日本における死亡特性の分析(死亡 分析 日本 人口動態):(東京都健康安全研究センター)

東京都立衛生研究所年報,49巻,321-328 (1998)

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   東京都健康安全研究センター年報,62巻,275-281 (2011)

 


 

研究要旨

 

 死因別死亡数を年次別に分析し日本の死亡特性を検討した.その結果,自動車事故以外の事故・乳がん・結腸がん・肝がん・肺がんの今後の推移に注意すべきこと,人口動態統計を利用する際には,死亡診断書の改訂やICDの使用変更年次に注意すべきこと,などが明らかとなった.

 地方衛生研究所は,「得られた情報から地域に密着した公衆衛生に関する新たな課題を発掘し,またその解決のための研究を企画・実施する」ことが求められている.SAGEを地域の課題を発掘するために利用できることが明らかとなった.

 


 

研究目的

 

 わが国では,1899年から中央集査による人口動態統計が実施されている(1944年から1946年を除く).この情報を利用することにより約100年にわたる日本人の死亡現象を解析することが可能である.厚生省大臣官房統計情報部では,カラーグラフによる図表を中心にして,わかり易く解説した冊子「最近の人口動態」を毎年発行している.この冊子は出生・死亡・婚姻など人口動態統計全般を包括するものであるため,死亡事象についての分析が十分であるとはいえない.そこで,主要死因別年次推移の分析をとおし,日本における死亡特性を明らかにするために本研究を実施した.

 

研究方法

 

 東京都立衛生研究所で開発している疾病動向予測システム(SAGE) 1-4) を用い,疾病別死亡動向の推移を分析すると共に今後の動向予測を示す.

 

結果および考察

 

1 総死亡( 図1の1

 人口動態統計が開始された1899年において,男子476,249名,女子455,828名であった.以後ゆるやかな増加で推移するが,1918年に至って突如激増し男女とも70万を越える.疫学史上に名高いスペインかぜである.1925年頃からは60万前後の水準が定着して太平洋戦争に突入する.敗戦前後の混乱期における過剰死亡は,優に300万を越えるともいうが,実態は1944〜46年のデータ欠損のために不明である.
 戦後の死亡数の減少は劇的である.終戦前後,男女とも年間50万台を数えた死亡数は,ほぼ10年を経て30万台へと激減し,漸増しながら1996年の男子488,605名,女子407,606名となる.今後も漸増を続け2010年頃には男子は60万台,女子は40万台半ばまで増加するであろう.

2 全事故と自動車事故( 図1の2 及び

 全事故による死亡はいずれの年次においても女子1に対し概ね男子2〜3強となっている.男子の事故死で特徴的なのは1970年代前半に激減していることである.これは自動車事故による死者の激減によるものである.1950年には2,247人で全事故死(23,783人)の1割にも満たなかった自動車事故死は,1970年には16,540人と全事故死(33,112人)の5割にも達した.しかし,この直後から急激な減少が始まり,わずか5年ほどでほぼ半減した.その後ふたたび緩やかに増加しはじめ1990年頃から10,000人前後となり,1996年には10,170名となっている.

 自動車事故死の世代マップを詳細に検討してみると

(1)20歳前後の青年期をピークとし中年後期までに広がる高値域が1959〜73年の期間に存在する

(2)1950年代から現在まで一貫して20歳前後に死亡数のピークが存在する

ことなどがわかる.1970年頃は団塊の世代が,そして1990年頃には団塊の世代の子供たち(第二次ベビーブームの世代)がちょうど20歳前後にさしかかっている.それが,1970年頃と1990年頃に死亡数のピークが現れた一因である.今後,青年期人口が減少し続けることから,交通事故死は漸次減少を続けていくであろう.ただし,高齢者人口の増加にともない,75歳前後の死亡が増加する可能性が高い.早急に,高齢者対策を講じていく必要があろう.なお,全事故における1995年のピークは阪神大震災によるものである.

3 自殺( 図1の4

 終戦直後の1947年から急速な増加が始まり,1958年には男女各13,895名,9,746名に達する.その後減少に転じ1967年の男女各7,940名,6,181名を最後にまたも増加に転じた.男子は1983年の16,876名がピークとなり1990年に12,316名と極小を示した後,再度増加に転じ1996年には14,853名に達した.女子では,男子に比してその増減は緩やかであり,1996年には7,285名となっている.SAGEで得られる世代マップで分析すると,1958年においては男女とも自殺のピーク年齢が20代であったのに対し,1967年の男子のそれは50歳前後となっており,58年と67年いずれにおいてもピークを構成しているのは昭和ヒトけた世代であることがわかる.1990年以降の自殺の増加は年齢的な特徴を持ち,ピークの中心は50歳前後となっている.

4 全結核( 図1の5

 結核に代表される感染症による死亡は戦後激減した.結核死は1950年の男女各65,089名,56,680名から激減し1996年にはそれぞれ2,064名,794名になっている.今後も順調に減少し2010年頃には男子1,300名,女子500名程度になることが予測される.

5 脳血管疾患( 図1の6

 これには,脳内出血,脳梗塞,くも膜下出血,その他の脳血管疾患が含まれる.1950年の死亡数は男女それぞれ42,668名と45,752名,以後,男子は1970年の96,910名,女子は1973年の86,009名までほぼ単調に増加し,以後はほぼ単調に減少して男子は1993年に55,279名,女子は1992年に62,627名と極小を示した.1996年には男子66,479名,女子73,887名となっている.今後は,多少の増減を示しながらもこの程度の死亡が続くであろう.なお,1994年から1995年にかけての急増は国際疾病分類(ICD:International Classification of Disease)の変更によるものと考えられる.

6 虚血性心疾患と心不全( 図1の7 及び

 虚血性心疾患と心不全の双方に,1993年から1994年にかけて大きな不連続が観測される.心不全による死亡は1968年以降漸次増加し1993年には男子51,362名,女子57,103名とピークを示した後,1994年には,男子37,536名,女子42,266名と突如激減し,1996年には,男子18,076名,女子21,851名となっている.それに対し,1993年において男子27,416名,女子24,498名であった虚血性心疾患は,1994年には,男子30,906名,女子26,975名と突如一割強も増加し,1996年には,男子38,364名,女子33,520名と激増している.これは,厚生省が死亡診断書を改訂し原死因として「心不全」を原則として認めなくなったことによるものである5).いずれにせよ,心疾患による死亡は21世紀初頭まで激増することが予測される.経過の追跡と有効な対策の立案が急務と思われる.

7 肝硬変と肝がん( 図1の9 及び 図3の21

 肝疾患の終末病像として,肝硬変と並んで重視されるのが肝がんである.B型やC型の肝炎ウイルスの感染は,慢性肝炎を経て肝硬変に発展し,さらに進めば肝がんに至るといわれる.肝硬変と肝がんをまとめて見てみる.

 1950年の肝硬変による死亡は男子3,299名,女子2,379名と男子が女子の約1.5倍弱であった.死亡数は男女ともおおむね単調に増加するが,その速度は男子の方が急で,1970年代前半には女子の2.5倍にまでなった.しかし,増加も1970年後半までで終わり,男子では1985年には12,054名を示した後1996年には11,198名まで減少している.女子も1992年の5,538名をピークに漸減し1996年には,5,319名となっている.

 これに対し,肝がんの死亡数は,独立して記載されるようになった1986年に男女各5,468名,3,544名だったのが,男女とも一貫して増加し1996年には男女各22,904名,9,271名となっている.

 肝硬変の死亡者数が今後も順調に減少していくのに対し,肝がんによるそれは2010年には現在の1.5倍,男子で30,000人,女子で15,000人程度になろう.

8 腎疾患と糖尿病( 図2の10 11

 腎疾患と糖尿病にも,虚血性心疾患と心不全でみられた死亡数の急激な変動が1978年から1979年にかけて観測できる.

 1950年の糖尿病死亡は男子1,005名,女子1,029名である.その後漸次増加を続け1978年には,男女それぞれ4,632名,5,053名に達する.だがこの傾向は翌1979年に至って突然頓挫する.男子3,839名,女子4,205名およそ15%の減少である.それ対し,1950年に男子12,224名,女子14,754名から始まり順調に減少を続け1978年に男女それぞれ3,338名,3,294名となった糖尿病死亡が,1979年には男女各4,671名,4,593名と突如40%程度増加した.
 これは,1979年にICDがⅧからⅨに改正されたためである.このようにICDが改正された時点での死亡数の大きな変動は我が国のみならず,アメリカやヨーロッパ諸国でも観測できる6).人口動態統計で年次推移の不連続が現れた時には,その年にICDの改正が実施されたかどうか十分注意する必要がある.

 1995年にICDがⅨからⅩに改正されたため,1995年以降の人口動態統計を用いる場合,その点に十分考慮を払う必要があろう.厚生省では,「第10回修正死因統計分類(ICD-10)と第9回修正死因統計分類(ICD-9)の比較」をインターネットのホームページで公開している(アドレスは, http://www.mhlw.go.jp/toukei/sippei/icd.html ).これを参考にするとよいであろう.

 1994年から95年にかけて糖尿病死亡が突然増加している.これもICDの変更によるものであろう.

9 悪性新生物( 図2の12

 悪性新生物すなわちがんによる死亡者数は,1950年の男子32,670名,女子31,758名に始まり,増加を続け1996年には男女それぞれ164,824名,106,359名に達し,今後もさらに増加し2010年には男子で20万人を越え,女子でも12万人を越えることが予測される.

 この悪性新生物による死亡者数増加を詳細に観測すると,興味深い事実がわかる.年齢区分を15歳刻みに,すなわち0-14,15-29,30-44,45-59,60-74,75歳以上と6つに分け,各々の年齢階級における男子の死亡率を計算して年次比較してみる.すると

(1)44歳以下の年齢階級ではいずれも1970年頃,45-59歳では1960年頃にピークを示し,現在は漸減傾向にある

(2)60-74歳では1970年頃にピークを示し,増減を繰り返しながらも幾分低下傾向を示している

(3)75歳以上では,1950年の649名(対10万人)から増加し1996年では2,307名(同上)となっている

ということがわかる.女子についても同様の傾向が見られる.つまり,悪性新生物の増加とは主として75歳以上の年齢層の問題であることがわかる.今後の対策が期待される.

10 乳がんと子宮がん( 図2の13 及び 14

 戦前の一時期(1937〜43年),年間7,000名台だった子宮がん死亡は1950年には8,783名となり,これをピークとして以後着実に減少していた.1970年代後半には5,000名台となり,1994年には4,445名と極小を示した.しかし,1995年4,865名,1996年4,963名と微増傾向を示している.今後の動向に十分払う必要があろう.

 子宮がんの減少とは対照的に,同時期に新たな問題が進行を始めていた.乳がんである.乳がんによる死亡は戦前(1937〜43年)で年間900名台,1955年の時点でも1,572名と子宮がんの1/5程度に過ぎなかった.しかしそれがほぼ単調に増加し,1985年には減少してきた子宮がんと交差する.1996年には7,900名に達している.このままの状況で推移すれば2010年には1万人を越える可能性も否定できない.特に,千葉・東京・神奈川・大阪・福岡などの大都市圏において乳がんの死亡率が高いことから,その動向に注意する必要があろう.

11 結腸がんと直腸がん( 図2の17 及び 18

 1955年における結腸がんの死亡数は男子723名,女子905名,直腸がんでは男子1,356名,女子1,255名であった.双方ともおおむね単調に増加するが,結腸がんの方の伸びが著しく女子で1970年代前半,男子で1980年前後に直腸がんを追い越す.差は徐々に開き,1996年には男女それぞれ結腸がんが11,055名と10,327名,直腸がんが7,048名と4,200名になっている.結腸がんと直腸がんは今後も増大する傾向にあるため注意を要する.

12 肺がん( 図3の22

 1958年に男女それぞれ2,919名と1,352名であった死亡数は,その後ひたすら増加を続け1996年には33,389名と12,356名に達し,30年間で男子は11倍,女子で9倍になっている.男子では,胃がんによる死亡32,384名を越え悪性新生物の中で首位を占めている.

 肺がんによる死亡の中心は戦後一貫して70歳前後であるため,高齢化の進展する将来は一層増加することが予測される.2010年には,男子で5万人台,女子で2万人台の死亡が予測される.

 

結論

 

 死因別死亡数を年次別に分析し日本の死亡特性を検討した結果,肺がん・結腸がん・肝がん・乳がんの今後の推移に注意すべきこと,人口動態統計を利用する際には,死亡診断書の改訂やICDの使用変更年次に注意すべきこと,などが明らかとなった.年次推移の他,SAGEで得られる年齢調整死亡率や世代マップなどを利用すると死因分析をより精密に行うことができることが明らかとなった.

 「地方衛生研究所の機能強化について」(厚生事務次官通達,平成9年3月14日厚生省発健政第26号)の中で,「地方衛生研究所は,公衆衛生に関する国,都道府県・指定都市,地方衛生研究所,保健所,市町村のネットワークの中の地方拠点として業務を実施するとともに,得られた情報から地域に密着した公衆衛生に関する新たな課題を発掘し,またその解決のための研究を企画・実施する」ことが求められている.

 地域の問題を発掘するには,当該地域の状況を他地域と比較することが重要である.東京都を他の道府県と比較し分析することも,都二次医療圏ごとに比較分析することもSAGEならば簡単である.SAGEを利用して精密な地域分析を実施し,地域における保健の向上に貢献していきたいと考えている.

 

[参考文献]

1)池田一夫,竹内正博,鈴木重任:疾病構造データベース,東京衛研年報,46,293-299,1995

2)池田一夫,上村尚,竹内正博,鈴木重任:疾病動向システムによる行政支援,東京衛研年報,47,362-367,1996

3)池田一夫,上村尚,竹内正博:行政施策と肝硬変死亡,東京衛研年報,48,354-359,1997

4)倉科周介,池田一夫,平山雄,西岡久壽彌:肝硬変と肝癌の時空間分布,肝膵胆,29,197-214,1994

5)厚生省大臣官房統計情報部人口動態統計課:死亡診断書等の改訂(案)について,厚生の指標,41(4),20-25,1994

6)倉科周介:疾病対策の構造(4)病気を数える,公衆衛生,58,880-883,1994

 

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