,市場衛生検査所16,芝浦食肉衛生検査所2,食品環境指導センター2,東京都保健所12の合計54施設を対象に,GLP内部点検(収去点検を含む)を実施した.各施設とも10,11年度に比べGLPの推進に一層の理解と努力がみられ,37施設において改善措置の要請をしなかった.改善措置が必要とされた施設においても,ほとんどの場合が書類についての記入や訂正方法の不備であり,これらの点で一層の注意,努力が必要とされるものの,全般的には良好と判断された.
適正管理運営基準,内部点検,信頼性確保部門

 

東京都環境放射線測定サイト 東京都感染症情報センター 東京都健康安全研究センターサイト
(このホームページの問い合わせ先)
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また、個別にお答えしかねる場合も
ありますので、ご了承ください。
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