研究年報 第71号(2020) 和文要旨

 

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和文要旨
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総説

東京都における輸入農産物の残留農薬検査と国際整合性のための検査部位の変更
 東京都では食の安全性確保のため都内市場に流通する輸入農産物の検査を継続的に行い科学的なデータを提供している.本稿では,東京都健康安全研究センターにおける輸入農産物の検査規模について述べ,2010年に発出された通知「食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドラインの一部改正について」に対応するために実施した迅速試験法の導入について詳述する.さらに国際整合性のための検査部位の変更について最近の動向をふまえて解説する.当センターは1982年より輸入農産物について農薬の残留実態を調査し,研究年報で報告してきた.現在,一年間に約350検体の輸入農産物について,約300種類の農薬を検査している.QuEChERS法を基にした迅速試験法を導入することによって,従来の試験法に比べ試料量を1/10に,使用する有機溶媒量を1/6に,前処理所要時間を1/2にすることを可能とした.2019年に国際整合性のための検査部位の変更が通知され,メロン類果実やキウィーなどの7食品は検査部位が2種類に分かれることになった.当センターでは,新たに妥当性評価を実施した後,2種類になった検査部位それぞれについて約300種類の農薬の検査を行っていく.
残留農薬,輸入農産物,ポジティブリスト制度,妥当性,検査部位,国際整合性

 

東京都における生薬及び薬用植物等の試験検査

 生薬の試験検査は日本薬局方(JP)に準拠して実施され,JPの方法はその時の科学水準に合わせ常に更新される.また薬用植物等の試験検査は,種子交換等による植物の導入と栽培により得られた植物を用い実施され,植物の同定は外部形態の観察だけではなく,最近では遺伝子情報を基にした解析も行われる.東京都健康安全研究センターは,生薬及び薬用植物等による健康被害の未然防止を目的に,長年に渡り試験検査を実施してきた.本稿ではこれらを踏まえ生薬及び薬用植物等の試験検査についてその基本的な試験方法や技術情報等を概説する.
 公衆衛生上,当センターに求められる生薬及び薬用植物等の試験検査の領域は広範囲であるので,試験検査の充実のためには実際に起きた事例を通じ洞察することが欠かせない.そこで,生薬の試験験検査については,危険ドラッグ植物として都内に流通したサルビア,乱用植物として都内に確認されたハルマラ,乱用性が高い薬物として販売されていたウバタマ,麻薬及び向精神薬取締法で規制されるハカマオニゲシの迅速同定法について論述する.また植物系危険ドラッグに検出される合成カンナビノイドについて最近の他機関での関連研究も含め紹介する.

生薬,薬用植物,試験検査,アリストロキア酸,ダイオウ,鏡検,サルビア,ハルマラ,ウバタマ,ハカマオニゲシ,合成カンナビノイド,日本薬局方,危険ドラッグ,健康食品

 

事業報告

健康安全研究センターにおける新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査対応(2020年1月~5月)

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)は,2019年末から中国・湖北省武漢市を中心に拡大し,翌年1月中旬には我が国でも患者の発生を認めた.同年1月24日には都内初症例が報告され,翌25日には当センターでも初めての陽性例を報告した.その後,同感染症は急速な拡大によって世界的感染流行(パンデミック)を引き起こし,主要都市では都市封鎖が行われた.我が国では,流行初期からクラスター対策を中心とした感染拡大の防止に努めてきたが,3月下旬から感染者数が急増し,4月初旬には政府が緊急事態宣言を発出する事態に至った.
 そこで本稿では,2020年1月下旬から5月末までのCOVID-19を巡る経緯と,その間に健康安全研究センターで行った計17,608検体の検査対応について報告する.

新型コロナウイルス感染症(COVID-19),PCR検査,世界的感染流行,感染者集団(クラスター)

  

論文Ⅰ 感染症等に関する調査研究

東京都内山間部において採取したマダニ類における病原微生物の検索(2019年度)
 マダニが媒介する致死性の感染症として,2011年に中国で特定された重症熱性血小板減少症候群(Severe fever withthrombocytopenia syndrome :SFTS),2016年に北海道で患者が報告されたダニ媒介性脳炎(Tick-borne encephalitis :TBE)や日本紅斑熱などが注目されている.今回,2019年度に東京都内山間部において採取されたマダニ類を用い,nested-PCR法により,紅斑熱群リケッチアやライム病の病原体であるボレリア属などのマダニ媒介感染症に関与する病原体検索を行った.その結果,紅斑熱群リケッチア遺伝子が4件,アナプラズマ遺伝子が1件検出され,ボレリア属の遺伝子は検出されなかった.検出された紅斑熱群リケッチア遺伝子のうち,1件は病原性があるとされるRickettsia helvetica遺伝子であった.今回採取されたマダニの中に,病原性を持つ微生物を保有するマダニが確認されたことから,これらの地域に入る際は,マダニに刺咬されないように予防策を徹底する必要がある.
重症熱性血小板減少症候群,ダニ媒介性脳炎,紅斑熱群リケッチア,日本紅斑熱,ライム病,リアルタイムPCR法,nested- PCR法

 

感染症媒介蚊サーベイランスにおけるウイルス検査法の検討
 感染症媒介蚊サーベイランスにおけるウイルス検査について,多検体処理による迅速化を図ること及びウエストナイルウイルスの海外での発生状況に対応した検査法を整備することを目的として,リアルタイムPCR を用いたデングウイルス検出系及びウエストナイルウイルス検出系について検討した.デングウイルスについては,4 つの血清型に共通するプライマー及びプローブを設計した.合成DNA を用いて検出感度を検証した結果,各血清型に対する検出下限は10copies/μL 又は102 copies/μL であった.ウエストナイルウイルスについては,既報のプライマー及びプローブを一部改変した検出系に対する検証を行った.その結果,Lineage 1 及び従来法では標的としていなかったLineage 2 に対応する合成DNA を共に10 copies/μL まで検出した.さらに,蚊媒介ウイルスの培養上清を用いて特異性を検証したところ,各検出系はデングウイルス及びウエストナイルウイルスをそれぞれ特異的に検出することを確認した.
感染症媒介蚊サーベイランス,デングウイルス,ウエストナイルウイルス,リアルタイムPCR

 

東京都衛生検査所精度管理調査における病原体核酸検査の調査結果(2019年度)
 臨床検査の結果は診断及び治療方針の決定に影響を及ぼすため,高い精度が求められており,検査精度の信頼性確保が不可欠である.平成30年12月に医療法等の一部を改正する法律が施行され,登録衛生検査所等における病原体核酸検査に関する精度管理の基準が明確化された.これに伴い,令和元年度,東京都の精度管理調査において,都内登録衛生検査所を対象にB型肝炎ウイルス(HBV)の病原体核酸検査を試行的に実施した.市販のHBV遺伝子コントロールをEDTA血漿で希釈して試料を作製し配布した.精度管理調査参加施設及びレファレンス施設とも良好な結果が得られた.現在,新型コロナウイルス感染症の核酸検査を含め,多くの施設で様々な遺伝子検査が実施されていることから,病原体核酸検査の外部精度管理調査を今後も継続して進めていく必要がある.
精度管理調査,臨床検査,登録衛生検査所,B型肝炎ウイルス(HBV),病原体核酸検査

 

東京都内で検出された新型コロナウイルスの次世代シーケンサーを用いた遺伝子解析(2020年2月~5月)
 2019新型コロナウイルス(2019-nCoV, SARS-CoV-2)は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因となるコロナウイルスである.2020年1月に初めて都内でCOVID-19患者が確認された後,3月下旬から5月にかけて感染が拡大した.今回,2020年2月から5月までに臨床検体およびVero系細胞により分離されたSARS-CoV-2株を次世代シーケンサー(NGS)を用いて解析した.その結果,分離培養株では,臨床検体では認められなかった混合塩基が確認された.さらに,得られた全長配列と武漢で報告された参照株を比較した結果,多数の変異が認められた.系統樹解析では,患者間に関連する事例で類似の配列を有してクラスターを形成し,また,中国武漢市で報告された株に近縁な「武漢型」およびスパイク領域にD614Gの変異を有する「欧州型」の2つの系統に大きく分かれた.ハプロタイプ解析の結果では,2020年2月から3月下旬までは「武漢型」による感染が主であったが,3月下旬以降は「欧州型」による感染拡大が起きたと推定できた.
2019新型コロナウイルス,2019-nCoV,SARS-CoV-2,COVID-19,次世代シーケンサー,NGS

 

新型コロナウイルス検査における簡易抽出型リアルタイムPCR法の有用性の検討
 東京都健康安全研究センターでは2020年1月24日に新型コロナウイルス感染症の国内第3例目の検査を実施し,以降,国内の感染拡大に伴い1日最大500件を超える検査を取り扱ってきている(2020年8月現在).新型コロナウイルス検査にはリアルタイムPCR法を用い,当初よりRNA抽出には抽出および精製が可能なスピンカラムを用いてきた.2020年4月以降,新型コロナウイルスの簡易抽出型リアルタイムPCR検査キットが国内の複数メーカーから発売され,RNA精製工程を要しない効率的な検査が可能となった.本研究では,2020年4月から7月までに積極的疫学調査(新型コロナウイルス検査)事業等で当センターに搬入された生体試料および分離培養検体を用い,簡易抽出型リアルタイムPCR法の検出感度および特異度の検討を行った.
 その結果,ウイルスRNAに対する簡易抽出型リアルタイムPCR法の検出限界は12~32 copies/µLで,従来法(1.6~32 copies/µL)と比較し,やや感度は劣るものの高感度な検査系であることが確認された.また,生体試料を用いた比較では,感染性の高い検体で安定的かつ十分な検出感度を有していた.さらに,短時間で多検体数を処理できることから,大規模流行時の多検体検査において有用であると判断された.

新型コロナウイルス,COVID-19,severe acute respiratory syndrome coronavirus 2,SARS-CoV-2リアルタイムPCR法

 

東京都におけるポリオウイルス環境水サーベイランス(2019年度)
 2012 年9 月,わが国の定期接種用ポリオワクチンが経口生ワクチン(OPV)から不活化ワクチン(IPV)へ変更された.しかしながら,国外の一部地域においてはポリオウイルスまたはワクチン由来ポリオウイルス患者が依然として確認されており,インバウンド等による国内へのポリオウイルスの侵入が危惧されている.このことから,2019 年度から東京都においてもポリオウイルスの侵入を効率的に補足する目的で,環境水中(下水流入水)のウイルスサーベイランスを開始した.その結果,2019 年度において,年間を通しポリオウイルスは分離されず,ポリオウイルス以外のエンテロウイルス(エコーウイルス11 型,エコーウイルス6 型,コクサッキーウイルスB 群3 型等)やアデノウイルス(1型,31 型等),レオウイルスが分離された.

環境水サーベイランス,下水,ポリオウイルス,エンテロウイルス,アデノウイルス,レオウイルス 

 

東京都内で初めて検出された重症熱性血小板減少症候群ウイルス(SFTSV)の遺伝学的解析
 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は,SFTS ウイルス(SFTSV)によるマダニ媒介性感染症で,西日本を中心に患者が報告されている.東京都ではこれまで患者の報告はなかったが,2019 年5 月,都内で初めてSFTS 患者の発生が確認された.今回,本患者血清からSFTSV 遺伝子を検出するとともに細胞培養法によりウイルス分離を行った.分離株由来RNA を用いて,次世代シークエンサーによるRNA-Seq 解析を行った結果,SFTSV のほぼ全領域の塩基配列が得られた.また,系統樹解析を行ったところ,3 分節すべて国内で検出されるgenotype J1 に分類された.

重症熱性血小板症候群,SFTS,SFTSV,次世代シークエンス,NGS,NGS解析,血清検体

 

東京都内で検出されたノロウイルスの遺伝子解析(2019年度)
 2019年度に東京都内の食中毒疑い事例でノロウイルス(NoV)が検出された96事例を対象にVP1領域における分子疫学解析を行った.解析の結果,最も多く検出されたのはGII.4Sydney_2012で,続いてGII.2,GII.17が約8割を占めていた.検出された遺伝子型のうち,GII.12,GII.21,GI.3が検出された全事例と,それ以外の遺伝子型が検出された38事例についてポリメラーゼ領域を含む解析を行ったところ,GII.12とGII.21はそれぞれGII.12[P16],GII.21[P21],GI.3はGI.3[P3]とGI.3[P13]に分類され,GII.4はGII.4[P31]とGII.4[P16]の2つのクレードに分かれていたことが判明した.

ノロウイルス,食中毒,遺伝子型,VP1,ポリメラーゼ領域

 

論文Ⅱ 医薬品等に関する調査研究

危険ドラッグから検出された薬物に関する理化学試験結果及び新規LSDアナログの検出(令和元年度)
 令和元年度に行った市販危険ドラッグから検出された薬物の理化学試験結果及び新規LSD(リゼルグ酸ジエチルアミド)アナログの分析結果について報告する.薬物の理化学試験には,主にフォトダイオードアレイ検出器付液体クロマトグラフィー(LC/PDA),電子イオン化質量分析計付ガスクロマトグラフィー(GC/EI-MS)を用い,必要に応じて高分解能精密質量測定法(HR-MS),核磁気共鳴スペクトル測定法(NMR)及び単結晶X線構造解析法により構造解析を行った.令和元年度は,危険ドラッグ147製品のうち,19製品から薬物が検出された.新たに検出された薬物は5種であり,構造解析の結果,BOD,4-Chloro-N-butylcathinone,N-Butylpentylone,N-Ethylheptedrone及びCUMYLPEGACLONEであった.また,規制薬物では指定薬物が8種検出された.新規LSDアナログについては,当センターで分析した紙片状危険ドラッグ12製品から,ALD-52,AL-LAD及びETH-LADの3種類の薬物が検出された.
危険ドラッグ,指定薬物,LC/PDA,GC/EI-MS,LSDアナログ

 

化粧品中の配合成分の検査結果(平成30年度)
 平成30年度に搬入された化粧品105製品について,ホルマリン,防腐剤,紫外線吸収剤,タール色素及び化粧品に配合可能な医薬品成分の製品における表示状況及び検査結果をまとめた.配合禁止成分であるホルマリンは,ホルムアルデヒドとして分析し,ホルムアルデヒドが検出された製品は1製品であった.防腐剤については,パラオキシ安息香酸エステル類及びフェノキシエタノールの検出頻度が高かった.最大配合量を超過した濃度の防腐剤が検出された製品はなかった.また,表示されていない防腐剤が検出された製品は9製品であった.紫外線吸収剤については,パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシルの検出頻度が高かった.最大配合量を超過した濃度の紫外線吸収剤が検出された製品はなかった.また,表示されていない紫外線吸収剤が検出された製品は1製品であった.タール色素については,赤色227号,紫色401号,青色1号及び黄色4号の検出頻度が高かった.表示されていないタール色素が検出された製品は2製品であった.承認化粧品成分については,l-メントール,酢酸dl-α-トコフェロール及びグリチルリチン酸ジカリウムの検出頻度が高かった.最大配合量を超過した濃度の承認化粧品成分が検出された製品及び表示されていない承認化粧品成分が検出された製品はなかった.
化粧品,ホルマリン,ホルムアルデヒド,防腐剤,紫外線吸収剤,タール色素,承認化粧品成分

 

論文Ⅲ 食品等に関する調査研究

牛肝臓からの Campylobacter fetus subsp. fetus の検査法
 Campylobacter fetus subsp. fetus (以下Cff)は,ヒト対し敗血症,髄膜炎,下痢等の多様な疾病を引き起こす.ヒトにおけるC. fetus 感染症の一因として,牛肝臓の生食が指摘されているが,食品を対象としたCff の標準試験法はない.そこで,牛肝臓からのCff の検査法について検討した.その結果,Bolton 増菌培地で37℃,48 時間,微好気培養後,培養液を選択分離培地のCCDA(SEL),Skirrow 培地に塗抹し,30℃,48~72 時間,微好気培養条件下で,Cff を容易に分離することが可能となった.また,Cff とCampylobacter fetus subsp.venerealis (以下Cfv) を鑑別するリアルタイムPCR 用プライマーを開発した.さらに,選択分離培地を30℃および42℃の2 種類の温度で培養することで,同一検体からCff だけでなくC.jejuni やC. coli の検出も可能となり,食中毒検査における効率的な食品からの検出法と考えられた.

Campylobacter fetus subsp. fetus, Campylobacter fetus subsp.venerealis,培養方法, Bolton増菌培地,牛肝臓,食中毒, リアルタイムPCR

 

リアルタイムPCRによるクエおよびアブラボウズ判別法の開発

 クエおよびアブラボウズを迅速に判別するため,リアルタイムPCR法を開発した.新規に設計したクエおよびアブラボウズ用のプライマー,プローブを用い,Threshold lineを0.20に設定し, クエについてはCt値が35以下,アブラボウズについてはCt値が39以下での増幅の観察を行うことにより,これらを判別できた.開発したリアルタイムPCR法の特異性を確認するために10魚種(サワラ,マダラ,スズキ,アカカマス,ヒラメ,マハタ,コノシロ,マカジキ,シロアマダイおよびカワハギ)について,本法で試験を行ったところ,これらの魚種では非特異的な増幅は見られなかった.また,試料を加熱することによる影響を調べたところ,沸騰水中で15分間加熱した試料においても,クエおよびアブラボウズを検出することができた.これらの結果より,本法はクエおよびアブラボウズを判別するための有用な試験法であると考えられた.

クエ,アブラボウズ,リアルタイムPCR,判別

 

LC-MS/MSを用いた食品中指定外油溶性着色料の分析

 我が国で許可されていない食品添加物が食品中から検出された事例が国内外で報告されている.食の安全確保のためには,輸入食品検査における適切な試験法の開発が不可欠である.そこで,食品中の指定外油溶性着色料(スーダンI~IV及びパラレッド,シトラスレッド2,スーダンオレンジG,スーダンレッドG,オイルオレンジSS,オイルバイオレット)の一斉分析法の検討を行った.アセトニトリルを用いて抽出を行い,シリカゲルカートリッジにより精製した後,LC-MS/MSにより測定する分析法を作成し,各着色料を1 μg/g 添加した食品を分析したところ,66.8~119.8%の回収率が得られた.本法は日常検査に適用できる方法であると考えられた.

油溶性着色料,LC-MS/MS,食品

 

水素キャリアガスを用いたGC-ECDによるPCB分析の検討

 GC-ECDによるポリ塩化ビフェニル(PCB)分析において,キャリアガスとして用いるヘリウムガスの世界的な供給不足を受け,キャリアガスをヘリウムガスから水素ガスに切り替えるための検討を行った.水素ガス流量1.88mL/minでPCB標準品の測定を行ったところ,測定時間は大幅に短縮できたものの,一部のピークで分離や形状が不良となった.ガス流量を0.80 mL/minに設定し,パルス圧を60 psiに変更したが,改善が認められなかった.しかし,カラムオーブンの初期温度を60°Cにすることで,ピークの分離・形状,共に顕著に改善が認められた.このメソッドにてPCB標準品を繰り返し測定したところ,変動係数は9%であり,ヘリウムキャリアと同程度に安定した測定が可能であった.

ポリ塩化ビフェニル(PCB),GC-ECD,水素キャリアガス

 

都内で販売されている自然解凍冷凍食品の細菌学的調査

 加熱せずに喫食できる自然解凍冷凍食品の細菌学的実態を把握することを目的として,一般家庭用の自然解凍調理 冷凍食品及び冷凍野菜を対象に,解凍開始時の検体と弁当使用時を想定した保存試験後(35°C,9時間又は30°C, 6 時間)の検体について細菌検査を実施した.その結果,自然解凍調理冷凍食品においては,一般生菌数は解凍開始時が<10~102cfu/g,保存試験後(35°C,9時間)が<10~103 cfu/gの範囲に分布しており,大腸菌群,糞便系大腸菌群 及び黄色ブドウ球菌はすべての検体で陰性であった.自然解凍の冷凍野菜において,一般生菌数は解凍開始時が101 ~103 cfu/g,保存試験後(30°C,6時間)が<10~105 cfu/gの範囲に分布しており,保存試験後(30°C, 6時間)の4 検体(18.2%)で大腸菌群が検出された.また,解凍開始時及び保存試験後の各1検体で糞便系大腸菌群が検出され, 菌種はKlebsiella pneumoniae であった.冷凍野菜からは,黄色ブドウ球菌とセレウリド産生セレウス菌は検出され なかった.本調査の結果から,自然解凍調理冷凍食品は細菌学的に良好な衛生状態が保たれていることが示された. 自然解凍品の冷凍野菜においては,食中毒起因菌は検出されなかったが,弁当に使用する際は温度管理や喫食までの 時間を考慮する必要があると考えられた.

冷凍食品,自然解凍,弁当,調理冷凍食品,冷凍野菜,細菌学的検査

 

食肉の大腸菌群検査における酵素基質培地の検討

 デソキシコーレイト寒天培地を用いた食品の公定法に準じた検査法(従来法)と,XM-G寒天培地を用いた検査法(酵素基質法)を食肉の大腸菌群検査において比較した.食品由来大腸菌群5株を用い,純培養希釈液を両寒天培地で混釈培養して比較した結果,各培地で発育コロニー数に差は認められなかったが,発育したコロニーの大きさや色は菌株ごとに差が認められ,XM-G寒天培地の方が判定し易かった.さらに,食肉107検体を用いて2種類の検査法を比較した結果,従来法の陽性率は55.1%,酵素基質法の陽性率は65.4%であった(有意差なし).両法において陽性であった57検体の大腸菌群数には正の相関がみられ,酵素基質法の大腸菌群数の方が1.4~2.8倍多く定量された.この理由として,XM-G寒天培地には損傷菌を回復させるピルビン酸が含まれること,及び酵素基質法で定義される大腸菌群が従来法よりも多くの菌種を含むことが要因と考える.酵素基質法は,従来法と同等の陽性率で,検査が簡易かつ迅速になるため,食肉の大腸菌群検査法として有用と考えられる.

食肉,大腸菌群,酵素基質培地,XM-G寒天培地,デソキシコーレイト寒天培地

 

食品中の放射性物質の検査結果(令和元年度)

 平成23年3月11日に発生した東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故を受け,東京都では,平成23年度から都内で流通している食品の放射性物質検査を強化している.令和元年度は,国産食品1,100検体及び輸入食品70検体,計1,170検体について放射性セシウム及び放射性ヨウ素の検査を行った.検査には,ゲルマニウム半導体核種分析装置及びヨウ化ナトリウム(タリウム)シンチレーションスペクトロメーターを用いて測定した.その結果,国産食品のしいたけ1検体,輸入食品のブルーベリー加工品2検体から放射性セシウム(Cs-137)が検出されたが,いずれも基準値未満であった.

放射性物質,核種分析,放射性セシウム,ゲルマニウム半導体核種分析装置,ヨウ化ナトリウム(タリウム)シンチレーションスペクトロメーター,食品

 

食品中の特定原材料(卵,乳,小麦,そば)の検査結果(平成29 年度~令和元年度)

 東京都で平成29 年4 月から令和2 年3 月に実施した,加工食品中の卵,乳,小麦,そばを対象とした特定原材料検査結果を報告する.東京都内で製造または流通していた食品について,卵を対象として43 検体,乳を対象として42 検体,小麦を対象として35 検体,そばを対象として26 検体についてELISA 法によるスクリーニング検査を実施した結果,小麦で2 検体,そばで2 検体が陽性となった.陽性となった4 検体について,PCR 法による確認検査を行った結果,いずれも陽性であった.これらの検体には,原材料表示に検査対象となる原材料の記載はなかった.食物アレルギーによる健康被害の防止のために,今後とも特定原材料の検査を継続的に実施することが重要である.

食物アレルギー,特定原材料,卵,乳,小麦,そば,ELISA 法,PCR 法 

 

化学物質及び自然毒による食中毒事件例(令和元年)

 令和元年(平成31年)に東京都内で発生した化学物質や自然毒による食中毒及び有症苦情事例のうち,当センターで検査したものは10件で,そのうち最終的に食中毒とされたものは1件であった.本報では,今後の食中毒検査の参考とするために,検査を実施した5事例について報告する.ヒスタミンによる食中毒1事例は,ブリのみぞれ焼きを喫食し,発疹や顔面の紅潮,頭痛などの症状を呈した事例で,ヒスタミンの定量を行った.その結果,検食及び参考品からヒスタミンが検出された.ふぐによる有症苦情事例は,ふぐの刺身や皮,鍋などを喫食して手の痺れや吐き気,腹痛,下痢などを呈した事例で,テトロドトキシンについてマウス試験法およびLC-MS/MSによる分析を行ったがテトロドトキシンは検出されなかった.ドーナツによる有症苦情事例は,ドーナツを喫食したところ,口唇の痺れを呈した事例で,ドーナツに使用されていた油脂について酸価,過酸化物価について分析を行った.きのこのパスタによる有症苦情事例は,きのこのパスタを喫食したところ,下痢等の消化器症状や意識消失を呈した事例で,パスタとサラダに使われたキノコの鑑別を行ったもので,毒キノコは認められなかった.ツチホゼリによる横紋筋融解症事例は,釣ったツチホゼリを自宅で調理し喫食したところ,横紋筋融解症を発症し入院した事例で,パリトキシンについてLC-MS/MSによる分析を行ったが不検出であった.

化学性食中毒,ブリ,ヒスタミン,ふぐ,テトロドトキシン,きのこ,ツチホゼリ,パリトキシン

 

食品の苦情事例(令和元年度)

 令和元年度に検査を実施した食品苦情に関わる15 事例から4 事例を選び報告する.(1)ミルクティーに混入していた白色物は,官能試験(外観),FT-IR 分析,溶解試験及び燃焼試験を行った結果,固化した乳脂肪と推測された.(2)炒め物に混入していた硬質物は,官能試験(外観),顕微鏡観察,蛍光X 線分析及び種の鑑別試験を行った結果,ブタの骨片と推測された.(3)鍋料理に混入していたビニール様片は,官能試験(外観)及びFT-IR 分析を行った結果,ポリプロピレン製袋の一部と推測された.(4)ハンバーグに混入していたコルク様物は,官能試験(外観),顕微鏡観察,蛍光X 線分析及び種の鑑別試験を行った結果,玉ねぎの根元と推測された.

食品苦情,異物,ミルクティー,骨,ビニール様片,玉ねぎ,顕微鏡,蛍光X 線分析,FT-IR 分析 

 

輸入農産物中の残留農薬実態調査(令和元年度)-野菜類及びその他-

 平成31年4月から令和2年3月までに東京都内に流通した輸入農産物のうち,野菜,きのこ類,穀類及び豆類の計46種199作物を対象に残留農薬実態調査を実施した.その結果,28種89作物から残留農薬が痕跡(0.01 ppm未満)~0.39ppm検出された(検出率45%).検出された農薬は,殺虫剤28種類,殺菌剤24種類,除草剤3種類及び共力剤1種類の計56種類であった.今回の調査では,残留基準値及び一律基準値を超えて農薬が検出された農産物はなかった.

残留農薬,輸入農産物,殺虫剤,殺菌剤,除草剤,共力剤,残留基準値,一律基準値

 

輸入農産物中の残留農薬実態調査(令和元年度)-果実類-

 平成31年4月から令和2年3月に東京都内に流通していた輸入農産物のうち果実21種145作物について残留農薬実態調査を行った.その結果19種102作物(検出率70%)から殺虫剤及び殺菌剤合わせて58種類の農薬が検出された.作物別検出農薬の内訳は,柑橘類では4種28作物から殺虫剤が15種類,殺菌剤が2種類検出された.ベリー類では4種16作物から殺虫剤が12種類,殺菌剤が15種類検出され,その他の果実では11種58作物から殺虫剤が22種類,殺菌剤が25種類検出された.食品衛生法の残留農薬基準値の対象部位から痕跡(0.01 ppm未満)~1.1 ppm検出され,残留農薬基準値及び一律基準値(0.01 ppm)を超えて検出された農薬は無かった.

残留農薬,輸入農産物,果実,殺虫剤,殺菌剤,残留基準値,一律基準値

 

国内産野菜・果実類中の残留農薬実態調査(令和元年度)

 平成31年4月から令和2年3月までに都内に流通していた国内産農産物のうち,野菜20種72作物,果実類4種8作物について残留農薬実態調査を行った.その結果,21種46作物(検出率58%)から殺虫剤及び殺菌剤合わせて31種類の農薬が痕跡(0.01 ppm未満)~0.52 ppm検出された.作物別検出農薬の内訳は,野菜では17種39作物から,16種類の殺虫剤及び11種類の殺菌剤が検出された.一方果実類では,4種7作物から,7種類の殺虫剤及び8種類の殺菌剤が検出された.検出頻度の高かった殺虫剤はジノテフラン,フロニカミド,クロチアニジン,アセタミプリド,殺菌剤はボスカリド,プロシミドンであった.なお,食品衛生法の残留基準値及び一律基準値(0.01 ppm)を超えて検出された農薬はなかった.

残留農薬,国内産農産物,野菜,果実,殺虫剤,殺菌剤,残留基準値,一律基準値

 

畜水産物中の残留有機塩素系農薬実態調査(令和元年度)

 平成31年4月から令和2年3月に東京都内に流通していた食肉,生乳,魚介類及びその加工品等畜水産物11種99食品について残留有機塩素系農薬の実態調査を行った.その結果,3種19食品(検出率19%)から8種類の有機塩素系農薬(BHC,DDT,クロルデン,ノナクロル,エンドリン,ディルドリン,ヘプタクロル及びヘキサクロロベンゼン)が0.0001~0.017 ppmの範囲で検出された.食品衛生法の残留農薬基準値及び一律基準値を超えたものはなかった.

残留農薬,畜水産物,有機塩素系農薬,残留基準値,一律基準値

 

論文Ⅳ 生活環境に関する調査研究

東京都における環境水中抗微生物薬の存在実態及び河川水中カルバペネム耐性菌の検出状況
 都内の多摩川河川水(支川を含む)及び井戸水について抗微生物薬の存在実態を調査した.調査に先立ちカルバペネム系薬剤及びポリペプチド系薬剤の分析方法を検討した.固相抽出において,疎水性カラム(C18)と親水性カラム(グラファイトカーボン)を連結して使用したところ,コリスチンを除く各成分の回収率は40~65%,変動係数は2~13%で,スクリーニング方法として有用であった.多摩川河川水中の抗微生物薬調査では,クラリスロマイシン,アジスロマイシン及びレボフロキサシンの検出率が57~73%と高く,検出濃度範囲がそれぞれ0.0009~0.22 μg/L,0.004~0.22 μg/L及び0.003~0.11 μg/Lであった.これら3物質は,ヒトによる体外排泄量が多く,下水処理工程での除去率が低いことから,河川水での検出は下水処理水の混入によるものと思われる.多摩地区井戸水57地点における調査では、スルファメトキサゾールの検出率が23%と最も高く,検出濃度範囲が0.002~0.016 μg/Lであった.また,河川水について,カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)の調査を行ったところ,夏期にのみ多摩川中流域で存在が認められた.ただし,同地点におけるカルバペネム系薬剤は不検出であったことから,他の箇所で発生したCREが流入してきたものと推察される.
抗微生物薬,カルバペネム系薬剤,多摩川河川水,カルバペネム耐性腸内細菌科細菌

 

人工太陽光を用いた水中抗微生物薬の光分解試験
 近年,抗微生物薬に対する薬剤耐性菌とそれに伴う感染症の増加が懸念されている.水環境中の抗微生物薬の存在により生物が薬剤耐性能を獲得するおそれがあることから,水環境におけるヒト及び動物用抗微生物薬の水環境中動態の予測が求められている.そこで,予測のための主パラメーターの一つである光分解試験を実施した.試験溶媒として超純水及び河川水を用いて試験した結果,両溶媒においてテトラサイクリン系,セフェム系及びカルバペネム系抗微生物薬の半減期は0.4-16.9時間と短い傾向にあった.一方,ペニシリン系及びマクロライド系抗微生物薬の半減期は一部を除いて24時間以上と長かった.抗微生物薬の多くは,河川水の方が超純水よりも半減期が短い傾向にあった.一方,スルファメトキサゾールの光分解半減期は超純水の方が短かった.この原因は試験溶媒のpHによるものであることが推察される.実際の水環境における抗微生物薬の予測半減期によると,14抗微生物薬は水環境中に残存する可能性があることが示唆される.
抗微生物薬,光分解試験,人工太陽光,超純水,河川水

 

放射性医薬品等の影響と推定されるモニタリングポスト線量率上昇事例
 東京都では,都内7 か所にモニタリングポストを設置し,空間放射線量率を常時監視している.線量率が上昇した場合には,得られたデータを解析し,その原因を究明してきた.これまでには,福島第一原子力発電所事故及び降雨などの影響による線量率上昇を確認してきたが,今回,胃部集団検診車からのX 線及び放射性医薬品被投与患者からの長期γ 線検出事例(2 件)を初めて確認した.検診車の事例では,線量率及び計数率が繰り返し上昇し,線量率は最大で56.8 nGy/hに上昇した.また,漏洩X 線を調査するため,NaI(Tl)シンチレーション式サーベイメータを用いて検診車の周囲を測定した結果,線量率の上昇が確認された.放射性医薬品由来の長期γ 線検出事例では,線量率の経時変化より半減期を算出した結果,123 I 及び99m Tc の半減期と近似しており,それぞれの原因となる核種を推定することができた.2011 年3 月から2020 年3 月までの約9 年間で,放射性医薬品からのγ 線が原因と推定される線量率の上昇件数は52 件であった.

モニタリングポスト,空間放射線量率,胃部集団検診,X 線,サーベイメータ,半減期,放射性医薬品,ヨウ素123,テクネチウム99m

 

論文Ⅴ 生体影響に関する調査研究

ネオニコチノイド系農薬ジノテフランのCD-1 マウスによる次世代影響試験
 ネオニコチノイド系農薬は,世界中で稲作や野菜栽培などに広く使用されており,これまで乳汁や,胎盤を介して胎児へ移行することが報告されている.このことから,次世代への影響が懸念されているが,その知見は極めて少ない.先行研究のマウスへの28 日間の経口投与で,好中球数に減少が見られたことから,今回,ジノテフランの飲水投与試験を実施し, 次世代への影響,特に免疫系に注目して検討した.9 週齢の28 匹の妊娠CD-1 マウスを3 群に分け,妊娠期及び授乳期, 仔マウスには離乳後の発達期に,0(対照群),0.02 及び0.2%のジノテフラン溶液を飲水投与した.出産時に産仔数及び一腹仔の重量等を測定し,投与終了後に親仔共に末梢血を血液学的検索と血液生化学的検索に供し,骨髄の白血球分画をフローサイトメーターで分析した.また,主要臓器及び免疫臓器について病理学的検索を行った.産仔数,胎児重量及び性比に群間の差はなく,体重及び臓器重量に投与による影響も見られなかった.血液生化学的検索では,グルコースが雄の仔マウスで用量依存的に有意に減少し,他の試験項目には顕著な差異は認められなかった.血液学的検索,フローサイトメトリー及び病理組織学的検索から,血液毒性あるいは免疫毒性に関連する変化も認められなかった.これまでマウスを用いてジノテフランの次世代影響を詳細に検討した報告は無く,本研究は貴重な情報提供になると考えられる.
ジノテフラン,ネオニコチノイド系農薬,次世代影響試験,CD-1マウス

 

論文Ⅵ 公衆衛生情報に関する調査研究

東京都における破傷風の発生状況(2006年~2019年)
 破傷風は,破傷風トキソイドワクチンの普及により減少したが,現在でも国内では年間百例前後の発生があり、近年では災害関連感染症としても重要視されている.今般,感染症サーベイランスシステム(NESID; National epidemiological surveillance of infectious disease)のデータを活用して東京都における破傷風の発生状況を調査した.2006 年~2019 年の 14年間で83 例の届け出があり,人口100 万人あたりの年間発生数平均は0.44 であった.発生に占める 65 歳以上の割合は60.2%(50/83)と高かった.約8 割は東京都内で感染しており,感染原因(推定69 例含む)は創傷感染が74.7%(62/83)で最も多かった.創傷の内訳は外傷のほか褥瘡や動物の咬傷,虫刺され等多様であった.破傷風菌曝露時の機転に関しての情報が得られたものは34 例で,園芸が12 例で最も多く,転倒・打撲が9 例でこれに次いだ.破傷風菌に感染する機会は,都内で日常生活を送る中に多く潜んでおり,都民,特に高齢者に対しワクチンや予防に関する情報を提供していく必要がある.NESID データは,発生数の推移やリスクの高い年齢層等を把握するのに有効であったが,曝露時の状況やワクチン接種歴等がNESID だけでは十分に収集できなかったことから積極的疫学調査の活用等追加的な調査手法を検討する必要がある.
破傷風,破傷風菌,感染症サーベイランスシステム,土壌,創傷感染,疫学

 

東京都感染症情報センターホームページのアクセス数と感染症流行の関係性の検討

 東京都健康安全研究センターでは,感染症に関する情報を提供するため,東京都感染症情報センターホームページを作成し,公開している.利用者は当該ホームページにアクセスすることで様々な感染症に関する情報を入手することができる.毎年流行するインフルエンザやノロウイルスによる胃腸炎,2020年初頭から流行し始めた新型コロナウイルス感染症など,常に感染症の脅威に晒されている中,感染症に関する情報提供の場として当ホームページが今後とも重要な役割を果たしていくと示唆される.
 そこで,より効果的な情報提供を行うために,ホームページの各ページへのアクセス数から,いつどのようなページに需要があるのか,利用状況を分析した.
 その結果,都内や国内で感染症が流行した際にその流行とアクセス数の推移の関係性は4つのパターン(①季節性をもって毎年流行し,アクセス数が流行に合わせて増減,②毎年同じように流行しないが,時折流行して患者の報告数とアクセス数の推移が連動,③突発的,もしくは未知の感染症が発生し,患者の報告数増加に合わせてアクセス数も急増,④感染症の流行とはあまり関係がなく,報道されることで関心が集まりアクセス数が急増)に分類されることが示唆された.そして,それぞれのパターンに応じた情報提供をすることが重要であると考えられた.

東京都感染症情報センター,感染症,ホームページ,アクセス分析

 

新型コロナウイルス感染症に対する東京都実地疫学調査チーム(TEIT)の活動状況について(2020年1月~6月)
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する保健所支援として2020年1月から6月までに派遣された25事例について,東京都実地疫学調査チーム(Tokyo Epidemic Investigation Team :TEIT)の活動状況をまとめた.医療機関や高齢者介護福祉施設における感染拡大の主な要因は,発熱者をCOVID-19と判断するまでの遅れと,職員を介した接触感染であると考えられた.また,企業では,勤務外に開催される飲み会や食事会等,飲食を伴う会合が感染拡大の要因となる事例が複数あった.
 医療機関や高齢者介護福祉施設におけるCOVID-19の集団感染では,主に①疫学調査,②ゾーニングやコホーティング,感染拡大防止策に関する助言,③施設機能維持に関する評価とその対策に関する助言の3つの支援が必要となり,保健所,TEITに加え2020年2月26日に厚生労働省が立ち上げたクラスター対策班等の関係機関と連携を図りながら対策をすすめた.TEITはこれまで疫学調査を主とした保健所支援を行うことが多かったが,COVID-19に対する今後のTEITの役割は,保健所支援を基盤におきつつ,保健所が行う関係機関との連絡調整を支援することも大きな役割になると考える.
 COVID-19,集団感染, 院内感染, 東京都実地疫学調査チーム, TEIT, 疫学

 

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