2011年~2014年に分離されたA群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)の薬剤感受性について

 A群溶血性レンサ球菌(S. pyogenes)は,小児の咽頭炎や皮膚炎の原因菌であり,高齢者に多く見られる致死率の高い劇症型レンサ球菌感染症の原因菌としても知られている.

 2011年~2014年に13都道府県の医療機関で分離されたS.pyogenes 1,608株について,10種類の抗生剤に対する薬剤感受性試験を実施したので,その結果を報告する.

 薬剤感受性試験はドライプレート(栄研化学)を用いて,Clinical and Laboratory Standards Institute (CLSI)に準拠した微量液体希釈法にて実施した.供試薬剤は,アンピシリン(ABPC),セファレキシン(CEX),セフジトレン(CDTR)及びセフジニル(CFDN)のβ-ラクタム系抗菌薬4剤と,テトラサイクリン(TC),クロラムフェニコール(CP),エリスロマイシン(EM),クラリスロマイシン(CAM),リンコマイシン(LCM)及びクリンダマイシン(CLDM)の合計10薬剤である.

 薬剤感受性試験の結果,β-ラクタム系抗菌薬のMIC90はそれぞれABPC:0.03μg/ml,CFDN:0.008μg/ml,CEX:0.5μg/ml及びCDTR:0.008μg/mlであり,すべての株が感受性であった(図1).β-ラクタム系抗菌薬以外の6薬剤では,CPに対する耐性は認められなかったが,TC耐性(≧8μg/ml)は371株(23%)であり,これは,前回の調査(2007~2010年)の21%(IASR Vol. 33 p. 214-215: 2012年8月号)とほぼ変わらなかった.マクロライド系薬剤であるEM及びCAM耐性(≧1μg/ml)はそれぞれ999株(61%),997株(61%)であり,これらは前回の調査(45%)より16ポイント増加していた.また,リンコマイシン系薬剤であるLCM及びCLDM耐性(≧1μg/ml)株はそれぞれ388株(24%),392株(24%)であり,これらは前回(12%)に比べ倍増していた.

 増加傾向が見られたEMのMIC値と主なT型の関係を図2に示した.T-1型の9割は耐性であり,T-4型の約7割が耐性であったが,64μg/ml以上の高度耐性株はいずれも3%以下であった.また,T-12型及びT-28型では,その6~7割が64μg/ml以上の高度耐性を示していた.CLDMではT-1型及びT-4型の9割以上が感受性であるのに対し,T-12型及びT-28型の6~7割は耐性であった.なお,T-B3264型のEM及びCLDM耐性は6~8%であった.

咽頭炎の治療薬として用いられるβ-ラクタム系抗菌薬に対して耐性のS.pyogenesは,現在のところ検出されていない.しかし,マロライド系やリンコマイシン系抗菌薬に耐性のT-1型,T-4型,T-12型及びT-28型など,咽頭炎や劇症型感染症で多く分離される株で近年耐性株が増加している.そのため溶血性レンサ球菌感染症の治療において,抗菌薬の選択には注意が必要と考えられる.

(臨床細菌・動物由来感染症室)

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