研究年報 第65号(2014) 和文要旨

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総説

東京都におけるカビ毒に関する調査研究

 東京都では,我が国で初めてのカビ毒への規制としてアフラトキシンB1に対する規制値が設定されて以来,継続してカビ毒に関する調査研究を行ってきた.まず,アフラトキシン,パツリン,オクラトキシン,シトリニンについて,定量と確認を含んだ回収率,感度,精度,選択性の良好な分析法を開発した.次に,これらの方法を用いて,国内のカビ毒汚染調査を行った.その結果,国内に流通するソバ,ハトムギ,白コショウ,唐辛子等にアフラトキシン汚染があることを初めて明らかにした.また,市販リンゴジュース,国産リンゴから初めてパツリンを検出し,国内でパツリンの自然汚染が起きていることを明らかにした.本稿では,これまでに東京都が行ってきたカビ毒に関する調査研究について述べる.

カビ毒,分析法,汚染実態調査,アフラトキシン,パツリン,オクラトキシン,シトリニン,デオキシ ニバレノール,フモニシン,TLC,HPLC,GC-MS,LC-MS/MS

 

東京都における環境放射能調査

 東京都健康安全研究センターは,昭和32年に開始された国の放射能調査の調査機関の一つとして参加して以来,現在に至るまで東京都の環境放射能汚染の現状把握に関与してきた.今回,これら長年にわたる東京都の調査結果及び当時の資料をもとに当センターの環境放射能調査の概要についてまとめた.また,福島原発事故で直面した東京都の環境放射能調査のいくつかの課題に対する当センターの取り組みを紹介する.
 昭和32年に放射能調査が開始された時期は,数多くの大気圏内核実験が米ソによって行われており,東京都では最初の調査で大根葉や煎茶から放射性核種が検出された.昭和34年度の調査では,大島町で採取した天水から飲料水の許容量を上回る放射能が検出されたため,住民に対して天水ろ過装置の使用を指導した.以降,部分的核実験禁止条約が締結された後は中国の核実験に合わせしばしば放射性物質が検出されたが放射性降下物は次第に減少して行った.
 2011年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故は,日本で初めての大規模な原発事故であり,環境中に放出された放射性核種は東京まで到達して環境放射能汚染をもたらした.原発事故の影響調査にあたり,まず最初に技術系職員の養成が急務となり,技術研修やOJTにより対応した.また,モニタリングポストの測定値の信頼性に関する一般都民の疑問に対しては,種々の検証結果を公表するなど対応に努めた.

環境放射能,大気圏内核実験,チェルノブイリ原子力発電所事故,北朝鮮地下核実験,福島第一原子力 発電所事故,降水,全ベータ放射能,ゲルマニウム半導体検出器,核種分析,放射化学分析

 

 論文Ⅰ 感染症等に関する調査研究

平成23年度から25年度に搬入された薬剤耐性結核菌の遺伝子型解析と薬剤感受性パターン
 平成23年度から25年度に薬剤耐性結核菌監視事業で当センターに搬入された薬剤耐性結核菌74株(SM耐性菌23株,INH耐性菌17株,INH及びSM耐性菌16株,多剤耐性菌16株,EB,RFP耐性各1株)の遺伝子型並びに薬剤感受性について調査を実施した.このうち41株はVNTR法による遺伝子型解析で9のクラスターに分類された.最大クラスターはSM耐性を示す14株で,過去に分離された同一VNTR型のSM耐性菌40株ともほぼ同一の特徴であった.2番目に大きなクラスターはINH単独あるいはINHとSM両剤に耐性の9株であった.第3のクラスターはINH単独耐性の4株,第4,第5 のクラスターはINHとSM両剤に耐性のそれぞれ3株,第6のクラスターはINH単独耐性の2株,第7,8のクラスターはSM単独耐性の2株,クラスター9は多剤耐性の2株であった.クラスターを形成しない株は33株であった.
薬剤耐性結核菌監視事業,薬剤感受性試験,遺伝子型,VNTR法,クラスター形成

 

2ndリアルタイムPCRを用いたノロウイルス陽性確認方法に関する検討
 ノロウイルス(NoV)による食中毒の調査では,食品や施設の拭き取り検体についてもNoV検査が行われるが,これらの検体に含まれるNoVは極めて微量であるため検出し難い.また,リアルタイムPCRの定量値が低い場合は精度の信頼性に欠けることも指摘されており,得られた結果の確認検査法を含めてさらなる検討が求められている.我々は,より効率的にNoVを検出するために,食品や拭き取り検体の新たなNoV検査法を開発し,2ndリアルタイムPCRを用いて確認検査を実施してきた.しかしながら,リアルタイムPCRによる実測値では陽性判定であっても,確認検査では陰性となる検体も多く確認されてきた.そこで,2ndリアルタイムPCRに適した試料の作製法ついて検討した.試料A~D(試料Aは従来の試料であり,35サイクルの増幅反応により得られた産物,試料Bは試料Aを10倍に希釈したもの,試料Cは20サイクルの増幅反応により得られた産物,試料Dは試料Cを10倍に希釈したもの)を作製し,2ndリアルタイムの結果を比較した.その結果,試料Aを用いた場合には,20検体中8検体のNoV陽性が確認されたのに対し,試料Bでは18検体が陽性となった.また,試料Bを用いて2nd PCRを行ったところ,すべての検体で増幅産物を得られ,遺伝子解析を実施することが可能であった.以上のことから,2ndリアルタイムPCRによる確認検査や遺伝子解析を行うための2nd PCRでは,増幅産物を希釈して用いることで,安定した結果が得られることが示唆された.
ノロウイルス,2ndリアルタイムPCR,食品,拭き取り,確認検査,食中毒

 

東京都における風しんウイルスの検出状況について(2012-2013年度)

 東京都では2010年から積極的疫学調査事業として麻しんの全数検査を実施しており,遺伝子検査において麻しんウイルスが陰性と判断された場合,類似感染症の鑑別目的で風しんウイルスの遺伝子検査を行っている.2011年度以前に風しんウイルスはほとんど検出されていなかったが,2012年度においては麻しんの積極的疫学調査検体から風しんウイルスの検出が増加した.さらに積極的疫学調査以外でも風しんを疑う検体が多く搬入され,6月以降に風しんウイルス陽性件数も大きく増加した.2013年度に入っても同ウイルスの検出は続き,陽性数は4月にピークとなり,その後も一年を通じ検出が見られた.
 2012~2013年度に搬入された風しんを疑う検体について,風しんウイルスの遺伝子検査を実施した結果,9割以上 が遺伝子型2Bで占められており,陽性患者数の内,半数以上は20代から40代の男性であった,またワクチン接種率と陽性患者数間にはある程度の関連性が認められ,風しんのまん延防止にはワクチンが有効である可能性が改めて示唆された.

風しん,遺伝子検査,遺伝子型別,2B,1E,流行,2012年度,2013年度,ワクチン接種率

 

 論文Ⅱ 医薬品等に関する調査研究

平成25年度薬物分析調査について

 平成25年度に行った流通製品中における向精神作用を有する薬物の調査結果を報告する.薬物の分析は,主にフォトダイオードアレイ検出器付液体クロマトグラフィー(LC/PDA),電子イオン化質量分析計付ガスクロマトグラフィー(GC/EI-MS)を用い,必要に応じて高分解能質量分析法(TOF/MS)及び核磁気共鳴(NMR)スペクトル測定法にて構造解析を行った.調査した119製品の全ての製品から総計で41種の薬物が検出され,そのうち新たに検出された薬物(新規未規制薬物)は27種,薬事法指定薬物は10種であった.
 新規未規制薬物27種の内訳は,フェネチルアミン誘導体4種(25I-NBOMe, 5-APDB, 5-MAPB, 2-MAPB),カチノン誘導体12種(α-PPP, α-Ethylaminovalerophenone, α-PHP, α-PHPP, α-POP, 4-Methyl-α-ethylaminovarelophenone, 4-Fluoro-α-PVP, 4-Fluoro-α-PHPP, 4-MeO-α-PVP, 4-MeO-α-PHPP, 3,4-Dimethoxy-α-PVP, 3,4-Dimethoxy-α-ethylaminovarelophenone),合成カンナビノイド9種(XLR-12, THJ2201, FUBIMINA, BiPICANA, 5F-AB-PINACA, ADB-PINACA, MN-18, 5F-MN-18, FUBPB-22),その他2種(Diclofensine, Diphenidine)であった. 

危険ドラッグ,指定薬物,薬事法,LC/PDA,GC/EI-MS 

 

化粧品における配合成分の検査結果及びビサボロールの分析条件の検討(平成24年度)
 平成24年度に搬入された78製品について,ホルマリンや防腐剤,紫外線吸収剤,タール色素,承認化粧品成分の製品への表示状況並びに検査結果をまとめた.配合禁止成分であるホルマリンは,ホルムアルデヒドとして検査し,ホルムアルデヒドを検出した製品はなかった.防腐剤については,パラオキシ安息香酸エステル類やフェノキシエタノールの検出頻度が高かった.パラオキシ安息香酸エステル類は延べ40成分,フェノキシエタノールは22成分を検出した.化粧品基準に定められた最大配合量を超過した濃度の防腐剤を検出した製品はなかった.また,表示されていない防腐剤を検出した製品は8製品であった.紫外線吸収剤では,パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシルの検出頻度が高く,8成分が検出された.最大配合量を超過した濃度の紫外線吸収剤を検出した製品はなかった.また,表示されていない紫外線吸収剤を検出した製品はなかった.タール色素で検出頻度の高いものは黄色4号であった.承認化粧品成分については,酢酸dl-α-トコフェロールの検出頻度が高く,最大配合量を超過した濃度の承認化粧品成分を検出した製品はなかった.加えて,承認化粧品成分であるビサボロールの分析条件の検討を行ったので,あわせて報告する. 
化粧品,ホルマリン,ホルムアルデヒド,防腐剤,紫外線吸収剤,タール色素,承認化粧品成分,ビサボロール 

 

MDクリニックダイエットと思われる製品の分析結果について
-形態観察と成分分析によるセンナの確認-
 MDクリニックダイエットと呼ばれるダイエット薬が,若い女性を中心に関心を集めている.この製品はインターネットから容易に入手することが可能であり,製品を服用したことが原因と疑われる健康被害が多発している.重篤な例として,これらの製品との因果関係を否定できない死亡も報告されている.平成24年度,当センターに搬入された検体は,外観・性状がMDクリニックダイエットと酷似しており,これについて,LC-PDA,LC-MS,GC-MS等を用いて成分分析を行った.その結果,従来の製品から検出事例のある成分,ビサコジル,ヒドロクロロチアジド,シブトラミン,フルオキセチン,フロセミド,甲状腺末,チロキシンを検出したほか,これまでの類似製品では検出事例のないセンノシドA及びセンノシドBを検出した.一方,植物由来成分の含有が疑われる製剤については,実体顕微鏡及び走査型電子顕微鏡を用いて検査を行った.その結果,1つの製剤においてセンナ様植物片を検出した.今回の成分分析から,実体顕微鏡及び走査型電子顕微鏡を用いた検査は,植物由来成分の確認方法として有用であることがわかった.また,外観・性状が同じであっても従来製品と異なる成分が検出されていることから,含有成分が異なる可能性を考慮して検査する必要性が明らかになった.
センナ様植物片,走査型電子顕微鏡,医薬品成分,MDクリニックダイエット,健康被害 

 

 論文Ⅲ 食品等に関する調査研究

LC-MS/MSによるフザリウムトキシンの一斉分析法 
 高速液体クロマトグラフ・タンデム型質量分析装置(LC-MS/MS)を用いた,10種のフザリウムトキシン(デオキシニバレノール,ニバレノール,ネオソラニオール,ジアセトキシスシルペノール,3-アセチルデオキシニバレノール,15-アセチルデオキシニバレノール,HT-2トキシン,T-2トキシン,フザレノン-X,ゼアラレノン)の一斉分析法を開発した.試料にアセトニトリル‐水混液を加え振とうしフザリウムトキシンを抽出した後,多機能カラムで精製しLC-MS/MSで分析を行った.前処理条件,LC条件及びMS条件の最適条件を確立した後,開発した分析法の妥当性評価試験を行った.その結果,本法によるフザリウムトキシン10種の定量下限値は0.02 ppmであり,回収率76.6~116.8%,併行精度1.9~14.3%及び室内精度2.5~20.5%であり,いずれも良好な結果が得られた. 
フザリウムトキシン,カビ毒,高速液体クロマトグラフィー,高速液体クロマトグラフ・タンデム型質量分析装置,超高速液体クロマトグラフィー,多機能カラム,同時分析,小麦粉、コーンフラワー 

 

冷凍食品へのマラチオン混入事件に係わる対応
 平成25年12月29日に国内大手冷凍食品製造業者が製造した冷凍食品の一部から有機リン系殺虫剤であるマラチオンが高濃度で検出されたため,これら商品の自主回収を開始した.この商品を喫食して健康被害を申し出た事例に関して,当係においてマラチオンを検査した.検査は農産物中における残留農薬迅速試験法を用いた.本試験法を用い,マラチオンを冷凍食品に0.1 μg/g添加した際の添加回収試験結果は,回収率94.6~114.2%,相対標準偏差1.4~8.0%であった.最終的にクリームコロッケ,ピザ,エビグラタン,照り焼きチキン,ドリアなどの冷凍食品計57検体を分析したところ,マラチオンを検出したものはなかった.
自主回収,冷凍食品,殺虫剤,マラチオン,残留農薬迅速試験法

 

分子生物学的手法を用いた真菌による食品苦情原因の解析
 2012~2013年に扱った食品苦情検体のうち,表現性状試験による検査ができなかった3事例について分子生物学的な手法を利用した解析を行った.苦情起因菌の同定に塩基配列解析を利用した結果,清涼飲料水の事例(沈殿)では酵母(Brettanomyces属),ゆで麺の事例(黒色異物)では死滅した糸状菌(Cladosporium 属)の混入が原因と推定された.さらに,これら2事例について製造工場から分離した株の分子系統樹解析を行った結果,苦情起因菌の汚染源を推定することが可能であった.一方,培養検査を行うことができなかったレトルト食品の事例(異臭)では,食品
から酵母(Candida属)のDNA断片が検出された.そこで,同定された菌種と同種の保存菌株を用いて検討した結果,すべての株で同様の異臭生成は見られず,本菌が苦情原因であることが否定された.
食品苦情,塩基配列解析,分子系統樹解析,汚染経路推定,菌株識別

 

各種食品の衛生規範および東京都措置基準に基づいた細菌学的検査成績(平成24~25年度)
 平成24~25年度の2年間に当センターに搬入された,各種食品1,511件について細菌学的検査を実施した.検査項目は,国の指導指針である衛生規範および東京都措置基準において設定されている細菌数,大腸菌群,大腸菌,黄色ブドウ球菌,サルモネラ属菌,腸炎ビブリオ,腸管出血性大腸菌(O157,O26,O111)である.
 衛生規範あるいは都措置基準に該当した食品の検出状況は,「加熱済そうざい・弁当」において640件中12件(1.9%),「未加熱そうざい」192件中12件(6.3%),「洋生菓子」261件中24件(9.2%),「調理パン」69件中8件(11.6%),「和生菓子」127件中1件(0.8%),「豆腐」104件中4件(3.8%)であった.「生めん・ゆでめん類」44件および「一夜漬・浅漬」74件では該当するものはなかった.「未加熱そうざい」,「洋生菓子」,「調理パン」での検出率が高かったが,これは未加熱の食材が含まれることや,製造過程における汚染などが原因と考えられた.
 検出された黄色ブドウ球菌5株については,コアグラーゼ型とエンテロトキシン産生性を検討した結果,コアグラーゼ型はV型が3株,IV型1株,型別不能1株で,エンテロトキシン産生性は全株とも陰性であった.
 「洋生菓子」から検出された大腸菌群16株の菌種を同定した結果,Enterobacter cloacae(5株),Klebsiellapneumoniae(5株),Raoultella terrigena(3株),Klebsiella oxytoca(2株),Leclercia adecarboxylate(1株)であった.
各種食品,細菌学的検査,衛生規範,東京都措置基準

 

都内で販売されている弁当の細菌学的調査
 都内で販売されている弁当の衛生状況を調べることを目的として,行商の弁当,コンビニエンスストアの弁当及びスポーツ大会のために収去された弁当について細菌検査を実施した.その結果,行商弁当の15.1%及びスポーツ大会の弁当の16.7%が,衛生規範又は東京都の一斉収去検査成績に基づく措置基準に不適合であった.このうち細菌数は行商弁当5検体(5.8%),大腸菌では行商弁当2検体(2.3%)及びスポーツ大会の弁当1検体(4.2%)が衛生規範に不適合であった.行商弁当とスポーツ大会の弁当は,コンビニ弁当に比べて衛生指標菌の検出率がいずれも高かった.温度負荷試験では,細菌数の不適合率は行商弁当及びコンビニ弁当のいずれも上昇していたが,衛生指標菌の検出率は行商弁当では全て増加したのに対し,コンビニ弁当では糞便系大腸菌群を除いて変化が認められなかった.
 糞便系大腸菌群陽性の検体のうち大腸菌を検出したのは13.3%で,他は大腸菌以外の大腸菌群であった.
 黄色ブドウ球菌は行商弁当1検体から,セレウス菌は行商弁当10検体から検出された.また,サルモネラ及び腸管出血性大腸菌O157はすべて陰性であった.行商及びスポーツ大会の弁当では衛生規範に適合しないものがあったことから,弁当製造時の衛生状態については改善の余地があると考えられる.行商にかかわる条例の見直しや,製造所等に対する適切な衛生指導の必要性が示唆された.
路上販売の弁当,行商,糞便系大腸菌群,衛生規範

 

LC-MS/MSによる食品添加物一日摂取量調査試料中のメラミンおよびシアヌル酸の分析
 米国食品医薬品局(FDA)により示された液体クロマトグラフタンデム質量分析計(LC-MS/MS)を用いた食品中のメラミンとシアヌル酸の分析法を改良し,食品添加物一日摂取量調査試料に適用した.すなわち,HPLC条件を簡便なアイソクラティック溶離法に変更した.また,固相抽出カートリッジからの溶出液を濃縮乾固後85% (v/v) アセトニリルに溶解することにより,感度と安定性を向上させることができた.改良した分析法によるメラミンおよびシアヌル酸の定量限界は0.5 μg/g,検出限界は0.05 μg/gであった.
 この分析法を用い,平成21年に全国6都市の地方衛生研究所で作成された1~8群の幼児用食品添加物一日摂取量調査試料48試料中のメラミンおよびシアヌル酸を分析した.その結果,いずれの試料からも定量限界値以上のメラミンおよびシアヌル酸は検出されなかったが,第7群の4試料から検出限界値程度のメラミンが確認された.
 FDAによる耐容一日摂取量(TDI)を用いると,1~6歳の小児が喫食する食品中に許容されるメラミンおよびその関連化合物の量は2.27 μg/gであるが,今回の結果はこの値を大幅に下回った.
メラミン,シアヌル酸,食品添加物一日摂取量調査試料,LC-MS/MS

 

氷冷下での展開による食品中着色料の改良TLC試験法
 食品中に含まれる着色料の試験は,薄層クロマトグラフィー(TLC)を用いて行われている.アル ミニウム製逆相TLCプレートを用い,展開を行うと,Rf値の大きい着色料のスポット形状が悪く判定が困難となる事例がみられた.そこで,この問題を解消するために展開条件について検討を行った.その結果,氷冷下で塗布後のアルミニウム製逆相TLCプレートを展開槽中で展開溶媒蒸気により飽和させた後,展開する改良法を確立した.なお,展開溶媒中に含まれる硫酸ナトリウムの析出を防止するため,展開溶媒をメタノール-アセトニトリル-5%硫酸ナトリウムからメタノール-アセトニトリル-2%硫酸ナトリウムに変更した.本法を用いて指定着色料及び指定外着色料計24種類を分析したところ,着色料の分離及びスポット形状が良好であった.また,都内で入手した食品試料から抽出した指定着色料についても,再現性は良好で着色料の分離能も高かったことから,本法は日常の分析法として有用であると考える.
薄層クロマトグラフィー,アルミニウム製逆相TLCプレート,着色料,指定外着色料

 

スモークハウス内におけるソーセージ加熱処理工程での気相を介したソルビン酸の移行
 平成24年11月,保存料使用表示のないソーセージからソルビン酸が0.01 g/kg検出された.製造施設への立ち入り調査では,この製品にソルビン酸を使用した実績はなかったが,スモークハウス内における加熱処理工程でソルビン酸使用他製品からのコンタミネーションの可能性が考えられた.そこで平成25年2月,当該食肉製品製造業者において,再現試験による検証を行ったところ,添加ソーセージから無添加ソーセージへのソルビン酸の移行が確認され,無添加ソーセージからソルビン酸0.03 g/kgが検出された.同じスモークハウス内で,同時に加熱処理されたソルビン酸添
加ソーセージのソルビン酸の一部が無添加ソーセージに移行したものと推察された.
保存料,ソルビン酸,ソーセージ,スモークハウス,移行,加熱処理工程,食品添加物,HPLC

 

マーケットバスケット方式による東京都民の放射性セシウム等による内部被ばく線量の推定
 平成23年3月11日の東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故発生から1年8ヶ月が経過した平成24年11月から平成25年2月に,東京都民の食品の一日摂取量に基づき,マーケットバスケット方式により調製したトータルダイエット試料について,ゲルマニウム半導体核種分析装置を用いて放射性ヨウ素(I-131),放射性セシウム(Cs-134,Cs-137)及び放射性カリウム(K-40)を測定した.その検査結果を基に都民の内部被ばく線量を推定した.検査の結果,放射性ヨウ素(I-131)は検出されなかった.放射性セシウム(Cs-134,Cs-137)については,Cs-134は14食品群中5食品群から,Cs-137は14食品群中10食品群から検出された.自然放射性核種である放射性カリウム(K-40)は,14食品群中飲料水を除く13食品群から検出された.Cs-134及びCs-137の預託実効線量の合計は,0.0013 mSv/yearと算出され,厚生労働省が定めた放射性物質を含む食品からの被ばく線量の上限である1 mSv/yearを大幅に下回る結果となった.
放射性セシウム,放射性カリウム,トータルダイエットスタディ,マーケットバスケット法,一日摂取量,預託実効線量

 

東京都内で流通する食品に対する放射性物質の検査結果
2013年(平成25年)4月~2014年(平成26年)3月
 放射性物質に対する食品の安全を担保する行政検査は,1986年4月に勃発したチェルノブイリ原子力発電所の事故以降,すでに東京都内の流通市場で実施されているが,2011年3月の東北地方太平洋沖地震および巨大津波による福島第一原子力発電所の事故直後から強化された.本報では,2013年4月から2014年3月まで実施した行政検査の結果を報告する.放射性物質検査の対象食品は,東京都内で流通していた国産食品738検体および輸入食品110検体(墨田区から協力を依頼された2検体を含む)であった.それぞれの検体の放射性ヨウ素と放射性セシウムは,ヨウ化ナトリウム(タリウム)シンチレーションスペクトロメータ(以下NaI検出器と略す),ゲルマニウム半導体スペクトロメータ(以下Ge検出器と略す),あるいは双方を用いて,γ線スペクトロメトリで定量した.放射性ヨウ素は,どの検体からも検出されなかった.一方,放射性セシウムは,国内で生産されたキノコ3検体(8, 10および11 Bq/kg:NaI検出器による参考値),レンコン1検体(10 Bq/kg:NaI検出器による参考値)および牛乳2検体(2.9および3.0 Bq/kg:Ge検出
器による測定値)から検出された.輸入食品では,Cs-137だけが果物の加工食品3検体から検出され(28, 140および190 Bq/kg:Ge検出器による測定値),そのうち2検体(1検体は墨田区からの依頼分)が基準値(一般食品で100Bq/kg)を超えていた.
福島第一原子力発電所,都内流通食品,放射性ヨウ素,放射性セシウム,ヨウ化ナトリウム(タリウム)シンチレーションスペクトロメータ,ゲルマニウム半導体スペクトロメータ

 

食品の苦情事例(平成25年度)
 平成25年度に実施した一般食品苦情に関わる事例から,検査によって結果が明らかとなった4例を選び報告する.キャベツの葉と葉の間に白色物質が付着していた事例で,白色物質について赤外分光光度計,蛍光X線分析装置による検査及び希塩酸による溶解試験を行った.その結果,白色物質は肥料であると推察された.メンチカツを喫食していたところ,口の中から紙様物質が出てきた事例で,紙様物質について光学顕微鏡及び赤外分光光度計による検査を行った.その結果,紙様物質はダンボールであると推察された.ハンバーグを喫食していたところ,中からビニール様物質が出てきた事例で,ビニール様物質について赤外分光光度計による検査を行った.その結果,ビニール様物質は卵白片であると推察された.アイスクリームを喫食していたところ,砂状物質が口中に残った事例で,砂状物質について顕微鏡観察,赤外分光光度計による検査を行った.その結果,砂状物質は乳糖であると推察された.
食品苦情,異物混入,キャベツ,肥料,メンチカツ,ダンボール,ハンバーグ,卵白,アイスクリーム,乳糖

 

化学物質及び自然毒による食中毒事件例(平成25年)
 平成25年に東京都内で発生した化学物質及び自然毒による食中毒のうち,検査によって結果が明らかとなった5例を報告し,今後の食中毒発生予防及び食中毒発生時の迅速な検査の参考に供することとする.クワズイモ属による食中毒1例は観葉植物の根茎を喫食して焼けるような舌の痛み,舌のしびれなどの症状を呈した事例で,植物鑑定を行った.その結果,残品はクワズイモ属の有毒植物であることが判明し,有毒植物による食中毒と断定された.ソラニン類による食中毒1例はジャガイモを喫食して吐き気,腹痛,嘔吐などの症状を呈した事例で,ソラニン類についてHPLCによる分析を行った.その結果,残品からα-ソラニンを75~120 μg/g,α-チャコニンを140~220 μg/g検出し,ソラニン類による食中毒と断定された.ヒスタミンによる食中毒2例はイワシ及びブリの調理品を喫食して発疹や発赤などを呈した事例で,ヒスタミンについてTLCによる定性分析及びHPLCによる定量分析を行った.その結果,イワシの事例では残品及び参考品から45~330 mg/100 g,ブリの事例では残品から450 mg/100 g のヒスタミンを検出し,いずれもヒスタミンによる食中毒と断定された.界面活性剤による食中毒1例はサラダを喫食してのどの痛み,口のしびれ,めまい等の症状を呈した事例で,界面活性剤についてTLCによる分析を行った.その結果,残品から界面活性剤を検出し,界面活性剤の混入による食中毒と断定された.
化学性食中毒,クワズイモ属,ジャガイモ,α-ソラニン,α-チャコニン,イワシ,ブリ,ヒスタミン,界面活性剤

 

輸入農産物中の残留農薬実態調査(野菜及びその他)- 平成25年度 - 
 平成25年4月から平成26年3月に東京都内に流通していた輸入農産物の野菜,きのこ類,穀類,豆類,種実類及び茶の47種170作物について残留実態調査を行った.その結果,20種53作物(検出率31%)から残留農薬が痕跡(0.01 ppm未満)~0.40 ppm検出された.検出農薬は,殺虫剤(イミダクロプリド,クロルフェナピル,シペルメトリン等)及び殺菌剤(ボスカリド,テトラコナゾール等)合わせて48種類(有機リン系農薬4種類,有機塩素系農薬6種類,カルバメート系農薬4種類,ピレスロイド系農薬9種類,含窒素系及びその他の農薬25種類)であった.このうち,チアベンダゾール(TBZ)が,ベルギー産チコリから0.06 ppm検出され,残留基準値0.05 ppmを超えたため食品衛生法違反となった.この残留量は,TBZに設定された一日摂取許容量(ADI)の1/1900程度であった.
 残留農薬,輸入農産物,野菜,きのこ類,穀類,豆類,種実類,茶,残留基準値

 

輸入農産物中の残留農薬実態調査(果実類)-平成25年度-
 平成25 年4 月から平成26 年3 月に都内に流通していた輸入農産物のうち,果実類20 種122 作物について残留農薬実態調査を行った.その結果,19 種89 作物(検出率73%)から殺虫剤,殺菌剤,除草剤合わせて54 種類の農薬{有機リン系殺虫剤9 種類(クロルピリホス,マラチオン他),カルバメート系殺虫剤3 種類(メトキシフェノジド,カルバリル,メソミル),有機塩素系農薬6 種類(キャプタン,イプロジオン他),ピレスロイド系殺虫剤8 種類(シペルメトリン,ビフェントリン他),含窒素系殺虫剤5 種類(イミダクロプリド,ピリプロキシフェン他),含窒
素系およびその他の殺菌剤21 種類(イマザリル,チアベンダゾール他),含窒素系除草剤2 種類(シマジン,ペンディメタリン)}が痕跡(0.01 ppm 未満)~3.8 ppm 検出された.このうちアメリカ産ブルーベリーからビフェントリンが一律基準値(0.01 ppm)を超えて0.03 ppm 検出され,食品衛生法違反となった.日常的な果実摂取量に換算すると,この残留量は一日摂取許容量(ADI)に対して1/156 程度であった.
 残留農薬,輸入農産物,果実,殺虫剤,殺菌剤,除草剤,残留基準値,一律基準値

 

国内産野菜・果実類中の残留農薬実態調査
- 平成25年度 - 
 平成25年4月から平成26年3月まで東京都内に流通していた国内産野菜及び果実31種75作物について残留農薬実態調査を行った.その結果,国内産野菜24種65作物のうち15種26作物から26種類の農薬(殺虫剤14種類,殺菌剤12種類)が痕跡(0.01 ppm未満)~0.35 ppm検出された.また,国内産果実7種10作物のうちすべてから,22種類の農薬(殺虫剤12種類,殺菌剤10種類)が痕跡~0.45 ppm検出された.
 食品衛生法の残留基準値及び一律基準値(0.01 ppm)を超えたものはなかった.
残留農薬,国内産農産物,野菜,果実,殺虫剤,殺菌剤,残留基準値,一律基準値

 

魚介類中のPCB含有量実態調査(平成21~25年度)
 ポリ塩化ビフェニル(PCB)による食品汚染状況を把握するため,東京都中央卸売市場に入荷した魚介類(輸入魚介類を含む)について含有量調査を行った.また,環境汚染状況を把握する指標として,東京湾産スズキ中のPCB含有量を調査した.平成21年度から25年度における調査の結果,市場入荷魚介類については,遠洋沖合魚介類および内海内湾魚介類のいずれもPCB含有量が暫定的規制値を超えて検出されるものはなく,PCBが検出される魚類の傾向はこれまでの調査結果とほぼ同様であった.東京湾産スズキにおいても暫定的規制値を超えて検出されるものはなく,PCB含有量は0.2 ppm前後の値を示し,平成2年以降ほぼ横ばいの傾向であった.
ポリ塩化ビフェニル(PCB),食品汚染,魚介類,環境汚染,スズキ

 

論文Ⅳ 生活環境に関する調査研究

副流煙を吸着させた布から放散される化学物質 
 三次喫煙とは,喫煙後の室内内装や喫煙者の衣類等に付着したたばこ煙による受動喫煙のことである.本研究では,三次喫煙の実態を把握するために,副流煙を吸着させた布から放散される化学物質について調査を行った.方法は,布と点火したたばこをチャンバー(約175 L)に入れ,布に副流煙を吸着させた後,ビニル製バッグに移した.このバッグに乾燥空気を注入し,静置して,布に吸着した化学物質を再放散させた.11種類の布について,バッグ内空気中の化学物質を測定した結果,主に検出された物質は,ニコチン,3-エテニルピリジン,アルデヒド類及び揮発性有機
化合物類を含む23物質であった.ホルムアルデヒド及び2-フルアルデヒドは11試料全てから,ニコチンは10試料から検出された.23物質の総濃度は布によって差が見られ,生地の厚さと物質濃度との間には正の相関が見られた.再放散の時間的な傾向については,23物質の濃度合計の約半量が再放散されるのは,たばこ煙吸着後の最初の20~45分間であると推計された.以上の結果から,三次喫煙の影響を低くするためには,たばこ煙が付着した上着等を非喫煙場所に持ち込まないことが有効であると考えられた.
三次喫煙,再放散,布,ニコチン,ホルムアルデヒド

 

磁性ナノ粒子マグネタイトによるヒト肺上皮細胞への影響 
 磁性ナノ粒子マグネタイト(以下マグネタイトと略す)は,プリンターやコピー機のトナーなど様々な用途に使われており,大気中に放出される可能性が高い.またマグネタイトをヒトが吸入した場合は肺胞まで届きやすく,健康への悪影響が懸念される.本研究は,培養細胞気相ばく露装置Cultex® RFSを用いて,マグネタイトを空気中に分散してヒト肺上皮A549細胞にばく露し,その影響を調べた.実験は,A549細胞に気相化したマグネタイトを流量1.0,2.0及び5.0 mL/minにてばく露し,細胞増殖,炎症因子であるインターロイキン-8(以下IL-8と略す)の産生量,酸化ストレス応答因子であるヘムオキシゲナーゼ-1(以下HO-1と略す)の細胞内レベルを測定した.その結果,マグネタイトのばく露は細胞増殖とIL-8産生に対して抑制的に作用する傾向を示したが,これらの作用は限定的で明確でなかった.一方,マグネタイトのばく露は,気流によるA549細胞内におけるHO-1レベルの経時的な減少に対して,抑制的な影響を及ぼした.以上の結果より,マグネタイトは,A549細胞に気相ばく露すると,空気の吹付による直接的刺激による細胞内HO-1の減少を抑制するものと示唆された.
磁性ナノ粒子マグネタイト,ヒト肺上皮A549細胞,気相ばく露,IL-8,HO-1

 

スプレー粒子の粒径分布及び粒子中成分の測定 
 スプレーは使用時に多量の粒子を発生するが,それらの粒径分布や粒子中の成分については情報が少ない.そこで,金属成分を含有する4種のスプレー(トイレ消臭スプレー,化粧水スプレー,制汗スプレー及び日焼止めスプレー)について,噴射時に発生する粒子の粒径分布及び粒子中の金属量を調査した.グローブボックス内にスプレーを噴射し,Electrical Low Pressure Impactorにより,粒径0.007 μm~10 μmの粒子について個数濃度を測定したところ,個数濃度が最大を示したのは日焼止めスプレーであった.また,化粧水スプレー以外の3製品については,噴射後30分経過しても,スプレー粒子の浮遊が確認された.粒径分布では,いずれのスプレーについても粒径1 μm以下の粒子が91%以上を占めており,粒径分布の中央値は0.04 μm~0.12 μmであった.粒子中の金属成分はICP-MSにより測定し,アルミニウム及び亜鉛が,トイレ消臭スプレー,制汗スプレー及び日焼止めスプレーの3製品から検出された.その他には,トイレ消臭スプレー及び制汗スプレーから銀,日焼止めスプレーからチタンが検出され,これらの金属成分は粒径1 μm以上の粒子に98%以上が分布していた.化粧水スプレーの粒子からは金属が検出されなかった.なお,粒子数の多かった粒径1 μm以下の粒子については水,液化石油ガス,アルコール,シリコンオイル等が主な成分と考えられた. 
スプレー製品,粒径分布,個数濃度,銀,アルミニウム,チタン,亜鉛

 

土壌中非放射性セシウムの分析法及び都内農地における下方移行 
 2011年3月の福島第一原子力発電所の事故により,都内の土壌表面にもセシウム134やセシウム137が降下した.これらの放射性核種が土壌中を鉛直方向に移動し,都民が飲用井戸などの生活用水として利用している地下水に混入する可能性がある.そこで,非放射性セシウムをトレーサーとして用い,土壌中のセシウム分析法を確立し,その分析法を用いて都内農地における土壌中移行を調査した.
 土壌中非放射性セシウムの分析は,土壌に硝酸及びフッ化水素酸を加えマイクロウェーブを用いて分解した後,誘導結合プラズマ-質量分析計で定量する方法を検討し,土壌分取量0.1 g及びフッ化水素酸3 mLで良好な結果が得られた.本法の定量下限値は0.2 mg/kg,添加回収率は93±5%であり,土壌中セシウムの分析法に適用可能であった.
 平成24年4月から平成26年4月までの期間における都内農地における非放射性セシウムの土壌中移行調査結果は以下のとおりであった.耕作地では,1年の間に散布セシウムの一部が深さ0-20 cmから20-30 cmの下層部へ移行したが,その後さらに下層部には移行せず,深さ20-30 cmにセシウムが蓄積されていた.非耕作地では,1年の間に散布セシウムの約40%が深さ0-10 cmから10-20 cmに移行した.この結果,耕作地及び非耕作地のどちらにおいても非放射性セシ
ウムは散布1年後には10 cm程度鉛直方向に移行していることが分かった. 
非放射性セシウム,分析法,土壌中移行 

 

東京都における降下物及び陸水中の人工放射性物質の経年変化
 東京都では1957年から,大気圏内核実験や核関連事故等の影響を把握するために環境放射能水準調査を実施している.本稿では1963年から2014年7月までの約50年間における月間降下物及び陸水の調査結果をまとめた.
 月間降下物中のセシウム137(Cs-137)及びストロンチウム90(Sr-90)は調査開始当初には100 Bq/m2を超えていたが次第に減少し,チェルノブイリ原子力発電所事故時は一過性に上昇したが,福島第一原子力発電所事故前はほぼN.D.であった.福島原発事故が発生した2011年3月は,Cs-137の値として1957年の調査開始以来最も高い8,100 Bq/m2を検出し,他にも人工放射性核種7種類が認められた.4月以降,降下量は急激に減衰し,2014年現在ではCs-137は1960
年台後半~1970年台前半,Sr-90はおおむね事故以前のレベルで推移している.
 陸水中のCs-137及びSr-90は調査開始当初から共に漸減傾向を示したが,Sr-90はCs-137に比べて減少の度合いが緩やかで,福島原発事故以前でもSr-90は約1 Bq/L検出されていた.2011年6月に採水した金町浄水場浄水からはCs-134及びCs-137が検出され福島原発事故の影響が見られたが,Sr-90では明確な上昇は認められなかった.
 2014年現在も,月間降下物及び試料を濃縮して測定した蛇口水では依然としてCs-134及びCs-137が検出されており,検出感度の高い方法で今後も継続してモニタリングしていく必要性が示唆された. 
環境放射能,大気圏内核実験,チェルノブイリ原子力発電所事故,福島第一原子力発電所事故,降下物,陸水,ゲルマニウム半導体検出器,核種分析,セシウム137,セシウム134,ストロンチウム90 

 

浴槽水およびプール水からのレジオネラ属菌検出後の対応における遺伝子検査法の実施結果
(平成23年度~平成25年度) 
 東京都では条例により,浴槽水及びプール水からレジオネラ属菌は検出されないこととしている.ここでいう「検出されないこと」とは「10 CFU/100 mL未満」として運用されており,これを超えた場合は施設に対して改善指導を行い,改善措置後の行政による再検査の結果でレジオネラ属菌が検出されないことを確認し,改善措置完了としている.しかしながら,レジオネラ属菌は培養によって確定するまでに7~14日ほどかかるため,改善措置後の再検査結果判定まで時間を要する.そこで,東京都では再検査時にLAMP法による遺伝子検査を導入し,レジオネラ属菌の遺伝子陰性の場合には速やかに設備の使用を再開させている.
 平成23年度から25年度において,東京都健康安全研究センターに搬入された再検査検体の浴槽水計150検体,プール水計17検体,合計167検体について調査したところ,遺伝子検査結果が陰性であった浴槽水92検体(61.3%)及びプール水10検体(58.8%)はすべて「検出されないこと」に該当した.それにともない,通常7~14日かかる培養法の結果を待たずに,保健所は早期に施設の使用を再開させることができた.一方,遺伝子検査結果が陽性となった浴槽水58検体中49検体(84.5%)及びプール水7検体のすべても,培養法で10 CFU/100 mL未満であり,「検出されないこと」に該当するものであった.したがって,遺伝子検査によるレジオネラ属菌陽性の場合は条例の運用上の整合性から十分慎重な対応が必要であると考える.
レジオネラ属菌,浴槽水,プール水,LAMP法 

 

感染症媒介蚊サーベイランスについて(2004年~2013年)
 海外において依然流行しているウエストナイル熱やデング熱等の蚊媒介感染症に対して,その発生及び蔓延を未然に防止するため,東京都では2004年から感染症媒介蚊サーベイランスを実施している.2004年から2013年までの10年間に実施した感染症媒介蚊サーベイランスの結果をとりまとめたところ,捕集した蚊の大部分はヒトスジシマカとアカイエカ(チカイエカを含む)であり,最も多く捕集された蚊はヒトスジシマカであった.この2種類の蚊はウエストナイル熱を媒介し,特にヒトスジシマカはデング熱やチクングニア熱の媒介蚊でもあるため注意が必要である.ま
た,マラリアを媒介するハマダラカも,数は少ないものの捕集された.遺伝子検査の結果,ウエストナイルウイルスについては,調査開始の2004年からの10年間,デングウイルス,チクングニアウイルス,マラリア原虫については調査開始の2009年からの5年間で捕集した蚊でのウイルス等は検出されなかった.
蚊,感染症

 

論文Ⅴ 生体影響に関する調査研究

経気管投与によるマグネタイトナノ粒子の体内動態
 磁性ナノ粒子マグネタイトは様々な用途に利用され医療分野への応用が注目されるが,その安全性に関する情報は限られており早急な安全性評価が求められる.一般に,投与薬物による毒性発現は,作用部位における薬物濃度と密接に関係するとされ,その薬物濃度は,薬物の吸収,体内分布,代謝及び排泄により決定される.今回我々は,安全性評価の一環としてマグネタイトの体内動態及び排泄について検討した.F 344系ラットに,マグネタイトを0及び15.0 mg/kg体重の用量で,1回経気管投与し,1,3,7,21及び50日後に,血液,尿,糞,肝臓,腎臓,肺及び脳にお
けるマグネタイト由来の鉄を分析した.器官中の鉄濃度は,投与後1日の肺で最高濃度を検出し,その後7日まで比較的速やかに減少し,投与後21日にピーク時のほぼ1/3の濃度となりその後プラトーに推移した.肺でのマグネタイトの生物学的半減期はほぼ7日間と推定される.血液,肝臓,腎臓及び脳においても,投与後1日から50日まで鉄の濃度の上昇傾向が認められた.顕微鏡による組織観察で肺及び胸腺リンパ節に褐色の顆粒を貪食したマクロファージの浸潤及び褐色顆粒の沈着が認められ,マグネタイトの肺への沈着及びリンパ節への移行が示唆された.体外への排泄は尿と比較し糞に多く,投与後50日においてもかなりの排泄が認められた.尿への排泄はわずかであった.
マグネタイト,Fe3O4,磁性ナノ粒子,体内動態,排泄,経気管投与,F344系ラット

 

論文Ⅵ 公衆衛生情報に関する調査研究 

日本における甲状腺がんによる死亡の歴史的状況
 疾病動向予測システムを用いて甲状腺がんによる死亡の歴史的状況を分析するとともに今後の動向を予測した.さらに,年齢調整死亡率により日本と欧米各国との比較を行った.
 甲状腺がんによる死亡者については,1955年から現在までの情報が利用できることが判明した.1955年の甲状腺がんによる死亡者数は,男性40名,女性116名であったが,2012年には男性550名,女性1,144名と増加している.
 本システムにより,2024年における年間死亡者数は男性600人,女性1,100人ほどになり,死亡のピークは男性80歳,女性90歳ほどになると予測された.
 日本,アメリカ,ドイツ,イタリア,フランス,スウェーデン,オランダ計7か国の年齢調整死亡率をみると,アメリカでは1955年から1985年まで減少し,その後停滞し微増していた.一方,日本は他の諸国と同様に1955年から1975年頃まで多少の増減はあるものの概ね増加し,その後停滞から減少に転じていた.
甲状腺がん,推移,世代マップ,標準化死亡比,年齢調整死亡率,人口動態統計,日本,アメリカ,ドイツ,イタリア,フランス,スウェーデン,オランダ

 

論文Ⅶ 精度管理に関する調査研究

平成25年度 東京都水道水質外部精度管理調査結果について-亜鉛,銅及び陰イオン界面活性剤-
 東京都では,「東京都水道水質管理計画」に基づき,東京都健康安全研究センターが中心となり,水道事業者及び厚生労働大臣の登録を受けた水道水質検査機関を対象とした外部精度管理を実施している.本稿においては,平成25年度に実施した亜鉛及びその化合物(以下亜鉛と略す),銅及びその化合物(以下銅と略す)及び陰イオン界面活性剤に関する外部精度管理の概要を報告する.
 亜鉛及び銅では,参加機関38機関のうち判定基準外に該当する機関はなかった.一方,陰イオン界面活性剤では,参加機関33機関のうち,Grubbsの棄却検定により2機関が棄却され,別の2機関が5成分総和の計算間違いにより評価対象外となり,1機関が検査機関内変動係数が20%を超えたことによる判定基準外となった.評価対象外及び判定基準外となった原因は検査結果の転記ミスであり,改善策としてはチェック体制の改善が必要であった.また,Grubbs棄却検定により棄却となった原因は,定量下限値の求め方の解釈の違いによるものであり,定量下限値の設定について再検討を助言した.試験方法が告示法に基づいているかどうか調査した結果,亜鉛及び銅の検査で,濃度0 mg/Lを検量線作成のためのデータに加えている機関が21機関あり,告示法と異なっていた.そのほかの項目においても数機関が告示法とは異なった方法で試験を行っており,当該機関においては告示法の遵守を含めた標準作業書(SOP)の見直しが必要であった.
外部精度管理,水道水,亜鉛,銅,陰イオン界面活性剤,告示法

 

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