食品への放射線照射について

国内では、食品衛生法により、発芽防止を目的とする「ばれいしょ」への放射線照射以外、食品への放射線照射は認められていません。しかし、海外では、多くの国々において、殺菌等を目的とする食品への放射線照射が認められています。

そこで、放射線の一般的な性質や利用法などを紹介するとともに、食品への放射線照射について国内外の状況と当センターが実施した調査について紹介します。



原子力基本法では、「電磁波又は粒子線のうち、直接又は間接に空気を電離する能力をもつもの」で、「アルファ線、ベータ線、ガンマ線」の代表的な3種類のほか、「中性子線、エックス線、電子線」などのことを指すと規定しています。放射線はその種類により、蛍光作用、透過作用、写真作用、電離作用などの働きがあり、医療、工業、学術研究などの各分野で利用されています。

なお、「放射線」を出す物質を「放射性物質」といい、トリチウム、コバルト60、ウラン、トリウムなどがあります。また、「放射線」を出す能力を「放射能」といいます。

これらの関係を懐中電灯に例えると、出てくる光が「放射線」で懐中電灯が「放射性物質」にあたります。また、懐中電灯の光を出す能力(光の強さ)が「放射能」にあたります。

「放射能」の強さを表す単位は、「ベクレル(Bq)」で表します。


 放射線には様々な働きがあります。主な働きとその利用方法は次のとおりです。

(1)蛍光作
 
蛍光物質に放射線を当てると光を発します。これを蛍光作用といいます。
 この作用は、時計の文字盤や針などに塗られている夜光塗料などに利用されています。夜光塗料の中にはプロメシウム147という放射性物質が入っています。この物質から出るベータ線の蛍光作用により、蛍光物質が発光し、暗いところでも光って見えます。

(2)透過・吸収・散乱作用
 放射線はその種類などにより異なりますが、物質を透過する能力を持っています(透過作用)。 また、物質によっては、放射線が吸収されたり(吸収作用)、その進行方向が変わる散乱という現象が起こります(散乱作用)。
 この作用は、ジェット機のエンジンや、造船
所での溶接箇所の検査など、内部の傷や構造を調べる非破壊検査に利用されています。また、物質の厚さや密度などの測定に利用されています。

(3)真作用
 健康診断で行うエックス線写真がこれにあたります。放射線を写真フィルムや写真乾板に当てて現像すると、放射線の当たった部分が黒化します。この黒化の度合いから透過した放射線の量を知ることができます。
 この作用は、胸部エックス線(レントゲン)検査や、造影剤を用いた胃のエックス線検査、コンピューターで処理する断層撮影(CTスキャン)などにも利用されています。

(4)電離作用
 電気的に中性の原子に外からエネルギーが与えられると、原子は陽イオン(プラス)と自由な電子(マイナス)とに分かれます。これを電離作用といいます。
 この作用は、蛍光灯のグロー放電管などに利用されています。グロー放電管の中に入っているプロメシウム147から出るベータ線の電離作用により、スイッチを入れるとすぐに放電が起こり、蛍光灯を素早く点灯させることができます。

(5)化学作用
 ポリエチレンや塩化ビニルなどに放射線を当てると、ポリエチレンなどを作っている分子同士が結びつきます。すると見かけ上は同じでも、より固くなったり、より熱に強くなったりするなどの変化を起こします。これを化学作用といいます。
 
この作用は、ラジアルタイヤのゴムの強度を増したり、電線を被膜するポリエチレンの耐久性を向上させたりするのに利用されています。また、この作用を利用して、反発力を向上させたよく飛ぶゴルフボールを作ることもできます。

(6)トレーサー利用
 放射線はごくわずかでも検出できるので、ごく微量の放射性物質を見つけ出し、その動きを追うことができます。これを放射線のトレーサー利用といいます。
 これを利用して、放射性物質を生物に吸収させ、生物内でどのように動いているかを知ることができます。これにより、生物の代謝の仕組みなどを知ることができます。

(7)熱源利用
 放射性物質から出てくる放射線が物質中に吸収されると、放射線のエネルギーは熱エネルギーに変わります。
 この作用を利用して、放射性物質電池(ラジオアイソトープ電池)が作られています。この電池は、人工衛星や浮遊標識灯台などの電源として利用されています。

経済産業省(原子力のページ)ホームページから引用
http://www.atom.meti.go.jp/

文部科学省(原子力・放射線の安全確保)ホームページから引用
http://www.nucmext.jp/index.html

(8)生物作
 放射線は生物に対しても作用をもたらします。主な作用は、生物の遺伝子を構成するDNAの損傷です。放射線のエネルギーが体内の水分によって吸収され、これにより生ずる活性酸素が遺伝子を損傷させます。この結果、細胞の分裂が阻害されます。
 
この作用は、がんの治療に利用されているほか、野菜の発芽防止や食品の殺菌などにも利用されています。




食品へ放射線を照射する目的は、主に、食品の殺菌や貯蔵・保存のためです。従来の加熱による殺菌や殺虫剤・防腐剤などの化学薬品を使用した貯蔵・保存などに比べ、次のような特徴があるといわれています。

(1)食品をポリ袋などの容器・包装に入れたまま殺菌することができます。これにより、食品の容器・包装を開封しない限り、中の無菌状態が保たれるので非常に衛生的です。

(2)鮮度を保ったまま生鮮食品を殺菌したり、冷凍したまま冷凍食品を殺菌することができます。従来の加熱による殺菌では、生鮮食品や冷凍したままの冷凍食品の殺菌はできませんでした。

(3)小麦などの穀物には、貯蔵中の虫による食害などを防ぐため、殺虫剤などの化学薬品を使用することがあります。しかし、放射線照射を行えば、これらの化学薬品を使用する必要がなくなり、化学薬品による汚染や残留の心配がありません。

食品への放射線照射については、昭和55年、国連食糧農業機関、国際原子力機関、世界保健機構の3機関による合同専門家会議で、「10キログレイ以下の線量で照射を行う場合には、食品全般に対し、照射後の健全性(健康に影響を及ぼさず安全であり、かつ栄養素が損なわれていないこと)について問題はない。」という国際的な評価が示されています。

日本においても、昭和42年から農林省(現農林水産省)、厚生省(現厚生労働省)及び日本原子力研究所(現独立行政法人日本原子力研究開発機構)などが、ばれいしょ(ジャガイモ)、タマネギ、米、小麦、かまぼこなどの水産ねり製品、ウインナーソーセージ及びミカンの7品目の食品について放射線を照射し、マウスやラットに投与する研究が行われてきました。その結果、一定線量以下の放射線で照射された食品は、健全性が確認されています。
(旧科学技術庁「食品照射について、もっと知って欲しい。」から引用)




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食品への放射線照射

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