研究年報 第66号(2015) 和文要旨

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和文要旨
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事業報告

分子生物学的手法を用いた有害微生物の疫学解析に関する研究

 東京都健康安全研究センターの重点研究の一つとして平成24年度~平成26年度の3箇年で実施した,「分子生物学的手法を用いた有害微生物の疫学解析に関する研究」の概要を報告する.本研究では様々な遺伝子学的手法を用い,従来より実施されている病原体の血清型や薬剤感受性に基づく型別・同定からさらに踏み込んだ,詳細かつevidence-basedな型別法の検討を主な目的とした.具体的には,結核菌,ヒト免疫不全ウイルス(HIV),ノロウイルス(NoV)・サポウイルス (SaV)およびカビ・酵母類を中心に検討し,①有害微生物の遺伝子学的同定,②株レベルでの比較,③広域に渡る感染 事例に対応できる精度(データベース化を含む),④検出感度の向上を主な目標とした.
 結果として,結核菌においてはシーケンサーを利用した24領域のVNTR型別とそのデータベース化により広域感染での応用が可能になった.HIVについてはサブタイプ型のみならず,薬剤耐性関連変異を分子マーカーとして使用することで, 流行の解析に役立つことが示唆された.さらに,NoVの2ndリアルタイムPCRにおける検出感度の向上には1st PCR産物の 希釈が有効であること,平成25年の集団胃腸炎事例から検出されたSaVは多くがGI.2型であることが明らかになった.また,カビ・酵母においても,カビ毒産生株の型別や汚染調査への応用に分子疫学的解析が極めて有用であることが示された.

結核菌,HIV,ノロウイルス,サポウイルス,酵母,カビ,遺伝子解析,塩基配列,PCR,VNTR

 

食品に含まれる化学物質による健康危害防止に関する研究

 平成24~26年度の3年間で,食品に含まれる化学物質による健康危害を未然に防ぎ,都民の食の安全・安心を向上させることを目的として,「食品に含まれる化学物質による健康危害防止に関する研究」を標題とする重点研究をプ ロジェクトとして行った.本重点研究は,6題の個別研究により構成され,以下の成果をあげた.
 食品に違法に添加される化学物質に関する研究では,10種類の合成色素のLC-MS/MSを用いた迅速な多成分一斉分析法を作成した.食品添加物及び容器包装由来の金属に関する研究では,金属製容器で加熱する食品の金属濃度が水道水質基準値以下のレベルでは,容器内面に銅以外の金属が蓄積することはないこと,食品添加物由来のアルミニウム含有量が高いパン・菓子等があるが,追跡調査した結果低減化が図られていることを明らかにした.健康食品中の医薬品成分等に関する研究では,ライブラリーの構築やNMRによる定量法の確立により,迅速な医薬品成分等の検査 が可能となった.有毒植物の鑑別に関する研究ではPCR法を開発し3種の有毒植物を特異的に検出することが可能となった.残留農薬・動物用医薬品に関する研究では,分析法を開発し,データ解析用のワークシートを作成・活用して妥当性評価を行い,良好な結果を得た.食の安全に係る海外情報検索システムでは,種々の検討を行ってシステムの 改善を行い,これらの研究等に有用な情報提供を行った.

合成色素,金属,容器,アルミニウム,食品添加物,健康食品,医薬品成分,ライブラリー,NMR, 有毒植物,PCR,残留農薬,動物用医薬品,妥当性評価,情報検索システム

 

都内環境における原発事故由来放射能の挙動と将来予測に関する研究
 平成24年度~平成26年度の3ヶ年で実施した健康安全研究センター重点研究「都内環境における原発事故由来放射能の挙動と将来予測に関する研究」の主な成果を報告する.本研究を構成する個別研究それぞれの主な成果は以下のとおりであった.①原発事故以降の都内空間放射線量の推移とその変動要因の解明では,東京電力福島第一原子力発電所事故直後に観測された都内の空間放射線量率上昇の原因核種とそれによる都内の放射能汚染状況を明らかにするとともに,原発事故時の都内7箇所におけるセシウム137降下量を推定し,さらに2020年末時点での都内の空間線量率の予測値を得た.②都内降下物による放射性物質汚染評価では,都内において測定を開始した1963年から現在に至る間の降下物等中の放射性核種の歴史的推移を整理し,福島原発事故による降下物中の放射性物質の状況を比較・評価した.また月間降下物中や陸水,土壌などに残存する放射性セシウムの濃度や変動状況を解析し,月間降下物あるいは蛇口水中の放射性セシウムは2020年前後にはおおむね不検出となる推定結果を得た.③放射性物質による都内地下水の汚染の可能性評価では,耕作地と非耕作地に散布した非放射性セシウムの地下への移行は散布2年後でも深さ30-40 cmよりも下層には達しなかった.不飽和水分移動汎用プログラムを用いたセシウムの土壌中垂直移行のモデル計算から,土壌中セシウムが最も浅い飲用井戸の深度1mに到達するのは78年後,土壌中ピーク濃度は0.4 Bq/kgとの推定が得られた.④人口動態統計に基づく東京都及びわが国の年代別の死亡動向と放射能汚染との関係解析では,疾病動向予測システムによって放射能汚染に関係すると想定される全がん、白血病、甲状腺がんの死亡者について20世紀初頭もしくは中頃から現在までの統計情報を詳細に分析した.いずれも現時点において放射能汚染事象との関連を示す兆候はみられなかった.
福島第一原子力発電所事故,モニタリングポスト,空間線量率,降下物,セシウム134,セシウム137,非放射性セシウム,土壌中移行,シミュレーション,地下水,悪性新生物,白血病,甲状腺がん,人口動態統計,年齢調整死亡率

 

総説

インフルエンザとインフルエンザウイルス:その特徴と東京都における対応

 呼吸器症状を呈するウイルス性疾患として,インフルエンザは人類史の古くから流行を繰り返してきており,スペインインフルエンザを含めてこれまでに四度の世界流行(パンデミック)が明らかになっている.これらの多くはヒトインフルエンザウイルスと鳥インフルエンザウイルスやブタインフルエンザウイルスの遺伝子が組み合わさったリアソータント(再集合)ウイルスであり,人類が相対する抗体を持たない全く新しいウイルスであった.インフルエンザウイルスの性状や感染機構は,新たな遺伝子検出技術によって多くのことが明らかにされており,それらの特徴を利用した検査法や治療薬が開発されている.
 東京都では新型インフルエンザや鳥インフルエンザを迅速に検出するための東京感染症アラート検査(緊急検査)を2005年から実施している.2009年の新型インフルエンザ発生時には,海外発生からわずか2週間程度で国内発生が見られたことから,新型インフルエンザウイルスの国内侵入への監視には注意が必要である.

インフルエンザ,インフルエンザウイルス,高病原性鳥インフルエンザ,季節性インフルエンザ, リアルタイムPCR,遺伝子解析,遺伝子系統樹

 

論文Ⅰ 感染症等に関する調査研究

都内小児科定点医療機関において検出されたA群溶血性レンサ球菌の型別成績(2010年~2014年)
 東京都では小児におけるA群溶血性レンサ球菌感染症の発生状況を把握する目的で,A群溶血性レンサ球菌のT血清型別および発熱性毒素産生性の調査を実施している.今回は,2010年1月より2014年12月までに,都内小児科病原体 定点医療機関で採取された咽頭ぬぐい液より分離したA群溶血性レンサ球菌138株および,都内医療機関より送付された菌株212株を合わせた計350株について,T血清型別および発熱性毒素産生性を調査した.
 その結果,350株中317株が15のT血清型に分類された. T血清型は,多い順から1型,12型,4型, B3264型,28型であり, B3264型および6型は,5年間で増加傾向にあった.
 T血清型と発熱性毒素産生性との関連性に注目すると,劇症型レンサ球菌感染症由来株で多く認められる1型におけるSPE-A+B産生株の割合は,2010年以前の調査で24%であったものが,今回の調査では52%に増加した.SPE-A産生株の割合が高い1型,6型については劇症型溶血性レンサ球菌感染症との関連も視野に入れ,今後も注視していく必要があると考えられた.
A群溶血性レンサ球菌,溶連菌,咽頭炎,T型,発熱性毒素,SPE

 

 東京都における麻疹ウイルスの検出状況について(2014 年)
 東京都では2010年から積極的疫学調査事業として麻疹の全数検査を実施しており,麻疹と診断された患者検体は可能な限り確保し遺伝子検査を実施することとしている.2011年にはD4型とD9型を中心とした麻疹が流行し,その後も様々な型の麻疹ウイルスの検出が続いている.今回,都内における2014年の麻疹ウイルスの検出状況について解析した結果,遺伝子検査で麻疹ウイルスが検出された89件のうち,型別についてはB3型が最多39件(43.8%)であり,以下D8型21件(23.6%),D9型14件(15.7%),H1型1件(1.1%)であった.検出された麻疹ウイルスについて分子系統樹解析を行った結果,B3型とD9型については多型が認められなかったが,D8型は複数のサブクラスターに分かれた.
麻疹,遺伝子型別,B3,D8,D9,H1,輸入感染例,分子系統樹解析,2014年

 

東京都におけるポリオウイルス中和抗体保有状況について 感染症流行予測調査事業におけるデータの解析(2010年~2014年)
 日本におけるポリオワクチンの予防接種は,2012年9月以降,生ワクチンから不活化ワクチンへ切り替わった.この間のポリオウイルス中和抗体保有状況の変化を調査するため,2010年から2014年の中和抗体価保有状況についてワクチン接種の種類,有無を年齢階層別に解析した.その結果,この移行期にあたる2012年のワクチン接種率は例年よりも低下していた.抗体保有状況は,2014年の結果から,不活化ワクチンを接種することにより抗体保有率は向上し,1型,2型,3型ともにほぼ100%の抗体保有率となった.特にポリオ2型,3型に対しては,ポリオ生ワクチンを投与した場合に比べて高い抗体価を得られることが示唆された.
流行予測,ポリオ,不活化ワクチン,中和抗体価

 

東京都感染症流行予測調査事業におけるヒトパピローマウイルス および水痘ウイルス抗体検査成績(2014年度)
 2013年にヒトパピローマウイルス(HPV)感染症ワクチンが,2014年に水痘ワクチンが定期接種化された.今回,東京都内在住者を対象にHPV16型および水痘ウイルス(VZV)に対する抗体保有調査を行い,ワクチン接種歴等の関連性を年齢階層別に解析した.
 対象者(20歳以上)140名のHPV16抗体保有率は6.4%で,男女別の幾何平均抗体価(GMT)はそれぞれ0.3 IU/mL, 0.4 IU/mLであった.女性2名にHPV感染症ワクチン接種歴があり,HPV16抗体価は女性のGMT(0.4 IU/mL)よりそれぞれ 168倍,482倍高かった.
 369名のうちVZV抗体陽性者は261名で,抗体保有率は70.7%,対象者全体のGMTは8.7 IU/mLであった.また,ワクチン 未接種者の77.9%は水痘の罹患歴があり,ワクチン接種者の74.4%は水痘に罹患していなかった.
 HPV感染症ワクチンおよび水痘ワクチンの定期接種は始まったばかりで,開始後の間もない時期に行われた今回の調査は初期のデータとして有用であると考えられる.また、HPV感染症,水痘,帯状疱疹の罹患率の動向把握を含め,今後も継続して調査を実施する必要性が示唆された.
HPV感染症,HPV16抗体,水痘,VZV抗体,ワクチン

 

論文Ⅱ 医薬品等に関する調査研究

救急絆創膏の粘着力試験法の条件検討
 救急絆創膏では,製品の性能を確認するために粘着テープ部の粘着力が試験項目となっている.試験方法は180° 引き剥がし法が汎用されており,救急絆創膏自主基準の第1法及び第2法に規定されている.救急絆創膏自主基準では,粘着テープ部の長さを約250 mmと規定しているが,最終製品で試験に使用できる粘着テープ部は20 mm程度(試験板との接着面)であり,規定の長さを満たさない.そこで,第1法及び第2法に規定されている試験条件のうち,粘着テープ部の長さを250 mm,100 mm,30 mmとし,それぞれ粘着力を比較した.その結果,第1法及び第2法ともに,粘着テープ部の長さによる粘着力に明らかな差は認められなかった.また,粘着テープ部にガムテープでタブをつけて 長さの不足を補う方法でも,試験が可能であり,試験効率を改善できた.更に,本試験において,粘着力に影響を与える試験条件を検討したところ,試験板の種類,圧着後放置温度,圧着後放置時間,引き剥がし速度によって,粘着力は影響を受けることがわかった.
医療機器,クラス分類,救急絆創膏自主基準,救急絆創膏,粘着力,精密万能試験機

 

危険ドラッグから検出された薬物に関する理化学試験結果(平成26年度)
 平成26 年度に行った市販危険ドラッグ製品中に検出した薬物の理化学試験結果を報告する.薬物の理化学試験は,主にフォトダイオードアレイ検出器付液体クロマトグラフィー(LC/PDA),電子イオン化質量分析計付ガスクロマトグラフィー(GC/EI-MS)を用い,必要に応じて核磁気共鳴スペクトル測定法(NMR)及び単結晶X 線構造解析法にて構造解析を行った.試買及び事故苦情検体を含めた危険ドラッグ257 検体のうち,検出された新規薬物は,総数34 種で通称25D-NBOMe,25E-NBOMe,25B-NBF,25C-NBF,25C-NBOH,30C-NBOMe,α-PNP,4F-IPV,4-Fluoro-α-PVP piperidine analog,4F-Octedrone,4-Fluoro-α-POP,4-MeO-α-PBP,3,4-Dimethoxy-α-PHP,5-PPDI,bk-IVP,5-BPDI,5-DBFPV,N,NDimethylpentyllone,3,4-methylenedioxy-α-PHP,2-Methoxy-4,5-methylenedioxymethcathinone,α-PBT,2-MeO-Diphenidine,Acetyl fentanil,THJ-2201,NM2201,FDU-PB-22,5-Fluoro-SDB-005,5-Fluoro-NPB-22,PX-1,5-Fluoro-AMB,5F-ADB,5F-ADB-PINACA,AB-CHMINACA,ADB-CHMINACA と称される薬物であった.
 また規制物質は麻薬2 種(XLR-11,5F-PB-22)及び薬事法指定薬物8 種(NNE1 インダゾールアナログ,ABCHMINACA, FUB-PB-22,4-メトキシ-α-PHPP,4-フルオロ-α-PHPP,25I-NBOMe,4-MeO-α-PBP,N, N-ジメチルペンチ ロン)が24 検体より検出された.
危険ドラッグ,指定薬物,LC/PDA,GC/EI-MS.

 

化粧品における配合成分の検査結果(平成25年度)
 平成25年度に搬入された80製品について,ホルマリンや防腐剤,紫外線吸収剤,タール色素,承認化粧品成分の製 品への表示状況並びに検査結果をまとめた.配合禁止成分であるホルマリンは,ホルムアルデヒドとして検査し,ホルムアルデヒドを検出した製品は1製品であった.防腐剤については,パラオキシ安息香酸エステル類やフェノキシエタノールの検出頻度が高かった.化粧品基準に定められた最大配合量を超過した濃度の防腐剤を検出した製品はなかった.また,表示されていない防腐剤を検出した製品は5製品であった.紫外線吸収剤では,パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシルの検出頻度が高かった.最大配合量を超過した濃度の紫外線吸収剤を検出した製品はなかった. 表示されていない紫外線吸収剤を検出した製品は1製品であった.タール色素で検出頻度の高いものは黄色4号であった.承認化粧品成分については,グリチルリチン酸ジカリウムの検出頻度が高く,最大配合量を超過した濃度の承認化粧品成分を検出した製品はなかった.
化粧品,ホルマリン,ホルムアルデヒド,防腐剤,紫外線吸収剤,タール色素,承認化粧品成分

 

東京都における規制対象家庭用品の「ホルムアルデヒド」試験検査結果について (平成21年度~平成26年度)
 例年全国において「有害性物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」に基づく検査が行われ,その試料数及び違反数等をまとめたものが国より報告されている.近年その違反数は低く推移しているが,ホルムアルデヒドの試験については毎年基準違反が出ている.
 平成21年度~平成26年度における東京都のホルムアルデヒドに関する試験検査結果についてみると,違反は平成21年度に乳幼児用帽子1製品のみであった.一方,基準内であるがホルムアルデヒドを認めた試料について確認したと ころ,繊維製品のうち生後24ヶ月以内の乳幼児用585製品中30製品から3~14 μg/g,繊維製品のうち生後24ヶ月以内の 乳幼児用を除いたもの520製品中18製品から9~46 μg/g及び家庭用接着剤30製品中14製品から10~25 μg/gのホルムアルデヒドを認めた.これら結果の多くは基準をはるかに下回る検出量であったが,乳幼児用繊維製品3製品からは基準に近い量を検出した.
有害性物質を含有する家庭用品の規制に関する法律,家庭用品,ホルムアルデヒド,繊維製品,接着剤

 

論文Ⅲ 食品等に関する調査研究

市販飲料中のカフェイン含有量とその摂取量 -乳幼児の茶飲料摂取を中心にして-
 平成25年4月から平成26年11月にかけて市販の茶飲料90品目中のカフェイン含有量を調査するとともに,平成25年12月に0~6歳の乳幼児を持つ東京都内在住の母親280名を対象にカフェインに関するアンケート調査を行った.カフェイン含有量は茶飲料全体で0~23 mg/100 mLであり,緑茶は5~23 mg/100 mL,ほうじ茶は9~15 mg/100 mL,烏龍茶は 8~14 mg/100 mLであった.乳幼児の飲料からのカフェイン摂取量を推測したところ,カナダ保健省が提唱する悪影響のない最大摂取量2.5 mg/体重kg/日を超過する可能性のあるものの割合が,夏季(8月)は8.2%,冬季(12月)は10% であり,カフェイン摂取の原因となる飲料は,自宅で浸出された,および市販の容器入りの緑茶,ほうじ茶が多かった.また,妊娠中の母親の飲料からのカフェイン摂取量を推測したところ,カナダ保健省が提唱する悪影響のない最大摂取量300 mg/日を超過する可能性のあるものの割合が4.3%であり,カフェイン摂取の原因となる飲料は自宅で浸出されたコーヒーが多かった.30%弱の母親が子供に飲料を与える際にカフェインに対して全くあるいはほとんど意識せず,妊娠中は,15%の母親がカフェインに対して全くあるいはほとんど意識していなかった.また,母親のほうじ茶,玄米茶,ココアのカフェイン含有の認識が低かった.今回の調査において,カナダ保健省が提唱する最大摂取量を超過するカフェインを摂取する可能性がある乳幼児および妊婦が4~10%程度いたことに注意する必要があると考え る.
カフェイン,摂取量,調査,含有量,アンケート調査,茶飲料

 

LC-MS/MSを用いた魚介類中トリブチルスズ及びトリフェニルスズ化合物の分析
 魚介類中のトリブチルスズ化合物(TBT)及びトリフェニルスズ化合物(TPT)の分析法を検討した.試料からアセトン及びn-ヘキサン混液で抽出し,ゲル浸透クロマトグラフィーで脱脂後,フロリジル及びグラファイトカーボンブラックカートリッジカラムに負荷し,0.5 %酢酸含有メタノールで溶出して精製を行った.測定にはLC-MS/MSを用 いた.種々の魚介類に添加したときの回収率は10 ng/gで85.4%~102.9%であった.本分析法は魚介類を対象としたTBT及びTPTの分析法として十分適用できると考える.
トリブチルスズ化合物, トリフェニルスズ化合物,魚介類,ゲル浸透クロマトグラフ,液体クロマトグ ラフ-タンデム質量分析計

 

食品中の放射性物質の検査結果(平成26年度)
 平成23年3月11日に発生した東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故を受け,東京都では平成23年度から都内で流通している食品の放射性物質検査を実施している.平成26年度は国産食品741検体及び輸入食品100検体, 計841検体について放射性セシウム及び放射性ヨウ素の検査を行った.検査にはヨウ化ナトリウム(タリウム)シンチレーションスペクトロメーター及びゲルマニウム半導体核種分析装置を用いて測定した.その結果,国産品ではシイタケ1検体から,また,輸入品ではキノコ類7検体及びベリー類2検体から放射性セシウム(Cs-137)が検出されたが,いずれも基準値を大きく下回っていた.
放射性物質,核種分析,放射性セシウム,ゲルマニウム半導体核種分析装置,ヨウ化ナトリウム(タリウム)シンチレーションスペクトルメーター,食品

 

都内小売店で販売されている弁当類の放射性物質含有量の調査及び 陰膳法による放射性物質の摂取量の推定
 平成23年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故で放出された放射性物質による食品の汚染状況を調査するため,平成24年12月から平成25年10月までの期間に東京都内で販売されている弁当類19品を購入し,ゲルマニウム半導体核種分析装置を用いて放射性セシウム(Cs-134及びCs-137)を測定した.自然放射性核種である放射性カリウム(K-40)につい ても同時に測定を行った.放射性セシウムは19品中8品から0.05~0.29 Bq/kg検出されたが,厚生労働省が示した放射性セシウムの一般食品の基準値100 Bq/kgと比較すると,極めて低い値であった.K-40は19品全てから検出され,17~60 Bq/kg であった.また,平成26年9月及び10月に陰膳法により採取した成人の1日分の食事4検体についても同様の検査を行った. Cs-134は4検体全てで不検出であったが,Cs-137については4検体中2検体から検出され,成人1日分の食事中に含まれるCs- 137は0.14 Bq/day及び0.15 Bq/dayであった.これと同等の放射性セシウムを含む食事を1年間継続して摂取したと仮定して年当り預託実効線量を試算すると0.00066 mSv/year及び0.00072 mSv/yearであった.K-40は4検体全てから検出され,60~84 Bq/dayであり,K-40の年当り預託実効線量は0.14~0.19 mSv/yearと算出された.放射性セシウムから受ける年当り預託実 効線量は,厚生労働省が定めた食品中の規制対象となる放射性物質からの被ばく線量の上限である1 mSv/yearを大きく下回る結果となった.
放射性セシウム,放射性カリウム,市販弁当,陰膳法,摂取量,年当り預託実効線量

 

化学物質及び自然毒による食中毒及び有症苦情事件例(平成26年)
 平成26年に東京都内で発生した化学物質及び自然毒による食中毒及び有症苦情のうち,原因物質の異なる5物質6事例について報告し,今後の食中毒発生予防及び食中毒発生時の迅速な検査の参考に供することとする.ふぐによる有症事例2事例はふぐちりやふぐ刺しを喫食して口唇や手足の痺れなどを呈した事例で,ふぐ毒についてマウス単位法に より分析を行った.その結果,いずれの検体からもふぐ毒は検出されなかった.ヒガンバナ科植物による有症事例1事例は,ニラと誤認して植物の葉を喫食して,吐き気や嘔吐、下痢などの症状を呈した事例で、植物鑑定と有毒成分であるリコリンの分析を行った.その結果,残品はヒガンバナ科スイセン属の有毒植物であることが判明し,また,リコリンを検出したことから、有毒植物を喫食したことによる食中毒が疑われた.ヨウシュヤマゴボウによる食中毒1事例は,認定こども園で伐採した植物の根茎を甘酢漬けにして喫食し,吐き気や嘔吐,めまいなどの症状を呈した事例で,植物鑑定を行った.その結果,残品はヤマゴボウ属の有毒植物であることが判明し,有毒植物による食中毒と断定された.キノコによる有症事例1事例は,クリタケを喫食して口腔内の痺れと手指の痺れ等の症状を呈した事例で, キノコの鑑定を行った.しかしながら,残品の状態が悪く種の同定には至らなかった.クワズイモ属による有症事例1事例は,観葉植物の根茎を喫食し,焼けるような舌の痛み,舌のしびれなどの症状を呈した事例で,植物鑑定を行った.その結果,残品はクワズイモ属の有毒植物であることが判明し,有毒植物を喫食したことによるによる食中毒が 疑われた.
化学性食中毒,ヒスタミン,フグ,スイセン,ヒガンバナ科植物,リコリン,ヨウシュヤマゴボウ,クリタケ,ニガクリタケ,クワズイモ属

 

食品の苦情事例(平成26年度)
 平成26年度に実施した食品苦情に関わる事例から,検査によって原因が明らかになった4例を選び報告する.チキ ンナンカレーに混入していた白色物質は,FT-IR分析と蛍光X線分析を行った結果,食品添加物のポリリン酸であると推察された.レトルトカレー中の2種類の異物は,1つは光学顕微鏡観察からレトルトカレー中の肉の塊であると推察された.2つ目は臭いの官能試験,FT-IR分析及び熱分解GC/MS分析を行った結果,石けんと推察された.学校給食に供された肉団子の表面に黒色物質が付着していた事例では,光学顕微鏡と蛍光X線分析より,肉団子の製造過程で付着したものであると推察された.これらの結果をもとに製造現場を確認したところ,肉団子の成形機に黒い汚れが蓄積しやすい部位があることが判明した.この部位の材質変更と調整を行ったところ異物の付着は認められなくなり,品質の改善が行われた.カット野菜の千切りキャベツに付着していた青色異物は,形態観察とFT-IR分析を行った結果,千切りキャベツの脱水で用いられるザルの破片が混入したものと推察された.
食品苦情,異物混入,チキンナンカレー,ポリリン酸,レトルトカレー,石けん,学校給食,肉団子,カット野菜,ザル

 

遺伝子組換え食品の検査結果(平成22年度~平成26年度)
 平成22年4月から平成27年3月までに当センターで実施した遺伝子組換え食品検査の結果を報告する.安全性未審査のため国内で流通が認められていない遺伝子組換えトウモロコシ(CBH351,Bt10),コメ(63Bt,NNBt,CpTI),パパイヤ(55-1,PRSV-YK,PRSV-SC)に関して,389検体について検査を行った結果,安全性未審査の遺伝子組換え作物は検出されなかった.安全性審査済み遺伝子組換え食品に関しては,ダイズ穀粒・加工食品およびトウモロコシ穀粒・加工食品642検体について検査を実施した.642検体のうち定性試験を行った608検体中約27%の検体から,安全性審査済み遺伝子組換えダイズであるラウンドアップレディーダイズまたは遺伝子組換えトウモロコシ(Event176,Bt11,T25,MON810,GA21)が検出されたが,定量試験の結果,意図しない混入率の基準(5%)を越えるものはなかった.
遺伝子組換え食品,定性PCR法,定量PCR法,トウモロコシ,コメ,パパイヤ,ダイズ,加工食品

 

食品中合成着色料(キサンテン系色素)のLC-MS を用いた高感度な確認法の検討

 食品中の合成着色料検査はペーパークロマトグラフィー(PC),薄層クロマトグラフィー(TLC)および液体クロマトグラフィー(LC)で行い,これらを組み合わせて確認検査を実施しているのが現状である.今回,LCよりもさらに信頼性の高いLC-MSの選択イオンモニタリング(SIM)測定を用いた高感度な確認法の検討を行った.
 感度の良い3種のフラグメントイオンを生成するコーン電圧と質量の組合せを検討し,R3は80V(m/z 537,663,835),R104 は50V(m/z 705,741,785),R105は50V(m/z 891,929,973),R106は100V(m/z 477,513,557)を選択した.その条件で,それぞれSIM測定を行った結果,R3,R104,R106は0.1~50 μg/mL,R105は0.5~50 μg/mLの間で,ほぼ同様の面積比が得られた.検出下限は0.5 μg/mL,LC-MSのスキャンと比較してR3,R104,R106は10倍,R105は5倍の高感度であった.
 また,得られた確認法を用いて,すあま(餅菓子)中のR3の分析を行ったところ,精度良く確認できることが明らかとなった.

着色料,キサンテン系色素,LC-MS,SIM,すあま(餅菓子)

 

国内産野菜・果実類中の残留農薬実態調査 ― 平成26年度 ―
 平成26年4月から平成27年3月に東京都内に流通していた国内産農産物28種79作物について残留農薬実態調査を行った.その結果22種48作物(検出率61%)から殺虫剤及び殺菌剤合わせて47種類の農薬(アセタミプリド,ボスカリド,ジノテフラン等)が痕跡(0.01 ppm未満)~0.65 ppm検出された.検出された農薬の内訳は,有機リン系農薬6種類,有機塩素系農薬5種類,カルバメート系農薬3種類,ピレスロイド系農薬5種類,ネオニコチノイド系農薬8種類,含窒 素系及びその他の農薬20種類であった.食品衛生法の残留農薬基準値及び一律基準値を超えて検出された農薬は無かった.
残留農薬,国内産農産物,野菜,果実,殺虫剤,殺菌剤,残留基準値,一律基準値

 

輸入農産物中の残留農薬実態調査(野菜・その他) - 平成26年度 -
 平成26年4月から平成27年3月に東京都内に流通していた輸入農産物の野菜,きのこ類,穀類及び豆類の40種191作物について残留農薬実態調査を行った.その結果,23種86作物(検出率45%)から残留農薬が痕跡(0.01 ppm未満)~1.1 ppm 検出された.検出農薬は,殺虫剤,殺菌剤及び除草剤合わせて49種類(有機リン系農薬7種類,有機塩素系農薬5種類,カルバメート系農薬3種類,ピレスロイド系農薬6種類,含窒素系及びその他の農薬28種類)であった.このうち,中国産未成熟えんどうからジニコナゾールが0.50 ppm検出され,一律基準値(0.01 ppm)を超えたため食品衛生法違反となった.この残留量は,ジニコナゾールに設定された一日摂取許容量(ADI)の1/15程度であった.
残留農薬,輸入農産物,野菜,きのこ類,穀類,豆類,残留基準値,一律基準値

 

輸入農産物中の残留農薬実態調査(果実類) -平成26年度-
 平成26 年4 月から平成27 年3 月に都内に流通していた輸入農産物のうち,果実類21 種154 作物について残留農 薬実態調査を行った.その結果,20 種113 作物(検出率73%)から殺虫剤,殺菌剤,除草剤合わせて55 種類の農薬が痕跡(0.01 ppm 未満)~3.9 ppm 検出された.検出農薬の内訳は,有機リン系殺虫剤7 種類(クロルピリホス,マラチオン他),カルバメート系殺虫剤3 種類(カルバリル,メソミル,メトキシフェノジド),有機塩素系農薬4 種類 (キャプタン,イプロジオン他),ピレスロイド系殺虫剤7 種類(ビフェントリン,シペルメトリン他),含窒素系及びその他の殺虫剤11 種類(イミダクロプリド,ピリプロキシフェン他),含窒素系及びその他の殺菌剤22 種類(イマザリル,チアベンダゾール他),含窒素系除草剤1 種類(シマジン)であった.なお,食品衛生法の残留基準値及び一律基準値(0.01 ppm)を超えて検出されたものはなかった.
残留農薬,輸入農産物,果実,殺虫剤,殺菌剤,除草剤,残留基準値,一律基準値

 

輸入水産物におけるトリブチルスズ及びトリフェニルスズ化合物の含有量調査 (平成19年度~平成26年度)
 輸入水産物における食の安全を確保するために,輸入水産物中の有機スズ化合物(トリブチルスズ化合物(TBT)及びトリフェニルスズ化合物(TPT))の残留実態を調査した.平成19年度から平成26年度の間に東京都内で流通していた魚介類180検体及び海藻1検体についてこれらの含有量を調査した.TBTは魚介類180検体中47検体から0.01~ 0.03 ppm,TPTは180検体中18検体から0.01~0.12 ppmの範囲で検出された.海藻では,ワカメからTBT,TPTがともに0.02 ppm検出された.これらの値は一日許容摂取量よりも低く,いずれも健康影響のないレベルであった.ウナギの蒲焼等加工品から有機スズ化合物が検出され,加工処理後も残留することが示唆された.輸入水産物には低濃度であるが有機スズ化合物の残留がみられるため,今後も継続的かつ詳細な調査が必要である.
有機スズ化合物,トリブチルスズ,トリフェニルスズ,輸入食品,水産物,魚介類,海藻

 

論文Ⅳ 生活環境に関する調査研究

シロアリ駆除剤由来のネオニコチノイド系殺虫剤による室内環境汚染
 シロアリ駆除剤由来のネオニコチノイド系殺虫剤による室内汚染の現状を把握するため,室内空気中及びハウスダスト中の濃度測定法を確立し,住宅の調査を行った.空気採取は,石英繊維フィルターを用い,ミニポンプにより72 時間行った.空気採取後のフィルターは,アセトンで超音波抽出し,窒素気流下で濃縮後,メタノールに転溶して分析用試料とした.ハウスダストは,掃除機で部屋の床全面を吸引して採取し,メタノールで超音波抽出後,ろ過して分析用試料とした.分析装置にはLC-MS/MS を用い,Positive-ESI モードで分析した.住宅調査は,使用したシロアリ駆除剤の薬剤名が分かっている木造一戸建7 軒で行い,室内空気(n=16)及びハウスダスト(n=12)を採取した.調査の結果,シロアリ 駆除剤に含有されていたイミダクロプリド及びクロチアニジンが検出され,空気からの検出率は56%,ハウスダストからの検出率は100%であった.濃度最大値は,室内空気ではイミダクロプリド17.6 pg/m3,クロチアニジン1,090 pg/m3, ハウスダストではイミダクロプリド98,900 ng/g,クロチアニジン1,790 ng/g であった.これらの値を用いて,室内空気及 びハウスダスト由来の両薬剤の曝露量最大値を試算し,それらがADI に占める割合を算出したところ,ADI に占める割合は最大で0.87%であった.
ネオニコチノイド系殺虫剤,シロアリ駆除,イミダクロプリド,クロチアニジン,室内空気,ハウスダスト,トリアゾール系木材保存剤

 

環境全β放射能のバックグラウンド計数の気象データを用いた推定方法の検討 一般化線形モデルによる回帰分析とシミュレーション実験
 降水試料の全β放射能測定において,バックグラウンド計数の分布の母平均を,実測値からではなく,利用可能な気象データを用いて推定する方法を検討した.環境放射能測定のバックグラウンドに宇宙線が影響を与えることが知られており,また,地表に達する二次宇宙線強度は,高層の気温と地表の気圧が影響することがわかっている.そこで,全β放射能測定のバックグラウンド計数を応答変数,高層の気温と地表の気圧を説明変数にした一般化線型モデルにそったモデル式を作った.これを全β放射能測定のバックグラウンドを1年間測定して収集した計数データにあてはめるポアソン回帰分析を行ったところ,高層の気温の効果係数は,-0.115 %/°C,測定地点の気圧の効果係数は,0.069 %/ hPa であった.これらの効果係数を用いた予測式から推定した分布の母平均を,実測したバックグラウンド計数から推定した分布の母平均と比較した.その結果,気象データを用いたバックグラウンド計数の分布の母平均の推定は,実測値から計算して求めた推定値よりも精度が良いことが示された.また,これらの効果係数を用いた予測式を使用して,試料測定の前後に行うバックグラウンド測定の計数が同一母集団からの互いに独立な無作為標本とみなせるか否かの検討を行った.その結果,2個のバックグラウンド計数は,同一ポアソン分布からの計数とみなせる ことが分かり,全β放射能測定のバックグラウンド計数の挙動の解析に,同一母集団からの無作為抽出のコンピュー タシミュレーションの手法が使えることが示された.
全β放射能,バックグラウンド,降水試料,宇宙線,高層気温,気圧,一般化線形モデル,計数データ,効果係数,シミュレーション実験

 

東京湾の環境汚染モニタリング(14報) スズキ中の内分泌撹乱物質の濃度推移について
 1960年代から塩素系有機化合物による野生生物への汚染が表面化し,現在ではそれらの化学物質の内のいくつかは,内分泌撹乱物質として分類されている.我が国では有害化学物質による海洋生物への汚染の実態を調査しており,東京都では1978年から,スズキ可食部中の有機塩素系殺虫剤,クロロベンゼン化合物,フタル酸および有機スズ化合物などの38物質の濃度調査を行ってきた.本報では,主に1997年から2002年までのこれら38物質におけるスズキ中の濃度調査結果及び検出物質の1980年代からのトレンドを報告する.主な化学物質の濃度推移について以下に示す.ポリ塩化ビフェニル (PCB)は,0.06 μg/gから0.75 μg/gの間で推移しており,1991年以降は減少したが,2002年には再び上昇し0.36 μg/gであった.ジクロロジフェニルトリクロロエタン(DDT)は,0.01 μg/gから0.08 μg/gの間で推移し,PCBと似た増減の傾向が見られた.クロルデン類は1989年の0.092 μg/gをピークとし,その後は減少傾向に転じた.ドリン類の内ディルドリンとヘキサクロロシクロヘキサン(HCH)はともに0.006 μg/g以下の値であった.有機スズ化合物であるトリブチルスズ(TBT)は 0.012 μg/gから0.42 μg/gの間で推移し,トリフェニルスズ(TPT)は1981年に1.8 μg/gとなり,その後調査終了までほとんど検出されなかった.スズキ中の調査対象の化学物質濃度は年を経るごとに減少していたが,これらの化学物質および新たな化学物質による汚染の発生も考えられるため,環境中の化学物質の濃度については,今後もモニタリングしていくことが重要である.
環境汚染,内分泌撹乱物質,スズキ,東京湾,有機塩素系化合物

 

東京湾産魚貝類の内分泌かく乱化学物質汚染調査(1998年~2007年) DDTとその代謝物,ベンゾフェノン及び可塑剤について
 東京都では,環境中における内分泌かく乱化学物質の蓄積状況を把握することを目的に,東京湾産魚貝類中の化学物質濃度測定を継続的に実施している.本報では,調査を開始した1998年から2007年における,DDTとその代謝物,ベンゾフェノン及び可塑剤の結果を報告する.対象とした魚貝類は,東京湾内で捕獲されたスズキ,ボラ,コノシロ, マアナゴ,マコガレイ,ムラサキイガイ及びアサリで,このうち毎年4~5種を調査した.可食部中の各物質濃度を分析した結果,対象とした魚貝類全てからp,p’-DDEが検出された.ベンゾフェノン,フタル酸エステル類及びアジピン酸ジ-2-エチルヘキシルは,全試料で定量下限値未満であった.DDTの検出率は魚貝類によって差が見られ,ボラ及びマアナゴは70%以上,スズキは約50%,アサリ及びマコガレイは2%以下であった.DDT及び代謝物の総和については,経年による濃度変動はほとんど見られなかった.魚貝類による濃度差は見られ,マアナゴ,ボラ,スズキ及びコノシロで比較的高濃度であった.以上の結果から,DDTが第一種特定化学物質に指定されてから26年が経過した2007年においても,DDTが環境中に存在していることが確認された.
内分泌かく乱化学物質,DDT,ベンゾフェノン,フタル酸エステル類,アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル,東京湾,スズキ,ボラ,マアナゴ,アサリ

 

硫酸ジメチル誘導体化-LC/MS/MSによる水道水中のジチオカルバメート系農薬類の分析法の検討
 水道水の管理目標設定項目である農薬類の中で,対象農薬リスト掲載農薬類として分類されているものの標準検査法が設定されていないジチオカルバメート系農薬7種類(チウラム,ポリカーバメート,マンゼブ,マンネブ,ジラム,ジネブおよびプロピネブ)について分析法の検討を行った.ジチオカルバメート系農薬7種類をアルカリ分解し,硫酸ジメチルによる誘導体化によって生成するジメチルジチオカルバメートメチル(DMDC-Me),エチレンビスジチオカルバメートメチル(EBDC-Me)およびプロピレンビスジチオカルバメートメチル(PBDC-Me)をLC/APCI/MS/MSにより測定した.その結果,DMDC-Me,EBDC-MeおよびPBDC-Meの定量下限値は,それぞれ0.01,0.001および0.001 mg/Lであり,検量線も良好な直線性が得られた.本法により,ジチオカルバメート系農薬7種類について、目標値付近である濃度0.01 mg/Lで妥当性評価を行ったところ,ジラムを除く6種類の農薬の真度は71~93%,併行精度は7~19%となり、真度は水道水質検査の妥当性評価ガイドラインの目標である70~120%を満たし,併行精度は目標である15%未満をほぼ満たした.本法は,ジチオカーバメート系農薬7種類について,ジラム以外の農薬の定量試験法および定性試験法として有用であると考えられる.
ジチオカルバメート系農薬,アルカリ分解,硫酸ジメチル誘導体,LC/MS/MS

 

固相抽出-GC/MSによる水道水中の殺虫剤プロチオホスの分析法の検討
 2013年4月に水道水中の管理目標設定項目に追加された有機リン系農薬プロチオホスについて,標準検査法である固相抽出-GC/MSによる一斉試験法の適用の可否について検討した.プロチオホスの定量下限値は0.00002 mg/Lで、目標値の1/100を十分に定量可能であった.添加回収試験の結果,真度は67%,併行精度は13%で,真度は妥当性評価ガイドラインの目標(70-120%)を下回ったが,併行精度は目標(30%未満)を満たした.既存の標準検査法はプロチオホスの目標値の1/100を再現性良く検出可能であることから,本法により他の農薬と一緒にスクリーニングし,目標値付近の濃度以上で検出された場合にはプロチオホスの個別分析法により確認することで,農薬検査の効率化を図れるものと考えられる.
プロチオホス,農薬,固相抽出,GC-MS,妥当性評価,水道水

 

DPD法による水道水中残留塩素の測定条件の検討
 東京都健康安全研究センターでは,東京都の環境衛生監視員に,飲料水及びプール水の検査に関する技術研修を行っている.この研修の際,DPD法による残留塩素の測定についての疑問点が多かった.そこで,残留塩素の測定における粉末DPD試薬添加後のDPD試薬の溶け残り,撹拌の方法,測定までの時間の影響を調べた.遊離残留塩素のみ及び遊離残留塩素と結合残留塩素を含む2試料を用いて検討を行った.遊離残留塩素濃度は,溶け残った粉末DPD試薬の存在下,両試料とも検水量が5~15 mLではDPD試薬の溶け残りは測定に影響を及ぼさないことが示唆された.指で蓋をした場合の遊離残留塩素濃度は,両試料とも専用のガラス製の蓋で蓋をした場合と同じであった.しかし,混和する指が汚れていると残留塩素の濃度が変わる可能性があるため,指で蓋をすることは避けるべきである.遊離残留塩素のみを含んだ水試料中の残留塩素濃度は,DPD粉末の添加後10分間変化しなかった.一方,遊離残留塩素と結合残留塩素を含む試料の場合には,残留塩素は粉末DPD試薬の添加後の時間の増加に伴い上昇した.スイミングプールのように遊離及び結合残留塩素を含む水試料についてはDPD粉末の添加後すぐに残留塩素を測定する必要がある.
DPD法,粉末DPD試薬,水道水,遊離残留塩素,結合残留塩素

 

東京都における福島第一原子力発電所事故後の空間線量率の推移と変動要因
 2011年3月から2015年3月までの4年の間について,モニタリングポストによる都内の空間線量率のモニタリング結果をまとめた.空間線量率は,2011年3月に福島原発事故の影響と考えられる特徴的な変動を示した.波高分布の解析で,2011年3月15日~16日の空間線量率上昇は放射性プルームが新宿のモニタリングポスト周辺を通過したものと考えられた.また,3月21日~23日の空間線量率の上昇は,降雨に伴って131I,134Cs及び137Csが降下したことが原因と判明した.空間線量率は4月以降,2か月間に大きく減衰し,6月31日には0.060 μGy/hまで低下した.この間の減衰は,ウェザリング効果の影響が大きかったことが伺えた.2011年7月~2015年3月までの間に都内の空間線量率は減衰し,自然の放射線のみが存在するに近い状況となった.しかし,2015年3月31日の波高分布の解析では,区部で放射性セシウムのピークが確認された.すべてのモニタリングポストでこれらのピークが認められなくなるまでには時間を要すると考えられる.2011年6月28日~2015年3月31日までの間に,空間線量率が一定レベル以上上昇したときを異常値として波高分布を解析した.異常値は,都内7か所のモニタリングポストで合計240回検出された.そのうち208回は降雨による自然放射線量の増加が原因であり,また,解析したすべての事例で福島原発事故との関連は認められなかった.
福島第一原子力発電所事故,モニタリングポスト,空間線量率,波高分布,放射性プルーム キセノン131,ヨウ素131,セシウム137,セシウム134

 

多摩・島しょ地域における浴槽水及びプール水等からのレジオネラ属菌検出状況(平成24年度~平成26年度)
 平成24~26年度に,多摩・島しょ地域に所在する公衆浴場等施設の浴槽水2,267件及びプール水等796件におけるレジオネラ属菌検出状況について調査を行った.基準である「検出されないこと」(10 CFU/100 mL未満)を超えてレジオネラ属菌が基準違反になった浴槽水は24年度4.9%,25年度5.1%,26年度3.9%であり,プール水では各々0.0%,1.0%,0.5%であった.一方,浴槽水9.9%,プール水4.4%,ジャグジー水9.7%からは10 CFU/100 mL未満であったものの,レジオネラ属菌が検出された.分離されたレジオネラ属菌は,Legionella pneumophilaが96.3%(605/628)を占めていた.このうち浴槽水ではL. pneumophila 1群,3群,5群,6群が多く,その他に,L. quinlivanii 4株,L. micdadei 3株,L. londiniensis 3株,L. oakridgensis 3株,L. dumoffii 1株が分離された.プール水等からの分離株ではL. pneumophila 1群が約半数を占め,他にL. erythra 2株が分離された.
レジオネラ属菌,公衆浴場,浴槽水,プール水,ジャグジー,遊離残留塩素濃度,血清群

 

東京都内の冷却塔水におけるレジオネラ属菌の生息実態調査(平成25年度~平成26年度)
 海外において冷却塔水に起因するレジオネラ症感染事例が多く報告されているが,日本国内での事例報告は稀である.しかしながら,東京都が継続している冷却塔水からのレジオネラ属菌調査においては,多くの施設からレジオネラ症防止指針値を上回る菌数が検出されており,国内でも冷却塔水を原因とする感染事例が潜んでいる可能性が考えられる.このような実態をふまえて,平成25~26年度も冷却塔水におけるレジオネラ属菌の生息実態調査を行った.冷却塔水255件中96件(37.6 %)からレジオネラ属菌が検出された.レジオネラ症防止指針の指針値100 CFU/100mL を超えたものが67件(26.3 %)あり,最大検出菌数は780,000 CFU/100mLであった.分離されたLegionella spp.156株のうちL. pneumophilaは143株あり,血清群(Sero group,SG)別では1が76株,SG7が33 株,SG13が8株,SG10が7株の順で多く,浴槽水における検出頻度の高い血清群とは分布が異なっていた.また,L. pneumophila以外の13株中,L. rubrilucensが5株,L. birminghamensisが2株,L. anisa,L. busanensis およびL. erythraがそれぞれ1株同定され,免疫血清 反応およびラテックス凝集反応で陰性であった3株はすべて遺伝子検査(LAMP法)で陽性となりレジオネラ属菌と判定された.本調査の結果,およそ半数の冷却塔からレジオネラ属菌が検出されていること,市販の抗血清で同定が難しい菌種が検出されていることから,今後も継続して調査が必要である.
レジオネラ属菌,冷却塔水,血清群

 

感染症媒介蚊サーベイランスにおける捕集蚊の調査結果について(平成26年度)
 ウエストナイル熱,デング熱等の感染症を媒介する蚊について、蚊の数と種類の同定及びウイルス等の有無を確認するため,東京都では平成16年度から「感染症媒介蚊サーベイランス」を実施している.平成26年度の16地点の調査において,12種類2,403匹の蚊が捕集された.最も多く捕集された蚊はAedes (Stegomyia) albopictus(以下ヒトスジシマ カという)であり,次に多かった蚊はCulex (Culex) pipiens complex(以下アカイエカ群という)であった.ヒトスジシマカは8月に,またアカイエカ群は7月に最も多く捕集された.この2種類の蚊はウエストナイルウイルスを媒介し,特にヒトスジシマカはデングウイルスやチクングニアウイルスの媒介蚊でもあるため,これら蚊媒介感染症の蔓延防止には,未発生時から蚊の生息密度を下げるために防除対策を行うことが重要である.
蚊,感染症,ヒトスジシマカ,アカイエカ

 

論文Ⅴ 生体影響に関する調査研究

磁性ナノ粒子マグネタイト気管内スプレー投与によるラット肺病変に及ぼすγ-オリザノールあるいはグリセロール投与の影響
 磁性ナノ粒子マグネタイトは様々な用途に利用され,抗がん剤のキャリアー,がんの温熱療法等,医療やバイオテクノロジー分野への応用が注目されているが,その安全性に関する情報は限られている.我々はこれまでの検討において,マグネタイトを気管内投与した慢性試験でラットに肺胞上皮の過形成性変化を観察した.マグネタイトは,in vitro 及び in vivo試験において遺伝毒性が報告されていることから,肺に対する発がんの可能性が懸念される.今回,マグネタイトを気管内投与後,肺発がんプロモーション作用を有するγ-オリザノールあるいはグリセロールを投与し,肺における組織変化を病理学的に検索した.
 実験は,雄のF344系ラット(10週齢)に,マグネタイトを0あるいは5 mg/kg体重の用量でスプレー投与器により週1回,計4回気管内投与し,最終投与の1週間後から,基礎飼料と飲料水,γ-オリザノール(1%混餌)と飲料水あるいは基礎飼料とグリセロール(8%混水)をそれぞれ32週間与え,病理学的に検索した.その結果,マグネタイト投与群の肺で,マグネタイトを貪食した肺胞マクロファージの浸潤,炎症性細胞浸潤,Ⅱ型肺胞上皮の腫大等の組織変化を認めた.これらの変化は,γ-オリザノールあるいはグリセロール投与により修飾されず,過形成性病変はいずれの群においても観察されなかった.
マグネタイト,Fe₃O₄,磁性ナノ粒子,F344系ラット,気管内投与,プロモーター

 

ナノ物質の腹腔内投与によるマウス雄性生殖器への影響
 6種類のナノ物質:カーボンブラック(CB),フラーレン(FL),アナターゼ型酸化チタン(TA),ルチル型酸化チタン(TR),カーボンナノファイバー(CN),多層カーボンナノチューブ(MW)について雄性生殖器系に及ぼす影響を検討した.各ナノ物質を2%カルボキシメチルセルロースナトリウム水に懸濁し,CNとMWについては 0.2, 1, 5 mg/kg体重/回,他は 1, 5 mg/kg体重/回,さらに対照(CONT)として懸濁剤のみを10週齢のCD-1(ICR)系雄性マウス(1群5匹)に週1回計10回腹腔内投与し,最終投与の1週間後に屠殺剖検した.ナノ物質投与により,CN, MW群では途中死亡があり,またTA, CN, MW群では体重,精巣・精巣上体重量,精子パラメータ(数・運動性・粒度分布・形態),精巣・精巣上体組織などに軽度な影響がみられたが,CB, TR, FL群ではほとんど影響は認められなかった.
ナノ物質,カーボンブラック,フラーレン,酸化チタン,カーボンナノファイバー,多層カーボンナノチューブ,マウス,腹腔内投与,生殖毒性,精子数,精子運動性,粒度分布,精子形態,精巣組織

 

論文Ⅵ 公衆衛生情報に関する調査研究

日本における他殺による死亡の歴史的状況
 疾病動向予測システムを用いて他殺による死亡の歴史的状況を分析するとともに,年齢調整死亡率により日本と欧米各国との比較を行った.
 情報が得られる最初の年次である1909年の他殺による死亡者数は,男子165名,女子150名であったが,1954年に男子1,283名,女子649名とピークを示した後,2012年には男子183名,女子200名となっている.2004-12年において男子の神奈川,大阪,福岡,女子の宮城,神奈川,静岡,大阪,兵庫で経常的に平均死亡率比が高いことがわかった.
 日本,アメリカ,ドイツ,イタリア,フランス,スウェーデン,オランダ計7か国の年齢調整死亡率をみると,アメリカが他の諸国を大きく凌駕していた.また,フランスやイタリアで特定の時期に他殺による死亡者が増加していた.ロシア,ラトビアをはじめとする旧東欧諸国でも1980年代後半から1990年代で年齢調整死亡率が高いことがわかった.
他殺,推移,世代マップ,年齢調整死亡率,人口動態統計,日本,アメリカ,ドイツ,イタリア,フランス,スウェーデン,オランダ,ロシア,ラトビア,東欧諸国

 

論文Ⅶ 精度管理に関する調査研究

東京都水道水質外部精度管理調査結果(平成26年度)-塩素酸及び有機物(全有機炭素(TOC)の量)-
 東京都では,「東京都水道水質管理計画」に基づき,東京都健康安全研究センターが中心となり,水道事業者及び厚生労働大臣の登録を受けた水道水質検査機関を対象とした外部精度管理を実施している.本稿においては,平成26年度に実施した塩素酸及び有機物(全有機炭素(TOC)の量)に関する外部精度管理の概要を報告する.
 塩素酸では,参加機関40機関のうち4機関が判定基準外となった.その原因は,塩素酸と硝酸のピークの分離が不十分で適切な積分が出来なかったこと,チューブ類の汚染やサプレッサーの劣化によりベースラインが不安定であったこと,溶離液の濃度が適切でなかったことであった.一方,TOCでは,参加機関38機関のうち判定基準外に該当する機関はなかった.試験方法が告示法に基づいているかどうかを調査した結果,試験開始までの日数,前処理,検量線濃度範囲で数機関が告示法とは異なった条件で試験を行っており,当該機関においては告示法の遵守を含めた標準作業書(SOP)の見直しが必要であった.
外部精度管理,水道水,塩素酸,有機物(全有機炭素(TOC)の量),告示法
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