人口動態統計からみた日本における肺炎による死亡について(肺炎,インフルエンザ,誤嚥性肺炎,年次推移,世代マップ,人口動態統計)

東京都健康安全研究センター年報,69巻,271-277 (2018)

  人口動態統計からみた日本における肺炎による死亡について ( sage2018.pdf : 1.7MB, Acrobat形式 )


 

 

研究要旨

 

 疾病動向予測システムを用いて日本における肺炎とその関連死亡要因であるインフルエンザや誤嚥性肺炎による死亡の歴史的状況を分析するとともに今後の動向について考察した.

 1899年における肺炎による死亡は,男子23,379人,女子19,934人の合計43,313人であり,総死亡者数932,087人の4.6%を占めていた.スペインかぜの流行時の急増はあるものの,1945年以降は,死亡者数は大幅に減少し,1964年には男子12,186人,女子10,468人と最低を記録する.2016年には男子65,636人,女子53,664人になっている.

 肺炎による死亡者は,2030年には男子54,000人,女子42,000人程度まで減少すると予測される.また,誤嚥性肺炎による死亡者は,2030年には男子77,000人,女子52,000人程度まで増加すると予測される.

 


 

はじめに

 

 近年の高齢化の進展により肺炎による死亡者数が増加している.2016年における肺炎死亡者数は男女合計で119,300人に達し,悪性新生物(男女合計死亡者数:372,986人),心疾患(男女合計死亡者数:198,006人)に次いで死亡原因の第3位を占めている.また,死亡総数(男女合計:1,307,748人)に占める割合も9.4%になっている.

 本論文では,東京都健康安全研究センターで開発している疾病動向予測システム(SAGE)を用いて,肺炎とその関連死亡要因であるインフルエンザや誤嚥性肺炎による死亡について分析した結果について報告する.

 

研究方法

 

 当センターで開発している疾病動向予測システム1-7)(SAGE:Structural Array GEnerator)を用いて,肺炎による死亡について分析を行った.さらに,肺炎死亡に関連すると推定されるインフルエンザと誤嚥性肺炎についても分析を加えた.

 

研究結果および考察

 

 1. 疾病分類の変遷

 わが国では,1899年から中央集査による人口動態統計が実施されている(1944年から1946年を除く).この情報を利用することにより100年以上にわたる日本人の死亡現象を解析することが可能である.しかし,人口動態統計は年により死亡分類が変更され,時には特定の疾病分類が欠落していることもある.表1に肺炎,表2にインフルエンザ,表3に誤嚥性肺炎の疾病分類の変遷を示した.

 肺炎とインフルエンザは,人口動態統計が開始された1899年において,その死亡者数が問題となるほど重大な死因だったことを反映して,本統計が開始された当初からの死亡者数を知ることができる.その一方,誤嚥性肺炎については,日本で国際疾病分類の第9版が適用された1979年以降の死亡者数が得られるにすぎない.

 

表1. 肺炎の疾病分類の歴史的変遷

年次 簡単分類または小分類
 1899-1906  27 肺炎、気管支肺炎
 1907-1908  32 肺炎、気管支肺炎
 1909-1932  37 肺炎及気管支肺炎
 1933-1936  48 肺炎
 1937-1943  107 気管支肺炎(毛細気管支炎ヲ含ム)
 108 大葉性肺炎
 109 気管支、大葉ノ別不明ノ肺炎
 1944-1946  情報無し
 1947-1949  107-109 全肺炎
 1950-1967  B31 肺炎(新生児肺炎を除く)
 B43a 新生児肺炎
 1968-1978  B32 肺炎
 1979-1994  63 肺炎
 1995-  10200 肺炎

 

表2. インフルエンザの疾病分類の歴史的変遷

年次 簡単分類または小分類
 1899-1932  9 流行性感冒
 1933-1936  8 流行性感冒
 1937-1943  11 流行性感冒
 1944-1946  情報無し
 1947-1949  33 流行性感冒
 1950-1967  B30 インフルエンザ
 1968-1978  B31 インフルエンザ
 1979-1994  64 インフルエンザ
 1995-  10100 インフルエンザ

 

表3. 誤嚥性肺炎の疾病分類の歴史的変遷

年次 簡単分類または小分類
 1979-1994  507 固体及び液体による肺炎
 1995-  J69 誤嚥性肺炎

 

 2. 年次推移

 1) 肺炎

 1899年における肺炎による死亡は,男子23,379人,女子19,934人の合計43,313人で,総死亡者数932,087人の4.6%を占めていた(図1).

 年次推移をみると1899年から男女とも増加を続け1917年には男子52,727 人,女子46,509 人となっている.1918年には,いわゆるスペインかぜ6)の流行に呼応して急激に死亡者数が増加し,男子105,507人,女子100,026人の合計205,533人とピークを示し,総死亡者数1,493,162人の13.8%を占めた.さらに,1920年には第2波のスペインかぜの影響を受け.男子88,551人,女子87,123人となっている.それ以降1943年まで,男子では56,000~76,000人,女子では48,000~63,000人程度で推移する.1945年以降は,死亡者数は大幅に減少し,1964年には男子12,186人,女子10,468人と最低を記録する.しかし,その後上昇に転じ,2016年には男子65,636人,女子53,664人になっている.

図1. 肺炎による死亡者数の年次推移(1945年-2016年)

 2) インフルエンザ

 1899年におけるインフルエンザによる死亡は,男子626人,女子637人と非常に少なかった(図2-1).しかし,スペインかぜが猛威をふるった1918年には急増し,男子34,488人,女子35,336人となる.1920年にはさらに増加し男子53,555人,女子54,873 人になった.その後,多少の増減はあるものの順調に減少し,1943年には男子1,753人,女子1,659人になった.1946~1956年には1953年を除き男女とも数百人規模で推移した(図2-2).ところが,1957年にはいわゆるアジアかぜにより男子3,940人,女子3,795人の死亡が観測されている.また,1968年9月から流行した香港かぜや1977年12月から流行したソ連かぜのときにも死亡の増加がみられる.最近は2010年の男子96人,女子65人を底に増加の傾向がみられ2016年には男子748人,女子715人となっている.

図2-1. インフルエンザによる死亡者数の年次推移(1899年-2016年)

図2-2. インフルエンザによる死亡者数の年次推移(1945年-2016年)

 3) 誤嚥性肺炎

 1979年の死亡者は男子264人,女子159人であった.その後,概ね単調に増加し2016年には男子21,730人,女子16,920人となっている(図3).

図3. 誤嚥性肺炎による死亡者数の年次推移(1945年-2016年)

 3. 世代マップ

 1) 肺炎

 図4に男女別の世代マップを示した.この図から明らかなように,1899~1970年頃までは圧倒的に乳幼児での死亡が多いことがわかる.1980年頃からは逆に高齢者での死亡がそのほとんどを占めるようになっている.

図4. 肺炎による死亡者の世代マップ(上段:男子,下段:女子)

 2) インフルエンザ

 図5に男女別の世代マップを示した.この図より,1960年頃までは乳幼児での死亡が特に多かったことや,スペインかぜが流行した時期は圧倒的に青年期の死亡が多かったことがわかる.また,最近では肺炎と同様に死亡の多くは高齢者によるということがわかる.

図5. インフルエンザによる死亡者の世代マップ(上段:男子,下段:女子)

 3) 誤嚥性肺炎

 図6に男女別の世代マップを示した.この図より,男女とも90歳程での死亡が多数を占めていることがわかる.

図6. 誤嚥性肺炎による死亡者数の世代マップ(上段:男子,下段:女子)

 4. 年齢調整死亡率

 ここでは近年死亡者が多い肺炎と誤嚥性肺炎について考察する.

 1) 肺炎

 日本,アメリカ,ドイツ,イタリア,フランス,スウェーデン,オランダ計7か国の10万人当たりの年齢調整死亡率(基準人口:1990年ヨーロッパ人口)の推移を図7-1と図7-2に示した.アメリカの1998年から1999年にかけての急激な減少やスウェーデンの1996年から1997年の減少などは,国際疾病分類コード(ICD)の第9版から第10版への変更によるものと考えられる.各国とも年次により増減はあるものの最近は概ね減少傾向を示している.

図7-1. 肺炎の年齢調整死亡率(対10万人)の推移(男子,基準人口:1990年ヨーロッパ人口)

図7-2. 肺炎の年齢調整死亡率(対10万人)の推移(女子,基準人口:1990年ヨーロッパ人口)

 2) 誤嚥性肺炎

 日本,アメリカ,ドイツ,イタリア,フランス,スウェーデン,オランダ計7か国の10万人当たりの年齢調整死亡率(基準人口:1990年ヨーロッパ人口)の推移を図8に示した.日本以外の各国については国際疾病分類の第10版以降の情報だけが得られるのでそれを示した.他の先進諸国に比して日本のみが誤嚥性肺炎の年齢調整死亡率が急増していることがわかる.

図8. 誤嚥性肺炎の年齢調整死亡率(対10万人)の推移(基準人口:1990年ヨーロッパ人口)

(上段:男子,下段:女子)

 5. 肺炎の平均死亡率比マップ

 肺炎の都道府県別平均死亡率比マップを図9-1と図9-2に示した.これらの図から,平均死亡率比に特異的な地域特性があることがわかる.青森,大阪,山口,鹿児島は一貫して平均死亡率比が高く,逆に長野,静岡,宮城は低くなっている(表4).さらに,佐賀をみてみると,近年にかけて男女とも平均死亡率比が段々高くなっている(表4).

図9-1. 肺炎の15歳階級平均死亡率比マップ(男子)(左:1989年,中:2001年,右:2013年)

図9-2. 肺炎の15歳階級平均死亡率比マップ(女子)(左:1989年,中:2001年,右:2013年)

 

表4. 地域特性が認められる県の肺炎の平均死亡率比(1989-91年,2001-03年,2013-15年,15歳階級)

  1989-91 2001-03 2013-15
一貫して高い地域 青森 男子 1.13 (41) 1.07 (38) 1.27 (47)
女子 1.03 (33) 1.13 (45) 1.21 (41)
大阪 男子 1.20 (47) 1.12 (45) 1.14 (42)
女子 1.25 (46) 1.17 (47) 1.22 (43)
山口 男子 1.13 (40) 1.14 (47) 1.19 (46)
女子 1.18 (44) 1.10 (41) 1.24 (45)
鹿児島 男子 1.08 (38) 1.12 (46) 1.14 (43)
女子 1.14 (40) 1.03 (32) 1.22 (44)
近年高い地域 佐賀 男子 0.98 (23) 1.10 (44) 1.15 (45)
女子 1.01 (29) 1.12 (44) 1.25 (46)
一貫して低い地域 長野 男子 0.83 ( 4) 0.79 ( 1) 0.76 ( 2)
女子 0.84 (10) 0.73 ( 1) 0.73 ( 1)
静岡 男子 0.94 (18) 0.88 ( 4) 0.86 ( 6)
女子 0.83 ( 9) 0.89 ( 8) 0.81 ( 6)
宮城 男子 0.85 ( 5) 0.94 ( 9) 0.83 ( 3)
女子 0.81 ( 6) 0.92 (13) 0.78 ( 5)

 6. 動向予測

 1) 肺炎(図10,図11)

 肺炎による死亡の中心は男子では85歳,女子では90歳ほどになっている.今後,高齢者数の増加はあるものの死亡率が減少していくため,肺炎による死亡者数は減少すると考えられる.2030年には死亡者は男子54,000人,女子42,000人程度になると予測される.

 2014年10月1日から,肺炎球菌ワクチンが高齢者を対象とした定期接種となった.このワクチン接種の費用対効果を検討していく際には,現在観測されている死亡率の減少を十分考慮し分析する必要があろう.

図10. 肺炎による死亡者数の年次推移予測

図11. 肺炎による死亡者の世代マップ(2017年以降は予測値,上段:男子,下段:女子)

 2) 誤嚥性肺炎(図12,図13)

 誤嚥性肺炎による死亡の中心は肺炎と同様に男子では85歳,女子では90歳ほどになっている.現在の傾向が続けば死亡者数の減少は見込めず,2030年における死亡者は男子77,000人,女子52,000人程度に上ると予測される.

 誤嚥性肺炎による死亡を減少させるための手段として,「口腔のケア」や「口腔機能訓練」の重要性が指摘されている.これらの手段の活用により誤嚥性肺炎による死亡者の減少が期待される.今後の死亡動向を観測し,これらの手段の有効性を評価していくことも重要であろう.

図12. 誤嚥性肺炎による死亡者数の年次推移予測

図13. 誤嚥性肺炎による死亡者の世代マップ(2017年以降は予測値,上段:男子,下段:女子)

 3) 成人肺炎診療ガイドライン2017

 日本呼吸器学会が2017年4月「成人肺炎診療ガイドライン20178)」を発表した.このガイドラインは成人市中肺炎,成人院内肺炎,医療・介護関連肺炎それぞれで作成されていたガイドラインを1つにまとめて,単純・明確化したものである.

 このガイドラインでは,繰り返す誤嚥性肺炎や終末期の肺炎などに対して,個人の意思やQOLを尊重した治療やケアを行うよう治療アルゴリズムを盛り込んでいる.すなわち,誤嚥性肺炎のリスク判断や疾患終末期や老衰状態の判断などの患者背景のアセスメントに基づき,個人の意思やQOLを重視した治療・ケアを行うこととしている.

 このガイドラインの適用により積極的な治療を行わず,緩和ケアだけを行うケースも生じることになる.このようなケースが多く生じるようになれば,人口動態統計にも影響を及ぼすことが考えられる.肺炎や誤嚥性肺炎による死亡者の今後の動向を注視していく必要があろう.

 

結論

 疾病動向予測システムを用いて日本における肺炎とその関連死亡要因であるインフルエンザや誤嚥性肺炎による死亡の歴史的状況を分析するとともに今後の動向について考察した.

 1899年における肺炎による死亡は,男子23,379人,女子19,934人の合計43,313人で,総死亡者数932,087人の4.6%を占めていた.スペインかぜの流行時の急増はあるものの,1945年以降は,死亡者数は大幅に減少し,1964年には男子12,186人,女子10,468人と最低を記録する.2016年には男子65,636人,女子53,664人になっている.

 肺炎による死亡者は,2030年には男子54,000人,女子42,000人程度まで減少すると予測される.また,誤嚥性肺炎による死亡者は,2030年には男子77,000人,女子52,000人程度まで増加すると予測される.

 

補遺 用語解説

[死亡率]
 SAGEでの死亡率は,次のようにして計算される.
 1セル内の死亡率=1セル内の期間内死亡数÷1セル内の期首人口
 すなわち,個々のセルについて死亡数を期首人口で除したものが,死亡率となる.
[死亡率比]
 個々のセルについて,基準となる地域の死亡率(原則として,全国または全都)を1とした場合の当該地域の死亡率の割合.当該地域の死亡率÷基準となる地域の死亡率で計算できる.基準となる地域に比して,当該地域の状況が良好であれば1未満の数値をとり,不良ならば1より大きな数値となる.
[平均死亡率比]
 全国値で死亡数の80%以上を含む年齢域で得られる死亡率比を平均した値.基準となる地域に比して,当該地域の状況が良好であれば1未満の数値をとり,不良ならば1より大きな数値となる.
[年齢調整死亡率]
 死亡率は年齢によって異なることから,死亡率の年次推移や地域間比較を行う場合などには,集団の年齢構成の違いを考慮する必要がある.年齢調整死亡率を用いることにより,年齢構成の異なる集団について,年齢構成の相違を気にすることなく,より正確に地域比較や年次比較をすることができる.
 年齢調整死亡率=(観察集団の年齢階級別死亡率×基準集団の年齢階級別人口)の総和÷基準集団の人口の総和

 

参考文献

1) 東京都健康安全研究センター:SAGE(疾病動向予測システム)ホームページ:http://www.tokyo-eiken.go.jp/sage/(2018年7月31日現在,なお本URLは変更または抹消の可能性がある)

2) 池田一夫,竹内正博,鈴木重任:東京衛研年報,46, 293-299, 1995.

3) 池田一夫,上村 尚:人口学研究,30, 70-73, 1998.

4) 池田一夫,伊藤弘一:東京衛研年報,51, 330-334, 2000.

5) 倉科周介,池田一夫:日医雑誌, 123, 241-246, 2000.

6) 池田一夫,藤谷和正,灘岡陽子,他:東京健安研セ年報,56, 369-374, 2005.

7) 倉科周介:病気のなくなる日−レベル0の予感−, 1998, 青土社, 東京.

8) 日本呼吸器学会:成人肺炎診療ガイドライン2017,2017, 日本呼吸器学会,東京.

本ホームページに関わる著作権は東京都健康安全研究センターに帰属します
© 2019 Tokyo Metropolitan Institute of Public Health. All rights reserved.