化学物質過敏症について

 環境中に存在する微量な化学物質の暴露により、神経系や免疫系の異常をはじめとする様々な健康影響がもたらされる可能性が指摘されています。このような健康影響については、欧米においてMultiple Chemical Sensitivities (MCS)として議論がなされています。我が国においては「化学物質過敏症」として一般に呼称されていますが、その病態や健康影響の実態等に関する十分な科学的議論がなされておらず、「化学物質過敏症」という用語の使用にも医学会では必ずしもコンセンサスが得られていない状況にあります。環境庁の「本態性多種化学物質過敏状態の調査研究」報告書(平成10年度)によれば、「本態性多種化学物質過敏状態(MCS)は、共通の定義や診断の基準がないこと、またあっても客観的な基準でないため、正確な把握が困難であり、現時点ではその病態生理と発症機序は未だ仮説の段階にあり確証に乏しいと考えられる」として、「IPCS(International Program of Chemical Safety)のワークショップ(1996ベルリン)で定義されたIEI(Idiopathic Environmental Intolerances : 本態性環境不耐性症または本態性環境非寛容症)の概念も踏まえつつ本病態を把握することが妥当である」と述べています。そして、シックビル症候群との関連については、「両者を区別しつつ、関連を検討する必要がある」としています。

 一方、化学物質過敏症という言葉を我が国に初めて紹介した北里大学の石川 哲医学部長らのグループは、「未解明な部分が多い疾患だが」と断りながら、「化学物質過敏症は今までの中毒の概念では考えられない極めて微量の化学物質により、表1に示すような不定愁訴様の症状をきたし、アレルギー疾患的な特徴と中毒的な要素を兼ね備えた後天的な疾患群である。一般的に症状そのものには特徴がなく、身体のあちらこちらの臓器で、多発的にいろいろな形で現れ、アレルギー様症状と自律神経系の症状を主体としている」と述べています。

 いずれにしても、何らかの原因による環境不耐性を訴える患者の存在は確認されており、これらの患者は苦痛を訴えています。微量な化学物質と症状との因果関係の確認と機序の解明が必要です。

表1.化学物質過敏症の主症状(難波1998)
 自律神経障害  発汗異常、手足の冷え、頭痛、易疲労性
 精神障害  不眠、不安、うつ状態、不定愁訴
 気道障害  咽頭痛、口渇
 消化器障害  下痢、便秘、悪心
 眼科的障害  結膜の刺激障害、調節障害、視力障害
 内耳障害  めまい、ふらつき、耳鳴り
 運動器障害  筋力低下、筋肉痛、関節痛、振せん
 循環器障害  動悸、不整脈、循環障害
 免疫障害  皮膚炎、喘息、自己免疫異常

 

表2.化学物質過敏症の原因物質(難波1998)
 化学薬品  殺虫剤、除草剤、抗菌剤、可塑剤など
 有機溶剤  塗料、クリーナー、シンナー、芳香剤など
 衣料  カーペット、カーテンに含まれる防炎・可塑剤
 金属  貴金属、重金属
 その他  タバコ煙、家庭用ガス、排気ガス、大気汚染物質、医薬品

参考文献 

  1. 環境庁:「本態性多種化学物質過敏状態の調査研究」報告書(平成10年度)1998.
  2. 難波龍人:化学物質過敏症,建築雑誌,113,26-27,1998.
  3. 厚生省長期慢性疾患総合研究事業アレルギー研究班(石川 哲):「化学物質過敏症とは」パンフレット.

 


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