日本における事故死の精密分析(事故 分析 日本 人口動態):(東京都健康安全研究センター)

東京都立衛生研究所年報,51巻,330-334 (2000)

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関連論文

  日本における事故死の精密分析
   東京都健康安全研究センター年報,61巻,373-379 (2010)

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研究要旨

 

 平成9年における不慮の事故による死者は,男子24,984名,女子13,941名であり,男子では約55%,女子では75%を60歳以上が占める.交通事故を除いた事故でみると,男子では死亡者の約60%を60歳以上が占め,女子ではそれが85%に達することが明らかとなった.

 平均死亡率比で1995-1997年の事故死を分析すると,大都市・大都市近郊で事故死が少ないことが分かった.事故死を細分し窒息死・転倒転落死・溺死等に分けて見てみると,大きな地域差が観測された.これが,今後の事故死の改善への一つのヒントになるものと考えられる.

 


 

研究目的

 

 「健康日本21(総論) 1) 」において「早世指標」が提案され,「従来の死亡率では,悪性新生物,心疾患,脳血管疾患の順に表されたものが,標準早死損失年数では悪性新生物,不慮の事故,自殺,心疾患,脳血管疾患の順で健康負担が表現される.働き盛りの中年期における「悪性新生物」,青年期における「自殺」や「不慮の事故」による死亡による健康負担を表現することに適した指標である.」と述べられ,不慮の事故死の重要性が指摘されている.また,「平成11年 人口動態統計月報年計(概数)の概況 2) 」の「第6表 死亡順位(1〜5位)別死亡数・死亡率(人口10万対),性・年齢(5歳階級)別(平成10年)」によると,不慮の事故による死亡を男女を合計した総数で見てみると,1〜24歳で第1位,25〜29歳で第2位,30〜39歳で第3位,0歳と40〜44歳で第4位,45〜84歳で5位を占めるなど死亡の中で大きな位置を占めている.そこで,本報告では重要性が認識されてきている事故死について年次比較や地域比較を行い,その原因や防止策を探るための一助とすることにした.

 

研究方法

 

 東京都立衛生研究所で開発している疾病動向予測システム(SAGE:Structural Array GEnerator) 3−9)を用い,事故死の動向を分析した.
 ①総数の年次推移,②30歳階級死亡数の年次推移,③世代マップ,④平均死亡率比マップ(各県別) 3)を用い,事故死の現状を総合的かつ精密に分析した.

 

結 果

 

1 日本における全事故死の年次推移(図1)

 日本での全事故による死亡者は,1950年において男子23,771人,女子9,065人であった.1952年に男子22,893人,女子8,309人と極小を記録した後,増加に転じた.多少の増減を繰り返しながら,1961年に,男子32,089名,女子9,525名となり,その程度の規模で1972年まで推移した.1972年以降,減少傾向を示し,1979〜89年の十年間は,男子で約2万1千人,女子では8千人前後を示した.1990年からは増加傾向を示し,1998年には男子24,984名,女子13,941名となっている.

 1959年と1995年のピークはそれぞれ伊勢湾台風と阪神大震災によるものである.

 

図1 日本における全事故死の年次推移

 

2 日本における死因別事故死の年次推移(図2)

 1950年以降の男子の事故死を細分類して図2に示した.事故死の中で大きな位置を占めるのが自動車事故死である.1950年代から1970年頃までの事故死の増加は,主として自動車事故によるものであった.1950年に男子で2,247名と全事故死の1割にも満たなかった自動車事故死が,1970年には16,540名に達する.しかし,この直後から一転して急激な減少が始まり,わずか5年ほどで半減する.その後まもなく再びゆるやかに増加しはじめ,1998年の交通事故による死亡者数は,男子9,552名,女子3,912名となっている.

 1998年における不慮の事故による死者の内訳を原因別にみると,男子では,交通事故(9,552名),窒息(4,280名),転倒・転落(3,776名),溺死・溺水(3,172名),煙・火等への暴露(854名),中毒(378名),その他(2,972名)の順で,女子では,交通事故(3,912名),窒息(3,277名),溺死・溺水(2,435名),転倒・転落(2,367名),煙・火等への暴露(485名),中毒(181名),その他(1,284名)の順となっている.

 

図2 日本における事故死の年次推移 (男子)

 

3 日本における30歳階級別全事故死の年次推移(図3,4)

 1950年の男子では,0-29歳が14,152名,30-59歳が7,211名,60歳以上が2,354名と事故死は圧倒的に29歳以下の若年層に多かった.1970年代半ばから,0-29歳と30-59歳では大きな減少が観測されたが,逆に60歳以上では停滞から増加に転じた.その結果,1980年代後半には60歳以上が他の年齢階級を凌駕し,死亡者数が逆転した.女子ではこの現象がより顕著で,1960年代半ば以降,全事故死のかなりの部分を60歳以上が占めている.

 1998年の不慮の事故による死亡数を0-29歳,30-59歳,60歳以上という3つの年齢階級でみると,男子ではその約55%を,女子では75%を60歳以上が占めていることがわかる.交通事故を除いた不慮の事故でみると,男子では60歳以上が死亡者の約60%を占め,女子では85%に達する.

 

図3 日本における全事故死の年次推移(男子:30歳階級)

 

図4 日本における全事故死の年次推移(女子:30歳階級)

 

4 日本における全事故死の世代マップ(図5,6)

 日本における全事故死の世代マップ(実数)を図5及び図6に示す.男子では,1950年から1970年代までは幼児と20歳代,1980年以降は高齢者でピークが観測される.女子を見てみると,幼児で1950〜1980年に,高齢者では1960年以降ピークが観測される.

 

図5 日本における全事故死の世代マップ(男子)

 

図6 日本における全事故死の世代マップ(女子)

 

5 日本における交通事故死及び交通事故を除く事故死の平均死亡率比マップ(図7)

 事故死の地域差を観測するため,図7に1995〜1997年の事故死を①交通事故死と②交通事故を除く事故死とに分けて平均死亡率比 3) マップを示した.

 交通事故死の平均死亡率比が低く,人口比で交通事故死の起こりにくい地域を順に示すと,男子では,東京(平均死亡率比:0.49),神奈川(0.63),大阪(0.78),埼玉(0.86),沖縄(0.90)の順であり,女子では,東京(0.46),沖縄(0.57),神奈川(0.59),大阪(0.72),長崎(0.80)の順となる.逆に,平均死亡率比が高い地域は,男子では香川(1.58),茨城(1.58),鳥取(1.47),青森(1.44),佐賀(1.39)の順で,女子では,香川(1.75),佐賀(1.54),福井(1.48),石川(1.48),徳島(1.42)の順である.

 交通事故死を除く事故死で見ると,平均死亡率比の低い地域は,男子では東京(0.74),沖縄(0.75),埼玉(0.80),千葉(0.82),北海道(0.83)となり,女子では沖縄(0.59),北海道(0.64),東京(0.64),栃木(0.71),宮崎(0.59)であった.高い地域は,男子では兵庫(1.88),高知(1.53),秋田(0.83),新潟(0.31),富山(1.31)で,女子では兵庫(3.55),高知(1.26),三重(1.19),新潟(1.18),岐阜(1.09)であった.なお,男女とも兵庫の値が大きいが,これは1995年の阪神大震災の影響によるものである.

 

図7 日本における交通事故死及び交通事故を除く事故死の平均死亡率比マップ
(男女,1995-1997)

 

考 察

 

1 事故死の構成

 1950年の人口動態統計において,事故死の筆頭は溺死(男女合計で9,713名,以下同様)であった.転倒・転落(3,132名),自動車事故(3,046名),鉄道事故(2,778名),落下物による打撲(2,141名),窒息(2,081名)がこれに続いている.それが,1997年になると溺死は5,659名と約6割に,鉄道事故は1/8の335名まで減少する.落下物による打撲,中毒,高熱物体・腐食性液体・高熱水蒸気の3つは労働災害の性格をもつことが多いが,これらも減少が著しい.逆に減少傾向がみられないのが,転倒・転落(1997年:5,872名),窒息(1997年:7,179名)である.

 幼児・児童の溺死,鉄道事故,労働災害などによる死亡が著しく減少した原因としては,地域や施設の物理的構造の改善によって被害の規模を圧縮できた点が考えられよう.すなわち,開放水面の管理,道路や踏切の構造の改善,職場環境の安全管理などが的確に実施されるようになり,事故死の改善がみられたものと考えられる.

 その一方,社会的,地域的な対応が決め手にならない最たるものが窒息である.幼児と高齢者に集中し,幼児は異物の,高齢者は食物の誤嚥が多く,非常に個人的な性格をもつ事故であり,たやすく根絶できるとは考えにくい.墜落や火災・火傷も個人的な性格をもつが,家屋を含めた建造物一般の構造と機能を工夫することで,ある程度改善することはできよう.

 

2 高齢者の事故死について

 20歳前後にピークをもつ男子の交通事故を除きほとんどの事故死で高齢者部分に死亡の最大ピークが存在する.男女の転倒・転落,溺死・溺水,窒息,煙・火炎への暴露,並びに女子の交通事故において高齢側に最大ピークが観測される.

 死亡者が広い年齢分布にわたる死因である「有害物質による不慮の中毒及び有害物質への暴露」を除き,今日の事故死の問題は高齢者の問題であることは明らかである.この高齢者の事故死の問題を解決していくことは,行政に課せられた大きな使命の一つとなろう.

 

3 事故死の地域特性

 日本における事故死の平均死亡率比は地域により大きく異なる.

 交通事故死は,東京・神奈川・大阪という大都市地域で大幅に少なく,都市近郊の茨城・栃木や中国・四国地域では多い.また,交通事故を除いた事故死でも東京や埼玉では少なく,四国地域で多い(図7).

 交通事故を除いた事故死を細分し,窒息死・転倒転落死・溺死に分けて見てみる.窒息死は,1992-94年・1995-97年いずれの年次でも,東京・大分で顕著に少ないのに対し,岩手・青森・高知では顕著に多い.転倒転落死では,北海道・青森で少なく,四国地域で多い.溺死は,東京・千葉・埼玉で少なく,神奈川・新潟・富山・高知で多い.溺死の約6割が浴槽内の死亡であり,高齢側で顕著である.

 このように事故死の平均死亡率比は地域により大きく異なる.一般的に大都市及びその近郊地域の死亡率比が非常に低い.この点が,今後の事故死の改善への一つのヒントになるものと考えられる.

 

結 論

 

 平成9年における不慮の事故による死者は,男子24,984名,女子13,941名であり,男子では約55%,女子では75%を60歳以上が占める.交通事故を除いた事故でみると,男子では死亡者の約60%を60歳以上が占め,女子ではそれが85%に達する.不慮の事故の問題イコール高齢者の問題であるということが明らかとなった.

 1995-1997年の平均死亡率比(Mean Mortality Ratio)で不慮の事故を分析すると,一般的に大都市及び大都市近郊で事故死が少ないことが分かった.交通事故を除いた事故死を細分し,窒息死・転倒転落死・溺死に分けて見てみると,非常に大きな地域差が観測された.この点が,今後の事故死の改善への一つのヒントになるものと考えられる.

 

用語解説

死亡率比:基準となる地域の死亡率を1とした場合の当該地域の死亡率の割合.当該地域の死亡率÷基準となる地域の死亡率で計算できる.

平均死亡率比:基準地域における当該死因による死亡総数の90%以上を含む年齢域で得られる死亡率比を平均した値.

 

参考文献

1)http://www.mhw.go.jp/search/docj/other/topics/kenko21_11/top.html

2)http://www.mhw.go.jp/toukei/11nengai_8/index.html

3)池田一夫,竹内正博,鈴木重任:疾病構造データベース,東京衛研年報,46,293-299,1995.

4)池田一夫,上村尚,竹内正博,鈴木重任:疾病動向システムによる行政支援,東京衛研年報,47,362-367,1996.

5)池田一夫,上村尚,竹内正博:行政施策と肝硬変死亡,東京衛研年報,48,354-359,1997.

6)池田一夫,上村尚:日本における死亡特性の分析,東京衛研年報,49,321-328,1998.

7)池田一夫,伊藤弘一:日本における自殺の精密分析,東京衛研年報,50,337-344,1999.

8)倉科周介,池田一夫,平山雄,西岡久壽彌:肝硬変と肝癌の時空間分布,肝膵胆,29,197-214,1994.

9)倉科周介:病気のなくなる日−レベル0の予感−,1998,青土社,東京.

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