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アニサキス症とサバのアニサキス寄生状況

1 アニサキスとは
 アニサキスは寄生虫の仲間で、クジラに代表される海洋ほ乳類のお腹の中で成虫になり産卵します。クジラのフンと共に海水中に排出されたアニサキスの卵は、やがてオキアミと呼ばれるプランクトンに食べられます。そして、アニサキスは幼虫(第3期)に成長します(図1)。アニサキスの幼虫が寄生したオキアミを補食した魚では、アニサキスは成虫になれず、おもに内臓部分にとどまり、終宿主(成虫になれる宿主)であるクジラやイルカなどに捕食されるのを待っています(図2)。
 アニサキスの多くは魚介類の内臓部分に寄生していますが、一部のアニサキスは魚介類の筋肉部(刺身の部分)へも移行します。このアニサキスの幼虫が寄生した魚介類を、生または生に近い状態でヒトが食べると、アニサキスが主にお腹の中で胃や腸に突き刺さることがあり、アニサキス症と呼ばれる激しい腹痛(食中毒症状)を起こします。

図2 スケソウダラの肝臓表面(白い
部分)に寄生したアニサキス(矢印)


2 アニサキス症について
 アニサキス症は症状の程度により劇症型と緩和型に分けられ、さらに感染する部位の違いにより、胃アニサキス症および腸アニサキス症に分けられます。緩和型の胃アニサキス症および腸アニサキス症は、ともに症状が軽微で、自覚症状もない場合が多いのに対し、劇症型の胃アニサキス症では、喫食後8時間以内、劇症型の腸アニサキス症の場合では数時間から数日後に、持続する激しい腹痛や差し込むような痛みが起こり、吐き気や嘔吐を伴うこともあります。
 国内のアニサキス症は年間500~1,000例あると考えられ、サバが原因魚種として最も多いと報告されていますが、地域により違いがあり西日本および関東周辺ではサバ、イワシ、アジなど、北海道ではタラ、ホッケ、サケなどが多くなっています。東京都内ではメジマグロ(クロマグロの若魚)やシロザケを原因とした食中毒事例が2008年に発生しています。


3 アニサキスの種類
 アニサキスはその形態の違いから、10種類以上に分類されています。ヒトから検出されるアニサキスは、アニサキスⅠ型(Anisakis simplex)、アニサキスⅡ型(Anisakis physeteris)、シュードテラノバ(Psudoterranova decipiens)の3種の幼虫がよく知られています(表1)。

 ところが近年の研究により、アニサキス症の原因として最も多いアニサキスⅠ型幼虫(Anisakis simplex)がさらにアニサキス・ピグレフィー(Anisakis pegreffii)、アニサキス・シンプレックス・センス・ストリクト(Anisakis simplex sensu stricto)およびアニサキス・シンプレックスC(Anisakis simplex C)の3種にさらに分類されることが判りました。これら3種類のアニサキスの形態は非常に酷似しているため、形態的には分類できませんが、遺伝子レベルの相違により分類することが可能になりました。


4 サバにおけるアニサキスの寄生状況
 アニサキス症の原因魚種として最も多いサバに注目し、産地の明確な冷蔵状態のマサバ14産地、218尾についてアニサキスの寄生状況調査を行いました。その結果、162尾(74.3 %)のマサバからアニサキスⅠ型幼虫が検出され、1尾あたりの平均寄生数は22個体でした(表2)。

表2 産地別マサバにおけるアニサキスI型幼虫の寄生状況
                          (2007−2009)
産地 検査尾数        
陽性尾数        
(筋肉部
陽性数)
アニサキスI型幼虫の個体数 マサバ筋肉部へ  
の平均移行率
総寄生数
(筋肉部寄生数)
1尾あたりの    
平均寄生数
東シナ海・日本海側
長崎県 30 27 (1) 2721 (1) 90.7 0.10 %
(4/4073)

アニサキス・
ピグレフィー
が寄生
福岡県 13 13 (1) 1206 (2) 92.8
島根県 9 9 (0) 90 (0) 10.0
福井県 18 6 (1) 36 (1) 2.0
石川県 16 8 (0) 20 (0) 1.3
太平洋側
大分県 6 0 (0) 0 (0) 0 11.10 %
(81/733)

アニサキス・
シンプレック
ス・センス・
ストリクトが
寄生
高知県 6 6 (4) 42 (5) 7.0
兵庫県 8 6 (0) 27 (0) 3.4
三重県 15 7 (5) 42 (10) 2.8
神奈川県 14 12 (5) 150 (7) 10.7
千葉県 39 31 (13) 243 (35) 6.2
宮城県 11 9 (6) 53 (12) 4.8
岩手県 23 21 (5) 141 (6) 6.1
青森県 10 7 (2) 35 (6) 3.5
合計 218 162 (42) 4806 (85)
全体の平均 22.0 1.76% (85/4806)


 日本近海のマサバは,主に九州から三陸沖に分布する太平洋系群,東シナ海から日本海沿岸に分布する対馬暖流系群の2系群に分かれることが知られています。遺伝子レベルでのアニサキスⅠ型幼虫の解析により、長崎県から石川県の日本海産のマサバに寄生するアニサキスの80%以上がアニサキス・ピグレフィーで、高知県から青森県までの太平洋側で水揚げされるマサバでは、80%以上がアニサキス・シンプレックス・センス・ストリクトの寄生でした。すなわち、マサバの生息域でも海域により寄生するアニサキスの種類が異なることが分かりました(図3)。


図3 産地別マサバにおけるアニサキス・シンプレックス・
センス・ストリクトおよびアニサキス・ピグレフィーの検出
割合 ( [ / ]:アニサキス検査個体数に対する
AsまたはApの個体数)

 マサバの内臓から筋肉部位(刺身の部分)へのアニサキスの移行率は、表2よりアニサキス・シンプレックス・センス・ストリクトの方がアニサキス・ピグレフィーと比較して100倍以上高いことが明らかとなりました。また、国内のアニサキス感染者100名より摘出した虫体の99%がアニサキス・シンプレックス・センス・ストリクトであったという調査結果が報告されたこともあり、アニサキスの種類の違いがヒトにおけるアニサキス症患者数に反映しているのではないかと考えています。


5 アニサキス症の予防と治療(注意点)
  アニサキス症の予防に最も有効なのは、海産魚介類の生食を避けること、冷凍処理または加熱調理を行うことです。アニサキスは魚の内臓まわりの筋肉部へ移行する場合が多いことから、生食の場合には出来るだけ早期に内臓と内臓まわりの筋肉部を取り除くことがアニサキスの感染防止に有効です。
 現在までのところ、アニサキスに対して効果的な治療薬はありません。したがって、アニサキス症の治療法は、胃アニサキス症の場合には内視鏡による虫体摘出を行います。また、腸アニサキス症では、アニサキスが死滅し症状の緩和を待つ対症療法が行われることが多いのですが、腸閉塞を起こした場合には外科的手術により虫体を摘出します。


<参考となるリンク先>
健康安全研究センター:東京都微生物検査情報29巻10号(2008年10月)
http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/assets/epid/2008/epid0810.pdf