SAGE:疾病構造データベース

(平成6年度厚生科学研究費補助金:地域保健対策総合研究事業)

  「健康及び疾病事象に係わる包括的サーベイランスのデータ基盤確立に関する研究 研究報告書」より 抜粋

  疾病構造データベース ( SAGE.pdf : 107KB )

 


 

研究要旨

 

 疾病対策に関する行政施策立案を支援するための知識システム(SAGE)を開発した。SAGEは、長期大規模統計データを用いて社会事象の実態、特に疾病の実態を復元する実世界データベースと、内容の記述と表現の形式としての世代マップ機能を持つことを大きな特色とする。地域における生活環境の安全性と地域住民の健康損失の状況を、定式的かつ継続的に観測するシステムであるSAGEは、衛生行政を支援する情報システムである。

 


 

A.研究目的

 衛生行政の本来的な使命は生活環境の安全性の維持と向上にあると考えられる。

 この使命を達成するに当たり、地域における生活環境の安全性と地域住民の健康損失の状況を定式的かつ継続的に観測するシステムの構築はすこぶる重要な意味を持つ。そこで、社会全体の中での地域住民の健康損失状況の観測によって得られるデータの分析結果を行政当局や住民に提供し、衛生行政を支援することを目的として、SAGEの開発を行った。

 本報告では、このSAGEの概要を示し、地域保健サービスへの活用について考察した。

 

B.研究方法

1)資料の蒐集

 わが国では、1899年から中央集査による人口動態統計事業が、1905年には国勢調査事業が実施されている。これらの統計情報を蒐集整理することにより、地域における疾病状況を把握することが可能となる。そこで、諸外国も含め国勢調査人口、人口動態統計情報、住民基本台帳人口などの情報を蒐集することとした。

2)システムの構築

 次の条件を満たすようにSAGEを開発することにした。

 ① 巨視的な疾病の形成過程を精密に把握する

 ② 今後の疾病動向を高い確度で予測することを可能にする

 ③ 合理的かつ整合的な保健医療施策の立案を支援する

 

C.研究結果

1)資料の蒐集

 次の統計情報を蒐集した。

(1) 国勢調査:男女別、各歳別人口

  全国 (1903-)、都道府県 (1903-)

(2) 人口動態統計:死因別、男女別、5歳階級

  全国 (1899-)、東京都 (1950-)、道府県 (1986-)、都2次医療圏 (1986-)、アメリカ (1950-)、西ドイツ (1952-)、イタリア (1951-)、フランス (1951-)、スウェーデン (1951-)、タイ (1955-)

(3) 住民基本台帳人口:男女別、各歳別、区市町村別

  東京都 (1985-)

2)SAGEの構成

 蒐集した情報を整理して、SAGEシステムを構築した。

 現時点での、システム構成は次のとおりである。

(1) データベースシステム

  本  体:VAX Station-II/GPX

  主記憶 5MB,HD 800MB

  使用言語:VAX FORTRAN Ver. 5.0

(2) プレゼンテーションシステム

  本  体:PC-9801 2FD, HD 100MB

  使用言語:N88-日本語BASIC(86) または Visual Basic

 なお、今後の展開を考慮し、データベースシステム、プレゼンテーションシステムのウインドウシステムへの移行作業を現在実施中である。

3)SAGEで観測可能な事象

 SAGEで観測可能な事象は、次のとおりである。

(1) 死因

 人口動態統計死亡数表に収録されているすべての死因

(2) 地域および収録期間

 日本 (1899-)、東京 (1950-)、道府県 (1986-)、都2次医療圏 (1986-)、アメリカ (1950-)、西ドイツ (1952-)、イタリア (1951-)、フランス (1951-)、スウェーデン (1951-)、タイ (1955-)

(3) 処理

 ① 年次推移

 ② 世代マップ

 ③ 死亡率

 ④ 死亡率比

 ⑤ 死因別死亡率比

 ⑥ 地域別死亡率比

 ⑦ 平均死亡率比:死因・地域行列

 ⑧ 動向予測

 

D.考察

1)疾病の状況把握の実際

(1) 世代マップ (参考文献1)

 従来は単年度型の編集により年次断片として静的な認識を生成するに止まっていた大規模統計データを歴史時間軸と世代時間軸より成る時間平面に展開し、健康と疾病に関する事象を時代、世代、年齢の3種の時間位置で認識することを可能とした。SAGEの基本概念であり、そのデータベースの基本骨格である( 図1、図2)。

 

図1.世代マップ概念図

 

図2.日本女子の総死亡の世代マップ(1899-1991年)

 

(2) 死亡率比

 世代マップの特定の位置(一般には特定の列の特定の死因)における基準地域に対する対象地域の年齢階級別死亡率の比であり、死亡率の年齢分布の地域特性を示す( 図3)。

 

図3.日本とスウェーデンの総死亡の死亡率比(男子)

 

(3) 死因別死亡率比

 特定の死因について複数の地域の死亡率比を配列したもの。日本については全国を基準地域として47都道府県の死亡率比を、また都道府県については県を基準としてその2次医療圏の死亡率比列をみる(図4−1、図4−2)。

 

図4−1.疾病別死亡率比 自殺 男子

 

図4−2.疾病別死亡率比 自殺 男子 マップ表示

 

(4) 地域別死亡率比

 特定の地域について複数の死因の死亡率比列を配列したもの。地域における各種の死因の分布特性がみられる(図5)。

 

図5.地域別死亡率比 東京都 男子

 

(5) 平均死亡率比とその死因・地域行列

 死亡率比列についてその平均値を求めたものが平均死亡率比である。死因別死亡率比について平均死亡率比の行を作り、これを複数の死因について配列すれば、死因・地域行列が得られる。47都道府県の主要死因に関する死因・地域行列を
図6と図7に示す。これによって大規模行政圏における主要死因の地域分布の全体像を容易に概観できる。

図6.平均死亡率比 死因・地域行列 男子

 

図7.平均死亡率比 死因・地域行列 女子

 

2)動向予測

 ①世代マップを各行(世代)および各列(時代)ごとに切り、②切り取った面の形状を観測・分析し、③疾病動向の予測を行う。

 実際には、①横軸に年齢、縦軸に死亡数をとり、②死亡数の世代別死亡年齢分布図を描き、③世代別死亡数が上昇傾向にあるのか、下降傾向にあるのかを観測し、④その情報を基礎に予測を行う。

3)地域保健サービスへの活用

 地域保健医療計画の適切な策定と効果的な運用には、各種の疾病の疫学的特性の認識に基づく健康事象と疾病事象の把握が不可欠であり、SAGEはそのための有力な手段となり得る(企画)。

 また、SAGEの情報資源を強化して、生活環境の安全性を阻害する要因の社会空間内における分布特性を疾病のそれとの関連において認識することが可能となれば、疾病の発生機序の疫学的な探索と、それに基づく病因の効果的な制御の展望が得られよう(調査研究)。

 SAGEから生産される知識を多彩で柔軟な表現形態をもった情報として提供すれば、健康と安全、病因と疾病に関して地域住民の抱く知的ならびに実用的な関心に明確な根拠をもって答え、安心して健康に関する個人的な欲求の充足に努めることを可能にするであろう(研修、普及啓発)。

 

E.結論

 疾病対策に関する行政施策立案を支援するための知識システム(SAGE)を開発した。このシステムを企画、調査研究、研修、普及啓発など、地域保健行政の広範な分野において活用できることが分かった。

 地方行政事業の責任と権限は所管する地域に限定される。しかし、健康事象も疾病事象も、またそれに関与する各種の病因も、概して行政区画とは無関係に分布を変化させていく。そうしたいわば疫学的特性の認識に裏付けられた地域特性の把握があって、はじめて効果的な地域保健行政の展開が可能になるものと考える。SAGEの構築と運用がその一助となることを願っている。

[参考文献]

1)池田一夫、倉科周介:疾病動向予測システム、第5回公衆衛生情報研究協議会予稿集 P21-22, (1992,2)


 

 補遺 用語解説

 


 

[世代マップ]

 縦軸を世代時間(出生世代)、横軸を歴史時間(暦年)とする時間平面の所定の位置に、対象となる事象の数量もしくはその数量の多寡に応じた色彩を配置した疑似地形図のこと。ここでは、1つのセル(マス目)を出生世代として3年間の世代、暦年としては3年間隔で表示している。死亡数が少なければ寒色系で、多ければ暖色系で色分けしている。

 セルを横に順に観測することにより特定世代の状況を、白い斜線に沿って観測することにより特定年齢の状況を、またセルを縦に観測することにより、特定時代の死亡の状況を把握することができる。

 マップの白線より右の部分( 1992-2004年分)は各疾病による死亡数の予測値を示したものである。図表の右側に茶系が多ければ、今後死亡数が増加することが予測され、逆に青系が多ければ減少することが予測される。

[粗死亡率]

 粗死亡率=期間内死亡数/期首人口

で計算される値。人口千対で表示されることが多い。

 一般的に1年単位で、全年齢階級におけるそれとして計算されることが多い。

[死亡率]

 SAGEでの死亡率は、次のようにして計算される。

 1セル内の死亡率=1セル内の期間内死亡数/1セル内の期首人口

 すなわち、個々のセルについて死亡数を期首人口で除したものが、死亡率となる。

[死亡率比]

 個々のセルについて、基準となる地域の死亡率(原則として、全国または全都)を1とした場合の当該地域の死亡率の割合。当該地域の死亡率÷基準となる地域の死亡率で計算できる。基準となる地域に比して、当該地域の状況が良好であれば1以下の数値をとり、不良ならば1以上となる。

[平均死亡率比]

 全国値で死亡数の80%以上を含む年齢域で得られる死亡率比を平均した値。基準となる地域に比して、当該地域の状況が良好であれば1以下の数値をとり、不良ならば1以上となる。

[n歳階級別死亡率]

 人口動態統計の死亡個票には年齢という項目がある。この情報を利用して各歳別に集計し、各歳別に死亡率を計算することが可能である。しかし、死亡という事象はランダム(デタラメに)に発生するため、人口規模の小さい地域の死亡率は各年の変動が大きくなり、その傾向を読みとることが難しい。

 変動を平均化し、安定した傾向を明らかにするために、①年齢階級を5歳または10歳にする、②年を各年ではなく5年または10年とする、などの方法が一般的にとられている。

 SAGEでは、死亡状況の安定した傾向を把握するために、各年15歳階級死亡率も採用している。このように区分すれば、ひとの成長過程ともよく一致するからである。すなわち、0〜14歳は幼・少年期、15〜29歳は青年前期、30〜45歳は青年後期、45〜59歳は中年期、60〜74歳は初老期、75歳以上は老年期と区分することができるのである。

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