研究年報 第67号(2016) 和文要旨

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和文要旨
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事業報告

平成26年に都内で発生したデング熱に関するデングウイルス媒介蚊ならびに
デングウイルス検査対応(平成26年度及び27年度の結果)
1. デング熱等媒介蚊の検査結果

 平成26年の夏に,わが国では約70年発生がなかったデング熱の国内感染事例が都内の代々木公園等を推定感染地として発生した.本事案の発生に伴い,東京都は,デングウイルスを媒介する蚊の代々木公園等における生息状況,ならびに採取された蚊におけるデングウイルスの保有状況等の調査に取り組んだ.本稿ではこのうち,デング熱患者が都内で発生した平成26年と,デング熱発生を受けて拡大された平成27年度のデング熱等媒介蚊サーベイランスの結果について報告する.
 平成26年度の代々木公園における調査において,9種合計1,162匹の蚊を捕集した.最も多く捕集された蚊は,subgenusStegomyia(以下シマカ亜属)856匹(73.7 %), Culex (Culex) pipiens complex(以下アカイエカ群という)119匹(10.2%), Culex (Culex) tritaeniorhynchus (以下コガタアカイエカ)95匹(8.2 %),その他の蚊92匹(7.9 %)であった.
 平成27年度のデング熱等サーベイランス調査においては,8種合計5,397匹の蚊を捕集した.最も多く捕集された蚊は,Aedes (Stegomyia) albopictus(以下ヒトスジシマカ)2,785匹(51.6 %),アカイエカ群2,400匹(44.5 %),コガタアカイエカ105匹(1.9 %),その他の蚊107匹(2.0 %)であった.ヒトスジシマカはデングウイルス,チクングニアウイルス及びジカウイルスの媒介蚊であるため,蚊媒介感染症の蔓延防止には,未発生時から蚊の生息密度を下げるために防除対策を行うことが重要であることが確認された.
デング熱,ヒトスジシマカ,アカイエカ群,コガタアカイエカ

 

平成26年に都内で発生したデング熱に関するデングウイルス媒介蚊ならびに
デングウイルス検査対応(平成26年度及び27年度の結果)
2. デングウイルス検査対応

 平成26 年8 月,約70 年ぶりに発生したデング熱の国内感染事例に対する健康安全研究センターにおけるデングウイルス検査対応を報告する.蚊のデングウイルス遺伝子検査の結果,代々木公園で9 月3 日,9 月10 日,9 月17 日に捕集されたシマカ亜属からデングウイルス1 型が検出され,遺伝子解析により53 例の患者由来ウイルスの塩基配列と同一のクラスターに属することが判明し,感染源の推定に重要な役割を果たした.
 平成27年度は媒介蚊サーベイランスで捕集した成虫2,785匹,幼虫9,128匹のウイルス検査を実施したが,ウイルスを保有する蚊は確認されなかった.また,報告されたデング熱患者はすべて海外からの輸入症例と考えられ,平成26年度の国内感染事例と同一クラスターに属するデングウイルスは検出されなかった.

デング熱,デングウイルス,ヒトスジシマカ,リアルタイムPCR,遺伝子解析

  

総説

東京都における動物由来感染症としての真菌検査と解析

 近年,海外で報告されている動物由来真菌症の一部が輸入動物を介して国内に持ち込まれたと考えられる事例が報告されている.このような状況を踏まえ,東京都では2001 年から動物由来感染症の発生予防を目的に動物由来真菌の調査を実施している.本稿では鳥類の糞便,多頭飼育されていたネコの被毛,およびイヌ/ネコの外耳ふき取りを対象にした病原真菌と,その調査結果について概説する.調査の結果,一部の動物がヒトに対して病原性を示す真菌を保有していた.これらの病原真菌が直ちにヒトに対して感染症を起こすものではないが,動物由来感染症の未然防止には,今後も継続して動物における病原真菌の保有調査を行う必要がある.

動物由来感染症,クリプトコックス症,皮膚糸状菌症,マラセチア症,塩基配列解析

 

東京都衛生検査所精度管理調査における評価方法
 東京都は,臨床検査の検査精度向上を目的として,都内の衛生検査所を対象とする外部精度管理調査事業を昭和57年度から開始した.平成27年度までに34年間実施し,その結果を事業報告書にまとめ,公表した.本調査はオープン調査およびブラインド調査の2つの調査方式を採用した.検査分野は,当初,生化学,血液学,血清学,微生物学を対象としてきたが,細胞診,寄生虫学,病理組織学に関する調査が年々追加されてきた.34回にわたる事業を行った結果,検査精度向上に寄与できたと考える.実施検査項目,実施方法,評価方法および施設間差についての変遷を中心に本事業報告書に記載されたことを紹介する.
臨床検査,衛生検査所,外部精度管理調査,生化学的検査,血液学的検査,血清学的検査,微生物学的検査,寄生虫学的検査,細胞診検査,病理組織学的検査

 

論文Ⅰ 感染症等に関する調査研究

東京都における先天性風しん症候群患者からの風しんウイルスの分離状況
 2012年以降の全国的な風しんの流行により,東京都においても先天性風しん症候群(congenital rubella syndrome: CRS)の発生がみられた.東京都健康安全研究センターでは,CRS患者における風しんウイルス排出期間を評価する目的で2013年9月から2015年3月まで風しんウイルス検査を実施した.ウイルス検査のうち,遺伝子検査は高感度かつ迅速性の面で優れているが,実際にウイルス粒子が排出されているか不明である.本研究では,実際のCRS患者からのウイルス分離と風しんウイルスの抗体検査結果から,風しんウイルスの感染性リスクを評価することを目的とした.
 都内医療機関でCRSと診断された患者12例を対象とし,咽頭拭い液および尿から継続的に採取した74検体についてウイルス分離検査を実施した.その結果,12例中6例から風しんウイルスが分離された.本ウイルスが分離された期間は最短で生後5日から,最長では生後13か月であった.感染症流行予測調査にて,風しんウイルスの抗体価を測定した結果,平均抗体価は0-3歳から20-24歳の間で全体の平均よりも低く,0-3歳および20-24歳ではそれぞれ41倍,32倍と特に低い結果となった.これらのことから,CRSが疑われた場合には長期的な二次感染のリスクおよび乳幼児における新たな感染の拡大防止のため,出生早期からのウイルス検査を継続的に実施することが必要であると考えられた.
風しん,先天性風しん症候群,CRS,ウイルス分離,Vero-E6,遺伝子検査,2B

  

東京都山間部で2005年に採取されたダニ類における病原微生物の検索
 重症熱性血小板減少症候群の原因ウイルス(SFTSV)は,2011年に初めて特定され2013年には国内最初の患者が報告された.東京都では,過去に島しょ地域,多摩地域で発生するツツガムシ病のほか,他のダニ媒介性感染症についても検査を行ってきた.今回,2005年に東京都で採取され保存されていたマダニ類を用いて,リアルタイムRT-PCR法及びNested-PCR法によるSFTSV,ダニ媒介性脳炎ウイルス(TBEV)及び紅斑熱群リケッチアなどの病原体検索を行った.その結果,133件のマダニ検体より,回帰熱ボレリア 1件,紅斑熱群リケッチア等が 5件検出された.また,SFTSV及びTBEVは検出されなかった.これらのことから,マダニの生息している地域に入る際は,マダニに刺咬されないような予防策を徹底する必要があると考える. 

重症熱性血小板減少症候群,ダニ媒介性脳炎,紅斑熱群リケッチア,回帰熱,リアルタイム-RT-PCR法,Nested- PCR法

 

論文Ⅱ 医薬品等に関する調査研究

危険ドラッグから検出された薬物に関する理化学試験結果(平成27年度)
 平成27年度に行った市販危険ドラッグ製品中に検出した薬物の理化学試験結果を報告する.薬物の理化学試験は,主にフォトダイオードアレイ検出器付液体クロマトグラフィー(LC/PDA),電子イオン化質量分析計付ガスクロマトグラフィー(GC/EI-MS)を用い,必要に応じて高分解能精密質量測定法(HR-MS),核磁気共鳴スペクトル測定法(NMR)及び単結晶X線構造解析法にて構造解析を行った.危険ドラッグ120製品のうち,80製品から薬物を検出した.新たに検出した薬物は11種であり,構造解析の結果,5-MAPDB,25I-NB34MD,RH-34,Isopropylphenidate,3-FPM,4-FPM,Bisfluoromodafinil,Modafiendz,FUB-JWH-018,MO-CHMINACA及び亜酸化窒素であった.また,規制薬物は指定薬物を4種,医薬品成分を3種検出した.
危険ドラッグ,指定薬物,LC/PDA,GC/EI-MS

 

難溶性薬物の溶出試験における界面活性剤の可溶化能について
-ソファルコン錠-
 難溶性薬物の溶出試験では界面活性剤の使用が認められているが,溶出試験の識別性の低下を押さえるために,できるだけ界面活性剤濃度を低く抑えることが望ましいとされている.我が国における界面活性剤の第一選択肢はポリソルベート80(PS)で,ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)は,PS で十分な溶出率が得られない場合に用いることが望ましい.
 他方,両界面活性剤の種類が製剤の溶出率に及ぼす影響を検討した報告は多くない.
 そこで,界面活性剤の種類と濃度が難溶性薬物の溶出性に及ぼす影響を検討することとした.日本薬局方外医薬品規格(局外規)第三部に収載されているもののうち,溶出性の規格に界面活性剤を用いている酸性医薬品からソファルコン錠を選び,水,pH1.2,pH4.0 及びpH6.8 の試験液に,界面活性剤としてSDS,PS 及びタウロコール酸ナトリウム(TC)の濃度を変化させて添加し,溶出試験を実施した.
 その結果,ソファルコン錠に関しては,SDS とPS で,最終的に得られる溶出率に大きな差は認められなかった.これまでSDS の方が可溶化能が高いと考えられてきたが,医薬品によっては大きな差が見られず,活性剤濃度が低い領域ではPS の方が可溶化能が高いことが明らかとなった.また,TC は,可溶化能が低いことが再確認された.
難溶性薬物,溶出試験,可溶化,界面活性剤,ソファルコン錠,溶出挙動,ラウリル硫酸ナトリウム,ポリソルベート80,タウロコール酸ナトリウム

 

化粧品における配合成分の検査結果(平成26年度)
 平成26年度に搬入された化粧品81製品について,ホルマリンや防腐剤,紫外線吸収剤,タール色素,承認化粧品成分,その他の配合制限成分の製品への表示状況並びに検査結果をまとめた.配合禁止成分であるホルマリンは,ホルムアルデヒドとして検査し,ホルムアルデヒドを検出した製品はなかった.防腐剤については,パラオキシ安息香酸エステル類やフェノキシエタノールの検出頻度が高かった.化粧品基準に定められた最大配合量を超過した濃度の防腐剤を検出した製品は3製品であった.また,表示されていない防腐剤を検出した製品は8製品であった.紫外線吸収剤では,パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシルの検出頻度が高かった.最大配合量を超過した濃度の紫外線吸収剤を検出した製品はなかった.表示されていない紫外線吸収剤を検出した製品はなかった.タール色素で検出頻度の高いものは青色1号であった.承認化粧品成分については,l-メントールの検出頻度が高く,最大配合量を超過した濃度の承認化粧品成分を検出した製品はなかった.
化粧品,ホルマリン,ホルムアルデヒド,防腐剤,紫外線吸収剤,タール色素,承認化粧品成分

  

論文Ⅲ 食品等に関する調査研究

市販食品からの第三世代セフェム系およびカルバペネム系薬剤耐性
大腸菌群の検出(2014年~2015年)
 一般の食品における薬剤耐性菌の汚染状況を把握する目的で,東京都内で市販されている各種食品から第三世代セフェム系およびカルバペネム系薬剤耐性大腸菌群の検出を試みた. 2014 年~2015 年の2 年間に各種食品2,844 検体について検討した結果,第三世代セフェム系薬剤耐性菌は90 件から検出された.第三世代セフェム系とカルバペネム系両薬剤耐性菌は1 件からの検出であった.薬剤耐性検出菌種は6 種類でEnterobacter cloacae が最も多く 68 株,次いで
Citrobacter freundii 18 株,Enterobacter asburiae 2 株,Citrobacter braakii, Citrobacter yaungae およびKlebsiellapneumoniae はそれぞれ1 株であった.Enterobacter 属菌とCitrobacter 属菌は,全株が染色体性AmpC β-ラクタマーゼ(AmpC)産生株であった.また,第三世代セフェム系とカルバペネム系両薬剤に耐性であったK. pneumoniae 1 株は,基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)とプラスミド性AmpC (p-AmpC)両者を産生した.ESBL 遺伝子はCTX-M 型,p-AmpC 遺伝子はCIT グループであった.
 今回の検討成績から,各種市販食品から第三世代セフェム系薬剤耐性大腸菌群が検出されることが判明した.ESBL とp-AmpC の両者を産生する菌も認められたことから,耐性菌による食品汚染についてその動向を今後も監視する必要がある.
第三世代セフェム系薬剤耐性,カルバペネム系薬剤耐性,β-ラクタマーゼ,市販食品

 

食品由来大腸菌の下痢原性に関与する病原遺伝子の保有状況と薬剤耐性
 2007年から2014年に一般食品より分離された大腸菌について,下痢原性に関与する病原遺伝子とプラスミド媒介性キノロン耐性遺伝子の保有率及び薬剤感受性を調べた.病原遺伝子及びキノロン耐性遺伝子は,PCR法又はリアルタイムPCR法により検索し,薬剤感受性試験は,CP,TC,SM,KM,ABPC,ST,NA,FOM,NFLX,CTX,CAZ,IPM及びMEPMの13薬剤について実施した.
 供試した277株中45株の大腸菌がstx2,astA又はeaeいずれかの病原遺伝子を保有し,内訳はstx2保有1株,astA保有37株,eae保有6株,astAeaeの重複保有が1株であった.プラスミド媒介性キノロン耐性遺伝子を保有していた大腸菌は4株で,内訳はqnrS保有が2株,oqxAoqxB保有が2株であった.薬剤感受性試験の結果,1剤以上の薬剤に耐性を示した大腸菌は40株であった.薬剤別耐性率はTC(8.7%),ABPC(7.2%),SM(5.1%)の順に高かった.近年問題と
なっている第3世代セファロスポリン系薬剤及びカルバペネム系薬剤耐性菌は検出されなかったが,NFLX耐性菌が2011年と2013年に1株ずつ検出された.一般食品においても,下痢原性に関与する病原遺伝子やプラスミド媒介性キノロン耐性遺伝子を保有する大腸菌及びフルオロキノロン系薬剤耐性大腸菌が分布していることが判明し,今後もこれらの動向を注視する必要があるものと考えられた.
下痢原性大腸菌,薬剤感受性,astA,フルオロキノロン系薬剤耐性菌,プラスミド媒介性キノロン耐性(PMQR)遺伝子

 

食肉等の食中毒菌汚染実態調査における検出状況および試験法の解析
(平成21年度~平成27年度)
 東京都では厚生労働省の依頼により,流通食品の細菌汚染実態の把握を目的とした食中毒菌汚染実態調査を行っている.今回,平成21年度から27年度に都内で流通した食肉等における,腸管出血性大腸菌,サルモネラ属菌,カンピロバクター・ジェジュニ/コリおよび大腸菌( E. coli )の検出状況を調査した.試験方法は,厚生労働省より指定された汚染実態調査の試験方法に基づいて実施し,サルモネラ属菌と腸管出血性大腸菌においては他の方法を追加し,培地の種類の違いによる検出率の比較を行った.調査の結果,食中毒菌の検出状況において,腸管出血性大腸菌はミンチ肉と牛レバーから,サルモネラ属菌はミンチ肉と鶏肉から,カンピロバクターは鶏肉と牛レバーから,大腸菌は多くの加熱用食肉と一部の生食用食肉から検出された.培地の種類による検出率の差はサルモネラ属菌でみられ,RV培地からSS寒天培地に分離した場合に最も検出率が高かった.食品から食中毒菌の検出を行う場合は,試験方法や使用する培地により検出率に差が生じることがあることが示され,複数の培地を併用することが重要と考えられた.

食中毒菌汚染実態調査,肉類,腸管出血性大腸菌,サルモネラ属菌,カンピロバクター・ジェジュニ/コリ,大腸菌( E. coli )

 

 緊急時における冷凍食品中有機リン系農薬の迅速検出法
 冷凍食品へのマラチオン混入事件発生時に検査対応した検出法に関して,マラチオン以外の有機リン系農薬についても適用できるか検討した.冷凍食品8品目を検査試料とし,有機リン系農薬12種について,1濃度3併行の添加回収試験を行った.その結果,選択性,回収率及び併行精度は,すべての試料及び農薬において評価基準を満たし,本検出法は高濃度に含まれる有機リン系農薬の有無を判断できると考えられた.
有機リン系農薬,冷凍食品,迅速検出法

 

牛乳,鶏卵及びはちみつ中のネオニコチノイド系農薬の分析 
 牛乳,鶏卵及びはちみつ中のネオニコチノイド系農薬の分析法を検討した.試料からアセトニトリルで抽出し,GC/PSAミニカラムに負荷し,トルエン・アセトニトリル混液で溶出して精製を行った.測定にはLC-MS/MSを用いた.牛乳,卵及びはちみつにネオニコチノイド系農薬を添加したときの回収率は0.01 μg/gで74.3%~104.6%,0.1 μg/gで79.4%~103.7%であった.本分析法は牛乳、鶏卵及びはちみつを対象とした残留農薬の分析法として十分適用できると考える.
残留農薬,牛乳,鶏卵,はちみつ,ネオニコチノイド系農薬,液体クロマトグラフ-タンデム質量分析計

 

食品中の放射性物質の検査結果(平成27年度) 
 平成23年3月11日に発生した東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故を受け,東京都では平成23年度から都内で流通している食品の放射性物質検査を実施している.平成27年度は国産食品742検体及び輸入食品100検体,計842検体について放射性セシウム及び放射性ヨウ素の検査を行った.検査にはヨウ化ナトリウム(タリウム)シンチレーションスペクトロメーター及びゲルマニウム半導体核種分析装置を用いて測定した.その結果,国産品はすべて検出限界未満であった.また,輸入品ではキノコ類4検体及びベリー類2検体から放射性セシウム(Cs-137)が検出されたが,いずれも基準値未満であった.
放射性物質,核種分析,放射性セシウム,ゲルマニウム半導体核種分析装置,ヨウ化ナトリウム(タリウム)シンチレーションスペクトロメーター,食品

 

 化学物質及び自然毒による食中毒及び有症苦情事件例(平成27年)
 平成27年に東京都内で発生した化学物質及び自然毒による食中毒及び有症苦情事例のうち,当センターで検査したものは25件であった.その内訳は,ヒスタミンによるものが10件,フグ毒によるものが5件,植物性自然毒によるものが2件,その他の化学物質によるものが8件であった.本報では,今後の食中毒検査の参考とするために,原因物質の異なる5事例について報告する.ヒスタミンによる食中毒1事例は,ブリを喫食し,発疹や顔面の紅潮,頭痛などの症状を呈した事例で,ヒスタミンの定量を行った.その結果,残品からヒスタミンを検出し,ヒスタミンを含有した食品を喫食したことによる食中毒と断定された.フグによる有症苦情1事例は,フグのから揚げを喫食して口唇やほほの痺れなどを呈した事例で,フグ毒についてマウス単位法により分析を行ったがフグ毒は検出されなかった.ヒガンバナ科植物による有症苦情1事例は,植物の球根を喫食して吐き気や嘔吐、下痢などの症状を呈した事例で、植物鑑定と有毒成分であるリコリンの分析を行った.その結果,残品はヒガンバナ科の有毒植物であることが判明した.ユリ科植物による食中毒1事例は,自分で採取してきた植物を喫食して嘔吐,目眩などの症状を呈した事例で,植物の鑑定を
行った.その結果,ユリ科シュロソウ属の植物であることが判明した.あんず甘納豆による有症苦情1事例は,アンズ甘納豆を喫食して吐気や嘔吐等の症状を呈した事例で,二酸化硫黄の定量を行った.その結果,残品から0.92 g/kgの二酸化硫黄を検出した.
化学性食中毒,ヒスタミン,ブリ,フグ,スイセン,ヒガンバナ科植物,リコリン,バイケイソウ,ユリ科植物,アンズ,二酸化硫黄

 

 食品の苦情事例(平成27年度)

 平成27年度に検査を実施した食品苦情に関わる事例から,原因が明らかになった4例について報告する.(1)弁当容器に付着していた赤色糊状物は,FT-IR分析と蛍光X線分析及び熱分解GC/MS分析を行った結果,店舗内で使用される赤色鉛筆であると推察された.(2)コールスローサラダ中の木片様物は,光学顕微鏡観察とFT-IR分析及びDNAシークエンス解析による植物種の鑑別結果より,コールスローサラダ中のキャベツの芯が木質化したものと推察された.(3)ウィンナーソーセージ中の薄褐色硬質物は,蛍光X線分析及びDNAシークエンス解析並びにPCR-RFLP法による動物種の鑑別結果より,ブタの軟骨であると推察された.(4)サンドイッチから出てきた錠剤は,LC-MS/MS分析により苦情者が服用していた薬であると推察された.

食品苦情,異物混入,弁当容器,赤色鉛筆,コールスローサラダ,木化,ウィンナーソーセージ,軟骨,錠剤

 

透析法を用いた食品中9種保存料のLC-PDA一斉分析およびLC-MS/MS確認試験法 
 食品中の保存料の分析は水蒸気蒸留法が一般的であるが,当センターでは簡便性と多検体一括処理・同時分析が可能であることから,透析法を日常の分析法として用いている.今回,透析法による9種保存料(安息香酸,ソルビン酸,デヒドロ酢酸,パラオキシ安息香酸エステル類)のLC一斉分析とLC-MS/MSを用いた確認法を検討した.透析には30%メタノールを用い,食品から保存料を抽出した.高脂質・高タンパク試料では80%メタノールを使用し透析を行った.本法を用いて各種食品の添加回収試験を実施したところ,いずれの保存料も90%以上の回収率が得られた.
LC-MS/MSによる確認はProduct ion scanning法を用い,ESI(-)モードにより9種保存料のいずれも[M-H]-の脱プロトン化分子イオンを観察することができた.
保存料,安息香酸,ソルビン酸,デヒドロ酢酸,パラオキシ安息香酸エステル類,透析,LC,
LC-MS/MS,食品,食品添加物

 

 TLCを用いた着色料検査におけるスポット形状の歪み発生とその改善法
 食品中に含まれる着色料の試験において,キサンテン系色素である赤色3号(R3),赤色104号(R104),赤色105号(R105),赤色106号(R106)は,薄層クロマトグラフィー(TLC)により,逆相TLCプレートを用いて,メチルエチルケトン・メタノール・5%硫酸ナトリウム混液(1:1:1)の展開溶媒で展開する方法が用いられている.市販のアルミニウム製逆相TLCプレートを用いて上記の4色素を展開した際,プレートのロット間で4色素のRf値及び相互分離に差異が生じた.また,一部のロットではRf値の大きいR106のスポット形状に歪みが生じる事例があった.4色素の相互分離を維持しながらスポット形状を改善することを目的として,種々の検討を行った.その結果,メタノールによるTLCプレートの前洗浄を行うことが有効であった.展開を行ったTLCプレートに紫外線を照射したところ,展開前には確認されなかった波状の蛍光物質が溶媒先端付近に確認された.また,歪みの生じたTLCプレートではこの蛍光物質がR106のスポットに重なっていた.これらのことから,プレート上に存在するR106とRf値の近い物質がR106と重なって展開されることによりスポット形状に歪みが生じたと推測された.
薄層クロマトグラフィー,TLCプレート,着色料,スポット

 

食品製造機械等に使用される潤滑剤のベースオイルの分析 
 食品製造施設で使用されている潤滑剤及び一般に市販流通している潤滑剤の使用実態を把握するため潤滑剤57試料について,その主成分となるベースオイル(基油)成分である鉱油,油脂,シリコーンオイルの分析を行った.鉱油は石油由来の炭化水素であるため,流動パラフィンを標準物質として炭化水素を測定し,57試料中46試料から検出した.含有量は1~106%であった.検出した炭化水素について極大炭素数と最小-最大炭素数の幅の目安炭素数を算出したところ,様々な炭素数の混合化合物が含有されていることが推察された.また,炭化水素の一種である芳香族炭化水素の中には安全性について懸念される化合物もあるため,芳香族炭化水素と総炭化水素の比(%)を算出した.食品製造機械用潤滑剤から芳香族炭化水素は検出されなかったが,一般機械用潤滑剤33試料中23試料から芳香族炭化水素が検出された.潤滑剤には動・植物系油脂が用いられている.油脂構成脂肪酸を測定し,57試料中16試料から油脂を検出した.含有量は1~93%であった.油脂を検出した16試料のうち1試料から日本では食品への使用が認められていないヒマシ油の構成脂肪酸であるリシノール酸を検出した.シリコーンオイルは57試料中2試料から検出され,含有量は61%及び79%であった.なお,シリコーンオイルを検出した2試料からは炭化水素及び油脂は検出されなかった.
食品製造機械用潤滑剤,間接食品添加物,連邦規則集,NSFインターナショナル,炭化水素,油脂,シリコーンオイル

 

紙容器入り飲料及びその容器中のUV印刷用光重合開始剤の一斉分析 
 紙容器入り飲料の容器の印刷に用いられる7種類の光重合開始剤の一斉分析法を開発した.材質試験では,紙容器をジクロロメタンで抽出後シリカゲルカートリッジで処理し,GC-MSで定量した.溶出試験及び内容物試験ではC18カートリッジで処理し,HPLCで定量した. 7成分の添加回収率は材質試験では72~103%,内容物試験では59~96%であった.市販品の分析の結果,DETX(ジエチルチオキサントン)(75/129),MBPH(4-メチルベンゾフェノン)(12/28),HCPK(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)(16/129),EDAB(エチル-4-(ジメチルアミノ)ベンゾエート)(24/129)が紙容器材質中から検出された.材質試験でDETX,MBPH,HCPK,EDABが検出された試料を用いて溶出試験を行ったところ, MBPH(1/12),HCPK(2/16),EDAB(7/24)が検出された.内容物試験ではDETX(1/49),MBPH(5/24),HCPK(4/49),EDAB(9/49)が検出されたが,2011年度の英国食品基準庁の調査結果と比較すると,含有量はおおむね低かった.
光重合開始剤,紙容器,紙容器入り飲料,ジエチルチオキサントン,4-メチルベンゾフェノン,1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン,エチル-4-(ジメチルアミノ)ベンゾエート

 

輸入農産物中の残留農薬実態調査(平成27年度)
-野菜類及びその他-
 平成27年4月から平成28年3月に東京都内に流通していた輸入農産物の野菜,きのこ類,穀類及び豆類の43種190作物について残留実態調査を行った.その結果,22種80作物(検出率42%)から,残留農薬が痕跡(0.01 ppm未満)~0.41 ppm検出された.検出農薬は,殺虫剤,殺菌剤,除草剤及び共力剤の合わせて40種類(有機リン系農薬5種類,有機塩素系農薬5種類,カルバメート系農薬3種類,ピレスロイド系農薬6種類,含窒素系農薬及びその他の農薬21種類)であった.
このうち,3作物から一律基準値又は残留基準値を超過する残留農薬が検出され,食品衛生法違反となった.その内訳は,ベルギー産チコリからメタラキシル0.04 ppm検出(一律基準値0.01 ppm),中国産しょうがからチアメトキサム0.02 ppm検出(一律基準値0.01 ppm)及び中国産さといもからクロルピリホス0.04 ppm検出(残留基準値0.01 ppm)であった.これら3農薬の残留量は,各農薬に設定された一日摂取許容量(ADI)のそれぞれ約1/590,1/970及び1/60であった.

残留農薬,輸入農産物,野菜類,きのこ類,穀類,豆類,残留基準値,一律基準値,一日摂取許容量

 

輸入農産物中の残留農薬実態調査(平成27年度)
-果実類-
 平成27 年4 月から平成28 年3 月に都内に流通していた輸入農産物のうち,果実類19 種154 作物について残留農薬実態調査を行った.その結果,16 種109 作物(検出率71%)から殺虫剤,殺菌剤,除草剤合わせて62 種類の農薬が痕跡(0.01 ppm 未満)~3.8 ppm 検出された.検出農薬の内訳は,有機リン系殺虫剤12 種類(クロルピリホス,マラチオン他),カルバメート系殺虫剤3 種類(カルバリル,ジエトフェンカルブ,メトキシフェノジド),有機塩素系農薬5 種類(キャプタン,イプロジオン他),ピレスロイド系殺虫剤8 種類(ビフェントリン,シペルメトリン他),含窒素系及びその他の殺虫剤9 種類(イミダクロプリド,ピリプロキシフェン他),含窒素系及びその他の殺菌剤24種類(イマザリル,チアベンダゾール他),含窒素系除草剤1 種類(シマジン)であった.なお,食品衛生法の残留基準値及び一律基準値(0.01 ppm)を超えて検出されたものはなかった.
残留農薬,輸入農産物,果実,殺虫剤,殺菌剤,除草剤,残留基準値,一律基準値

 

国内産野菜・果実類中の残留農薬実態調査(平成27年度)
 平成27年4月から平成28年3月に東京都内に流通していた国内産農産物32種80作物について残留農薬実態調査を行った.その結果27種51作物(検出率64%)から殺虫剤及び殺菌剤合わせて38種類の農薬(ジノテフラン,アセタミプリド,ボスカリド等)が痕跡(0.01 ppm未満)~0.55 ppm検出された.検出された農薬の内訳は,有機リン系農薬6種類,有機塩素系農薬4種類,カルバメート系農薬2種類,ピレスロイド系農薬4種類,含窒素系及びその他の農薬22種類であった.食品衛生法の残留農薬基準値及び一律基準値を超えて検出された農薬はなかった.
残留農薬,国内産農産物,野菜,果実,殺虫剤,殺菌剤,残留基準値,一律基準値

 

論文Ⅳ 生活環境に関する調査研究

DNPH誘導体化-HPLC法を用いた空気中アルデヒド類分析において検出された
未知物質についての考察 
 2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)誘導体化-液体クロマトグラフ(HPLC)法を用いた空気中アルデヒド類分析において,測定対象物質の定量を妨害する未知物質が複数検出された.未知物質を含む試料をHPLCにより分析してピーク毎に分取し,ガスクロマトグラフ/質量分析計及びHPLCによって同定した結果,未知物質は2,4-ジニトロヨードベンゼン(DNIB),フルフラール及びメチルイソブチルケトン(MIBK)であった.DNIBは,オゾン除去管内のヨウ化カリウムに由来するヨウ素と,アルデヒド用捕集管内のDNPHとの反応により生成したと推測された.オゾ
ン除去管内の結露がヨウ素の生成,つまりヨウ化カリウムの溶解を促進すると考えられ,結露を防ぐため,使い捨てカイロで捕集管を加温した.その結果,加湿空気を24時間通気した場合にもヨウ化カリウムは溶解しなかった.雨天時の外気や夏季の多湿空気などを測定対象とする際には,カイロによる加温法を用いることでDNIBによる妨害を防ぐことができると考える.フルフラール及びMIBKはDNPHと誘導体を形成するカルボニル化合物である.室内に存在する化学物質が多様化している現在,測定対象以外のカルボニル化合物が検出される可能性は高い.測定対象物質の定
量妨害や誤同定を防ぐためには,日々の分析において検出される標準物質のUVスペクトル等を把握しておくことが必要である.
2,4-ジニトロヨードベンゼン,フルフラール,メチルイソブチルケトン,使い捨てカイロ

 

都内大気中有機酸濃度の測定

 都内大気中のギ酸及び酢酸の濃度を把握することを目的として,有機酸をガス状及び粒子状に分けて測定可能な方法を開発し,1年間の調査を行った.調査は平成26年4月~平成27年3月に行い,大気採取地点は,大気汚染常時監視測定局から甲州街道大原測定局(自排局)及び中野区若宮測定局(一般局)を選定した.また,参考地点として当センターを加え,計3か所において毎月3日間,ギ酸及び酢酸濃度を調査した.ギ酸及び酢酸濃度の経時変化をみると,春季・夏季の方が濃度が高く,秋季・冬季には濃度が低下する季節変動がみられた.大原測定局と若宮測定局を比較
すると,ギ酸及び酢酸の1年間の濃度平均値(ガス状及び粒子状合計)は,大原測定局が ギ酸 7.3 μg/m3,酢酸 11.4μg/m3,若宮測定局が ギ酸 6.1 μg/m3,酢酸 9.7 μg/m3で,ギ酸,酢酸ともに,大原測定局の方が1.2倍高く,有意差がみられた(ギ酸 p<0.05,酢酸 p<0.01).両測定局で測定したギ酸及び酢酸をガス状と粒子状に分けて比較すると,12月~1月にはガス状の割合が減少する傾向がみられたが,年間平均で,ガス状有機酸はガス状及び粒子状合計の57%~82%を占めていた.また,ガス状の割合は,ギ酸よりも酢酸の方が高かった.当センターでの大気採取は,高さ22mの屋上で行ったが,ギ酸及び酢酸濃度の年間平均値(ガス状及び粒子状合計)は,ギ酸 8.9 μg/m3,酢酸 12.1 μg/m3と,他の2か所の測定局よりも高かった.この原因としては,ビル屋上から排出されているボイラーの排気など,高所から排出されている燃焼ガスの影響が推察された.

大気,有機酸,ギ酸,酢酸,ガス状,粒子状,ミニチュア拡散スクラバー

 

都内新築ビルにおける室内空気中の化学物質の実態調査 
 未規制物質を含む化学物質による室内空気汚染の現状を把握するため,都内新築ビルにおいて,アルデヒド類,有機酸類及び揮発性有機化合物(VOC)77種を対象に空気質調査を行った.調査の結果,シックハウス症候群の原因物質とされるホルムアルデヒドをはじめ,厚生労働省から指針値が示された8物質はすべて検出されたが,いずれも低い数値で推移しており,調査期間中,指針値を超過する物質は無かった.この他に未規制物質が50種類検出され,その中でもアセトン,トルエン,酢酸,ギ酸の検出率は調査期間中100%であった.また未規制物質については,ヘキサン
が4,280 μg/m3,2-ブタノンオキシムが3,570 μg/m3と,比較的高濃度で検出され,室内で用いられた建材が発生源であると推察された.多くの物質は夏季に濃度が上昇し,冬季に減少する傾向が見られたが,未規制物質の1種である2-エチル-1-ヘキサノールについては,冬季になっても明らかな濃度減少が見られなかった.
室内空気,化学物質汚染,揮発性有機化合物(VOC),ホルムアルデヒド,未規制物質

 

新築の特定建築物における蛇口水の水質実態調査 
 新築の特定建築物(平成27年1月使用開始)の水質調査を,使用前(1/7)及び使用後2ヶ月毎(2/16,4/6,6/22,8/17,10/19,12/14及び2/22)に行った.採水は,直結水,受水槽及び使用頻度の異なる3配水系統から行った.検査項目は,特定建築物の飲料水の水質検査で省略不可項目11項目のうち選択した8項目(亜硝酸態窒素,硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素,塩化物イオン,有機物(全有機炭素(TOC)の量),pH値,臭気,色度,濁度)に加え,重金属類(12項目),蒸発残留物,臭素酸,塩素酸及び総トリハロメタンとした.調査は,水道水が停滞する週末明けの月曜日に行った.遊離残留塩素濃度について,水道水の使用頻度の低い系統の地点では,0.1 mg/Lを確保することが難しかったが,10~20分捨て水をすることで,0.3~0.4 mg/L検出した.ただし,高置水槽を経由する地点では,60分以上捨て水をしないと0.1 mg/L確保することが出来なかった.重金属類は,いずれの採水地点においても鉛,亜鉛,銅,ニッケルの検出が顕著であった.総トリハロメタンは,6,8月の高置水槽を経由した地点を除いて,クロロホルム,ブロモジクロロメタン,ジブロモクロロメタン及びブロモホルムが0.001~0.009 mg/L検出された.その他,省略不可8項目,蒸発残留物,臭素酸及び塩素酸については,臭気を除いて水質基準を超過した項目は認められなかった.
特定建築物,水道水質,初流水,残留塩素濃度,総トリハロメタン

 

放射性医薬品が原因と考えられる空間放射線量率の上昇事例 
 都では都内7か所のモニタリングポストで空間放射線量率(線量率)を常時監視し,ウェブサイトで測定値を公開している.線量率上昇の原因の大半は降雨雪に伴う通常の変動であるが,稀に極短時間の線量率上昇が認められる.測定結果に対する都民の関心は高く,上昇した線量率を見て福島原発事故との関連性についての問い合わせも寄せられる.今回,ガンマ線スペクトルデータを解析して上昇の原因を明らかにすると共に,その検出件数を集計した.
 上昇時のスペクトルは,1) 99mTcもしくは123I,2) 消滅放射線,3) 131I,4) 201Tl,5) 67Gaの5つパターンに分けられ,これらはいずれもインビボ診断や治療で投与される放射性医薬品,もしくはPET検査で検出される放射線であった.上昇が見られたのは,不特定多数の人々が容易に近づける足立局,小平局及び江戸川局のみであり,発生時間の大半は日中であった.このことから,極短時間の線量率上昇の原因は,放射性医薬品の投与,もしくはPET検査を受けた人がモニタリングポスト近傍を通過したためと考えられる.
 2011年12月~2016年7月までに極短時間の線量率上昇は,足立局が11回,小平局が9回,江戸川局が4回であった.核種別では,99mTcもしくは123Iが13回,消滅放射線が5回であった.核医学検査,検診及び放射性物質による内用療法が普及している現状から,今回検出された3局は,今後もこのような事例が引き続きみられると予想される.
モニタリングポスト,都内,空間放射線量率,スペクトル分析,放射性医薬品,消滅放射線,
陽電子放射断層撮影(PET)

 

 レジオネラ症患者発生時の感染源調査ならびに公衆浴場等の
施設管理におけるレジオネラ属菌検査の遺伝子抽出法の評価
 東京都ではレジオネラ症患者発生時に感染源調査のために,患者利用施設等のレジオネラ属菌検査に培養検査と遺伝子検査を同時に行い,遺伝子検査が陽性の場合には,施設の改善措置後の再検査で陰性の確認が取れるまで施設の使用中止を指示している.また,公衆浴場等の施設管理については,レジオネラが10 CFU/100 mL 以上検出された施設の改善措置後の再検査として遺伝子検査を導入し,陰性の場合には速やかな設備の使用再開を行っている.現在,遺伝子検査法はキット付属の簡易抽出法によるLAMP 法を用いているが,その結果と培養検査の結果が一致しない場合が認められる.そこで,DNA 抽出方法に着目し,簡易抽出法とカラム抽出法の培養法に対する感度および特異度について評価した.その結果,感染源調査では感度の高い簡易抽出法でLAMP 法を行うことで,感染者が施設を利用した際のレジオネラの存在の有無を迅速に示すことができると考えられた.一方,施設の改善措置後の再検査においては,特異度の高いカラム抽出法でLAMP 法を行うことで培養法との結果の不一致は改善され,今まで以上に速やかに設備の使用再開を判断するこ
とができると考えられた.
レジオネラ属菌, LAMP法,浴槽水,プール水,

 

東京都感染症媒介蚊サーベイランスにおける捕集蚊の調査結果について
(平成27年度)
 ウエストナイル熱,デング熱等の蚊媒介感染症の国内発生及び蔓延を未然に防止するため,東京都では平成16年度から「感染症媒介蚊サーベイランス」を実施している.平成27年度の16地点の調査において13種類2,419匹の蚊が捕集された.最も多く捕集された蚊はヒトスジシマカ(Aedes (Stegomyia) albopictus)であり,次に多かった蚊はアカイエカ群(Culex (Culex) pipiens complex)であった.ヒトスジシマカは8月上旬に,またアカイエカ群は6月上旬に最も多く捕集された.この2種類の蚊はウエストナイルウイルを媒介し,特にヒトスジシマカはデングウイルスやチクングニアウイルスの媒介蚊でもあるため,これら蚊媒介感染症の蔓延防止には,未発生時から蚊の生息密度を下げるために防除対策を行うことが重要であることが改めて確認された.
蚊,感染症,ヒトスジシマカ,アカイエカ

  

論文Ⅴ 生体影響に関する調査研究

危険ドラッグ短期間投与によるマウスの肝臓及び腎臓への影響 

 危険ドラッグ短期間投与による肝臓及び腎臓への影響を検討するため,平成26年度に行動及び神経症状観察を行った危険ドラッグ24物質を投与した動物について病理学的検索を行った.試験は,一群5匹の雄性Crl:CD1(ICR)マウス(6週齢)に,注射用蒸留水で溶解あるいは懸濁させた被験物質を,0,2,20あるいは100 mg/kg体重(25-D-NBOMeは,0,0.11,1.1あるいは11 mg/kg体重)の用量で,1日1回,2日間連続経口投与し,最終投与から24時間後にイソフルラン麻酔下で放血致死させ,病理学的に検索した.
 薬物投与群のマウスでは体重の増加抑制及び肝臓重量の低下が認められた.顕微鏡による組織観察で,2-MAPB,α-PHP,4-MeO-α-PHPP,α-PBT,2C-H,4-F-α-PHPP,5-DBFPV,α-PNP及び4-Benzylpiperidineを投与したマウスの肝臓に,小葉中心から小葉中間帯にかけて,肝細胞の軽度肥大及び肝細胞の好酸性変化が認められた. 5-DBFPV高濃度群の肝臓では小葉中間帯の肝細胞に核分裂像が散在して認められた.腎臓では薬物の投与に関連した組織変化は認められなかった.

危険ドラッグ,ICRマウス,短期間投与,肝臓,腎臓,病理組織学的検討

 

論文Ⅵ 公衆衛生情報に関する調査研究

人口動態統計からみた日本における脳膜炎死亡について
 疾病動向予測システムを用いて日本における脳膜炎による死亡の歴史的状況を分析した.
脳膜炎による死亡は,1899年から1920年頃まで男女とも35,000人程度であったが,1923年には男子37,252名,女子36,237名とピークを示した後,急激に減少し,1943年には男子15,777名,女子14,311名と半減している.これは,平井毓太郎らが,乳幼児における脳膜炎死亡の過半が,化粧品に含まれる鉛白による鉛中毒であることを示し,その治療法を明らかにしたこと,および法が改正され,化粧品への鉛白の使用が禁止されたことによるものである.
脳膜炎,推移,世代マップ,人口動態統計,鉛中毒,鉛白,白粉

 

脳膜炎,推移,世代マップ,人口動態統計,鉛中毒,鉛白,白粉
 疾病動向予測システムを用いて日本における産褥熱による死亡の歴史的状況を分析した.
 情報が得られる最初の年次である1899年の産褥熱による死亡者数は,女子1,767名であったが,徐々に増加して,1914年には2,762名とピークを示し,1924年以降は順調に減少し1943年には643名となった.さらに1947年以降も減少を続け2014年には6名となっている.1943年以前のこの減少は,産婆教育の一環として実施された消毒法教育の成果と考えられる.このように成果が挙がることが確実な施策を着実かつ愚直に実施していくことが行政に課せられた使命の一つである.抗生物質の無かった時代に,産褥熱による死亡を1/4までに減らすことができたことは,賞賛されるべき成果である.
産褥熱,産婆,推移,世代マップ,人口動態統計,日本

 

論文Ⅶ 精度管理に関する調査研究

産褥熱,産婆,推移,世代マップ,人口動態統計,日本
 東京都では,「東京都水道水質管理計画」に基づき,東京都健康安全研究センターが中心となり,水道事業者及び厚生労働大臣の登録を受けた水道水質検査機関を対象とした外部精度管理を実施している.本稿においては,平成27年度に実施した鉄及びフェノール類に関する外部精度管理の概要を報告する.鉄では,参加39機関の全ての機関で評価基準を満たしていた.一方,フェノール類では,参加36機関のうち1機関がGrubbsの棄却検定で棄却され,6機関が評価基準を満たさなかった.その原因は,定量下限値未満の測定値の報告,前処理過程における不十分な固相カラムの乾燥,結果の誤記載,キャピラリーカラムの付け替えの際にリテンションタイムの変更を行わなかったこと,誘導体化操作の不備,通常の検査で使用している水道検査ソフトを精度管理時には使用せず,個別項目をフェノールに換算しないまま合算したことであった.配付試料の一部に不備が認められたことから,今後再発防止に向けて対策を講じる予定である.また,各検査機関の水質検査実施標準作業書(SOP)が告示法に準拠していない機関,実際の分析操作をSOPどおりに実施していない機関がみられた.これらの機関は,SOPの改定及びSOPを遵守した適正な検査を実施する必要がある.
外部精度管理,水道水,鉄,フェノール類,告示法
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