クリプトスポリジウムによる集団下痢症

(光学顕微鏡写真 ×1000 赤く見えるのがクリプトスポリジウム)

 

水系感染が証明されたクリプトスポリジウム Cryptosporidium parvum による集団下痢症 

 Cryptosporidium はトキソプラズマやイソスポーラと近縁で、胞子虫コクシジウム類アイメリア亜目に属する直径5μmと最も小形類円形の消化管寄生原虫である。1976年にNime, F.A.et.al によって人体症例が初めて報告されるまでは、ネズミや家畜の寄生原虫として知られていたにすぎない。1982年、米国のCDC が激しい下痢と腹痛を訴える AIDS 患者多数から C.parvum を検出して以来注目されるようになった。本原虫に対する有効な薬剤や治療法が確立されていないため、 AIDS 患者が感染した場合には年余にわたって C.parvum が腸粘膜で増殖を繰り返し、対症療法を行ってもやがて衰弱死の転帰をとるケースが多い。一般健常者が感染した場合、水溶性から粘液便・軟便と腹痛が主症状でベロ毒素産生大腸菌O157 による下痢症のような血便は見られない。また多くの症例では感染1〜4週間後に自然治癒するケースが多いが、乳幼児や高齢者では長期化、重症化するケースもある。感染経路はヒト→ヒト(糞便の経口感染)、家畜→ヒト(直接接触感染および飲料水、食品汚染による経口感染)、水→ヒト(放牧場、畜舎周囲、有機肥料による農地など環境汚染)など様々な経路がある。

 集団的クリプトスポリジウム症の水系感染例としては、米国のテキサス州(1984)で5,900名が深井戸の水の供給を受け、ジョージア州(1987)では32,000名が汚染された河川を水源とする通常処理水道水に暴露され、それぞれ感染率は34%、40%であったと報告されている。この他、ニューメキシコ州(1986)では76人の本症例があり、キャンプ、遊泳時に河川など表流水の飲用によるものと推定されている。1993年には更に大規模な水道水汚染による本症の集団発生がウィスコンシン州ミルウォーキー市で発生、約2週間の間に湖水を水源とする水道給水を受けた160万人のうち403,000人が下痢を起こし、約4,000人が入院、AIDS患者など100人が死亡したと報告されている。次いでワシントン、ミネソタ、ネバダ、テネシー、サウスダコダ、インディアナ、ミズーリ、ニュージャージーなどの各州で5〜418症例の報告があり、感染源として飲料水の外、プール水や公園の池の水が特定されている。 

 我が国においては、1986年以降、高知、大阪、東京など各都府県で本症の散発症例14例が報告されている。我が国で水系感染による集団的クリプトスポリジウム症が初めて特定されたのは、平成6年(1994)8月〜9月の間に神奈川県平塚市の飲食店が集中する雑居ビルにおける736人中461人が発症した本原虫による集団下痢症の報告である。感染源調査の結果、この雑居ビルの地下に設置されている水道受水槽と排水タンクに連結パイプがあり、公共下水道へのくみ上げポンプの故障によって汚水が受水槽に逆流したことが集団発生につながったものと結論されている。

 1996年6月埼玉県越生町で小中学生を中心とした約1,000人の本症集団発生があり、検便を行った下痢症患者の約半数からC.parvum が検出された。 感染源として越辺川の伏流水を水源とする町営水道水が疑われたため C.parvumおよび細菌検査を行った結果、下痢症起因菌は見いだされず、町営水道から C.parvum が検出された。町営水道からの給水を停止して県営水道に切り替えることによりその後の発生は防止しえたが、梅林を中心とする産業とゴルフ場と観光の町がどのようにして本原虫に汚染されたかについては目下調査中である。 

 当所で6月15〜24日の間に越生町の施設とゴルフ場を利用し、約半数が下痢症を訴えた都内在勤者のうち 35名の検便を行った結果、13名(37.1%)から本原虫を検出した。越生町と離れた入間市のゴルフ場を利用し、同様に下痢を訴えた9名の内1名(11.1%)より本原虫を検出した。

 

関連文献

1) 平田強, 橋本温, 保坂三継:クリプトスポリジウム汚染と水道, 水道協会雑誌, 64(12), pp.2-10,1995

2) 保坂三継:クリプトスポリジウムとその水系感染症, 水情報, 16(3),pp.8-11, 1996

3) 保坂三継:水系原虫感染症−原因生物と流行発生, 用水と廃水,40(2), pp.119-132, 1998 (98/04/21)

 

東京都環境放射線測定サイト東京都感染症情報センター東京都健康安全研究センターサイト
〒169-0073
東京都新宿区百人町3丁目24番1号
tel. 03-3363-3231
e-mail. www@tokyo-eiken.go.jp
本ホームページに関わる著作権は東京都健康安全研究センターに帰属します
© 2014 Tokyo Metropolitan Institute of Public Health. All rights reserved.