ナノマテリアルについて
1 ナノマテリアルとは

 みなさんは、最近、「ナノマテリアル」という言葉を耳にされたことはないでしょうか?ナノマテリアルとは、何でしょう?それは、縦・横・高さ(厚さ)のいずれかが100
nm(ナノメートル)を下回る物質のことです。

 1 m(メートル)の千分の一が1 mm(ミリメートル)、1 mmの千分の一が1 μm(マイクロメートル)、1 μmの千分の一が1 nmです。つまり、100
nmというのは、1 mの一千万分の一となります。ナノマテリアルというのは、それほど小さなモノなのです。

 ただし、上で述べたように、縦・横・高さ(厚さ)のいずれかが100 nmを下回るということなのですから、ナノマテリアルには、とてつもなく小さな粒状の物質の他に、とてつもなく薄いシート状の物質や、とてつもなく細い繊維状の物質も含まれるのです。

では、どうして、このようなモノが必要なのでしょうか?

繊維状ナノマテリアルの一例である多層カーボンナノチューブの電子顕微鏡写真

<3万倍拡大>

強靭性、高電気伝導性、高熱伝導性に優れている。

蓄電デバイス、燃料電池、医療などでの応用が考えられている。

(東京都健康安全研究センター撮影)

ナノマテリアルのメリット-1 表面積が広い

 モノが周りに働きかけて、いろいろな効果を示すには、それが周りと反応することが必要です。この反応の強さは、モノが周りと接する広さ、つまり表面積によって決まります。ですから同じ素材・重さ・体積のモノであれば、表面積が広いほど、大きな反応を起こすことができるのです。そのため、ある製品やその部品にナノマテリアルを使えば、素材・重さ・体積などを変えずにとてつもなく広い表面積を持たせることができるので、小型化や高性能化など様々な点で有益なのです。例えば、固相*1のままで用いる不均一触媒は触媒*2の表面で化学反応が進行します。従って、触媒の効率を良くするためには、表面積を大きくすることが肝心です。同等の量を用いたときの化学反応の効率はナノサイズ化されたもののほうが、大きい粒子に比べはるかに良くなります。

  • *1 固相 :物質が個体になっている状態
  • *2 触媒 :それ自身は変化をしないが、他の物質の化学反応のなかだちとなって、反応の速度を速めたり遅らせたりする物質
ナノマテリアルのメリット-2 細胞の中に入ることができる可能性がある

 人間の体を作っている細胞の大きさは、ふつう、直径が6〜25 μm程度です。大腸菌の直径は1~2 μmであり、ウイルスの直径は20~800 nmとされ、ノロウイルスでは35~40 nm、肝炎ウイルスでは36 nmです。粒状のナノマテリアルは、大腸菌より1/10~1/100小さく、ノロウイルス等と同程度かさらにそれより小さいものです。ですから、これまで細胞の中に入っていけなかったモノが、細胞の中に入っていけるかもしれず、そのことの利用価値は、とても大きなものです。現在、開発が進められているものとして、ナノサイズ化した構造体を活かし、がん組織など身体の患部に集中的に治療薬を送る技術の開発が進められています。これはナノ物質を薬の送達物質(キャリア)として用いるもので、ナノDDS(Drug
Delivery System)医薬品と呼ばれるものです。

  このように、ナノマテリアルは、私達の生活をより良くするための新しい素材として、いろいろな利点があります。実際、ナノマテリアルは、化粧品や健康食品、ある種の工業製品などとして、既に利用されているものもあります。例えば、二酸化チタンは、ナノ粒子化することで紫外線遮断効果を発揮するため、日焼け止め防止を目的に化粧品へ応用されていますし、白金ナノコロイドは抗酸化を目的に化粧品や健康食品等に用いられています。そして、今後もその利用範囲・規模が拡大すると見込まれています。医療の分野でも、ナノマテリアルやその製造技術を利用して、まったく新しい薬や診断機器の開発が進められています。

2 ナノマテリアルの安全性とリスク評価

  では、それらの安全性は、きちんと確かめられているのでしょうか?

  ナノマテリアルは、その小ささ・薄さ・細さなどの特徴から、同じ素材でもこれまでのモノと異なる性格を持っています。例えば、それらを人間や動物が食べ、飲み、吸い込んだ時に、体内でどのように動き、どのように作用するか、そして、それらをどうやって調べるかなどの点で、これまでの評価方法がそのまま使えない可能性があります。また、ナノマテリアルが環境中にどれ位、また、どのように存在しているかを調べるのにも、これまでと異なる方法が必要となる可能性があります。

 技術の進歩は、さまざまな新しい素材・製品・技術などをもたらし、私達の生活をより便利にしてくれます。しかし、残念ながら、それらは、人間を含む生物やそれらをとりまく環境にとって、必ずしも有益であるとはかぎりません。さらに、あるモノ(ここではナノマテリアルをさしますが)が生物や環境にとって有害であるかどうかは、時に、かなり長い時間がたって初めて判明することもあります。ですから、そうした新しいモノが生活環境に入ってくるに当たっては、それらの安全性をきちんと確かめなければなりません。ただし、このことについては、新しいモノをいたずらに恐れ避けるのでなく、

 

  • それらが生物や環境にとって有害であるかどうか
  • 有害であるとしたら、どのような時に、どのように有害があるのか、また、なぜ有害になるのか
  • 有害性を防ぐことができるのか
  • 有害性を防いで利用するだけの価値があるか

などを冷静に確かめることが大切です。そのうえで、安心できるのであれば、それらを積極的に用いれば良いのです。もちろん、そもそも有害でないということがわかれば、一番良いのですが。

 このような観点から、ヨーロッパやアメリカでは、早い段階から、ナノマテリアルの開発と並んで、その社会的影響(安全、健康、環境等)についての調査や研究が進められていました。日本は、開発が先行する傾向にありましたが、最近ようやく、安全性に関する調査研究が始まりました。現在、ナノマテリアルの安全性についての調査研究は、日米欧の行政機関・学術機関や産業界において、個別に、また、協調して進められており、国際的な取り組みも始まっています。東京都健康安全研究センターも、こうした調査研究に参加しており、都民の皆様に結果をお知らせしていく予定です。

<参考サイト>

東京都福祉保健局:カーボンナノチューブ等に関する安全対策について

http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2008/02/20i2m200.htm

厚生労働省:「ナノマテリアルの安全対策に関する検討会報告書」の公表について

http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/03/h0331-17.html

本ホームページに関わる著作権は東京都健康安全研究センターに帰属します
© 2014 Tokyo Metropolitan Institute of Public Health. All rights reserved.