研究年報 第53号(2002) 和文要旨

*記載内容

 

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和文要旨
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Ⅰ 感染症等に関する調査研究

Norwalk-like virus(NLV)感染症 −東京都における検査と解析−

 ノーウォーク様ウイルス(Norwalk-like viruses 以下,NLVと略す)は急性胃腸炎を主症状とする食品媒介感染症の原因ウイルスである.NLVは食品の中で増殖することはないが,感染したヒトの小腸上皮細胞内で増殖し糞便と共に生活環境中に排出され食品を汚染している.東京都では遺伝子検査法を早くから実施し,NLVによる急性胃腸炎の実態把握に努めてきた.本報では, 健康被害が多く発生しているNLV感染症について,東京都における検査法と健康被害の実態について概説した.
ノーウォーク様ウイルス,小型球形ウイルス,胃腸炎

  

イヌ回虫卵添加キムチからの効率的な虫卵検査法の検討
 白菜キムチから回虫卵を簡便で効率的に回収する方法を検討し,エーテルによる脱脂操作とLaureth-12溶液または消泡剤添加Tween80・クエン酸緩衝液の使用を組合せた方法が,回収率が高くばらつきも小さいため効率的であることを明らかにした.また,キムチ漬け汁中のイヌ回虫卵の発育状態を観察した結果,発育速度は遅いが生存,発育し,幼虫包蔵卵は相当期間感染力を保持していた.ヒト回虫卵においても同様のことが推察され,キムチが回虫症の感染源となりうることが示唆された.

イヌ回虫卵,浮遊法,回収率,生存期間,キムチ

 

多摩地域における入浴施設水のレジオネラ属菌汚染緊急調査とその対策事例(平成13年度)
 平成14年1月,都内の公衆浴場浴槽水に生息していたレジオネラ属菌が原因と疑われる死亡事例が発生した.これを契機に,多摩地域の公衆浴場浴槽水のレジオネラ属菌汚染緊急調査を行った.初回の調査で2 CFU/100mL以上検出されたのは31.1%(82/264件)であった.分離されたレジオネラ属菌を同定したところ,全てL.pneumophilaでその血清群は6群,5群,1群の順に多かった.検出された施設は改善対策を実施後再調査し,最終的に90.2%の施設がレジオネラ属菌不検出となった.塩素処理の強化や浴槽水の洗浄,換水だけでは不十分で,配管・ろ過器の洗浄・消毒が有効であった.

レジオネラ属菌,公衆浴場,浴槽水,循環式浴槽,一般細菌,大腸菌群,塩素処理

 

魚介類におけるウイルス検出法の検討およびウイルス分布の検討
 近年,小型球形ウイルスをはじめ腸管系ウイルスやA型肝炎ウイルス等を原因とするウイルス性疾患が急増している.これまで我が国の魚介類におけるウイルスの挙動や実態はほとんど把握されてこなかった.そこで,魚介類を中心としたウイルス検査方法の確立を目的として,食品の前処理法,ウイルスの抽出法等の検出条件を検討した.その検査法を用いて魚介類におけるウイルス汚染実態調査を行った結果,国内産・外国産に偏りもなく,二枚貝を中心とした市販流通魚介類の約20%がウイルスの汚染を受けていたことが明らかとなった.

小型球形ウイルス:A型肝炎ウイルス,腸管系ウイルス,魚介類

 

東京都内におけるヒト免疫不全ウイルス(HIV)抗体検査受診者のC型肝炎ウイルス(HCV)抗体検査成績(2001年)
 2001年5月から10月にかけて,23区保健所及び島しょ保健所にてエイズ抗体検査を受診した者のうち,HCV抗体検査の希望者に対し無料で検査が行われた.6ヶ月間で,1,527例の検査を実施し,71例(4.7%)がHCV抗体陽性を示した.段階希釈法により抗体価を測定した結果,71例のうち51例は高力価のHCV抗体を有していた.年齢別に見た高力価抗体保有率は70歳代が19.1%と最も高く,次いで60歳代が8.5%,40歳代が4.0%,50歳代が3.5%と,加齢と共に高力価抗体保有率が上昇する傾向が認められた.

C型肝炎ウイルス,抗体検査,ヒト免疫不全ウイルス

  

C群ロタウイルスの検出された集団胃腸炎事例の検討
 C群ロタウイルスとA群ロタウイルスが同一集団で検出された集団胃腸炎が都内の1小学校で発生した.患者の発症パターンが一峰性で,調理従事者にC群ロタウイルス陽性者が見出されたことから,C群ロタウイルスの食事を介した感染が疑われたが,保存食材からは,ウイルスが検出されなかった.例年,冬から春にかけて,ノーウォーク様ウイルスによる集団胃腸炎が多発する時期に,今回のようなロタウイルスによる集団事例もありうるので,ノーウォーク様ウイルス以外のウイルスによる胃腸炎も視野に入れた検査法を組み合わせて実施する必要がある.
C群ロタウイルス,胃腸炎,集団発生

 

Ⅱ 医薬品等に関する調査研究

ショウガ科有用植物・サンナに含有される抗アニサキス作用物質の検索
 これまで香辛料及び生薬に含有するアニサキスに対する殺線虫物質を検索し,アニサキス症の治療の可能性を検討してきた.今回,芳香性健胃薬や食品の香辛料として近年多用されているKaempferia属植物に着目し,その一つサンナに含有されるアニサキスに対する殺線虫物質の検索を行った.その結果,そのヘキサン可溶分画に含有するethyl trans-cinnamate(1)及びethyl cis-cinnamate(2)といったフェニルプロパノイドに活性が認められ,100%最小致死濃度(MLC)はそれぞれ0.71及び0.32mMであった.また,半経験的分子軌道法により静電ポテンシャルを算出した結果,幾何異性体(1,2)に認められた殺線虫効果の変化は,その分子の求核性領域の違いによるものであると考察された.
サンナ,アニサキス,殺線虫物質,フェニルプロパノイド,半経験的分子軌道法

 

TLC,GC/FID及びGC/MSによる健康食品中の男性ホルモンの検索法
 健康食品中に含まれる,男性ホルモン10種の検索法について検討した.一次スクリーニング法としてTLCを用いることとし,3種の展開溶媒と6種の検出法を組み合わせた方法を開発した.二次スクリーニング法にGC/FID及びGC/MSを用いることにより,TLCで分離不可能な男性ホルモンについて精度の良い定性が可能となった.また,定量はGC/FIDで行うこととした.本法を健康食品36検体に適用したところ,2検体からデヒドロエピアンドロステロンが,1検体から4-アンドロステン3,17-ジオンが24.3,8.1,125.6 mg/capsuleそれぞれ検出された.
男性ホルモン,健康食品,スクリーニング,TLC,GC/FID,GC/MS

 

プラスチック容器にいれられた輸液中のフタル酸エステル類について
 プラスチック製の医療容器に納められた輸液中のフタル酸エステル(PAE)について調査を行った.対象としたものはフタル酸ジエチル(DEP),フタル酸ジブチル(DBP),フタル酸ジエチルヘキシル(DEHP)およびフタル酸ジオクチル(DOP)の4種類であった.調査した27検体のうち,DEPは15検体(1〜11ng/ml),DBPは16検体(2〜83ng/ml),DEHPは1検体(40ng/ml)から検出されたが,DOPは検出されなかった.プラスチック容器からのPAEの溶出試験の結果,容器の各部分から高濃度のDEP,DBP,DEHPが検出され,DOPは検出されなかった.
フタル酸ジェチル,フタル酸ジブチル,フタル酸ジェチルヘキシル,プラスチック容器,輸液

  

園芸種オニゲシ類に含有される麻薬成分に関する研究(1)
 園芸業者より購入したオニゲシ及びハカマオニゲシの分析を行ったところ麻薬成分であるテバインを検出するオニゲシが認められた.ハカマオニゲシの鑑別・取り締まりは形態によるがこれらテバインを含有するオニゲシとハカマオニゲシは形態的には各々定められた基準を満たしていなかった.市販されているオニゲシにテバインを比較的高濃度で含有する株があることは,麻薬原料植物としてのハカマオニゲシの鑑別は形態に基づくのみでは不十分である事と,これらのケシ類には形態と関わりなくテバインを含有する株が存在する可能性を示唆している.

ハカマオニゲシ,プソイドオリエンターレ,オニゲシ,テバイン,イソテバイン

 

HPLC-ECD法による医薬部外品中のトリエタノールアミンの分析
 医薬部外品中のトリエタノールアミン(TEA)の分析について,HPLC-ECD法により改良した.TEAは医薬部外品や化粧品に広く使われている.GCによるTEAの分析は感度と再現性を欠くなど,いくつかの欠点がある.また,HPLCによる分析では,特徴的なUV吸収を持たないTEAの特性のためUV検出器を使用できない.ECD検出器はCoulochem II 5200Aを,移動相はpH6.8のPhosphate Buffer・Methanol(85:15)を0.5mL/minで用いた.ECDの電位は第1電極が600mV,第2電極を900mVとした.本法により50ng/mLの検出限界値と高い再現性を得ることができた.本法は我々がこれまで経験した中で最も推奨できる方法である.
トリエタノールアミン,医薬部外品,電気化学検出器,高速液体クロマトグラフィー,表示成分

 

家庭用薬剤による健康危機事例(第1報) ナメクジ駆除剤中のメタアルデヒドの分析
 家庭用薬剤を用いたテロ,犯罪,自殺等に対する健康危機事例について合理的検査法の検討をしている.今回は自殺に用いられ,現場に残された5粒の粒剤を分析した.証拠品の薬剤は粉砕せずNMR測定溶媒で抽出し,13C-1H異種核相関2次元NMRを測定した.このデータを,人体に害を及ぼすであろうと思われる市販粒剤成分の標準マップと重ね合わせ,フィンガープリント検査法による定性分析を行った.その結果本品の成分はメタアルデヒドで,ナメクジ駆除剤であることを明かにした.定量分析はガスクロマトグラフィーで行った.
メタアルデヒド,ナメクジ駆除剤,核磁気共鳴装置,ガスクロマトグラフィー

 

家庭用薬剤による健康危機事例(第2報) 硫黄及びカルシウムを主成分とする家庭用薬剤の蛍光X線分析による鑑定
 高濃度のCaとSを含有する外皮用薬又は農業用殺菌剤による殺人未遂事件の証拠品の鑑定を行った.CaとSの定量分析は蛍光X線分析(XRF)で行い,鑑定に用いた微量金属の分析はアルゴンプラズマ発光分析(ICP)により試みた.その結果Zn,Sr及びKの含有量が証拠品間で差異があるという情報を得た.これら微量3金属の分析はXRFにより行った.XRFによる分析は含有量が低いため定量分析はできなかったが,3金属の相対強度比は安定した再現性を示した.この結果により鑑定を簡便明快に行うことができた.
蛍光X線分析装置,外皮用薬,農薬,鑑定,定量,硫黄,カルシウム

 

化粧品中のサリチル酸フェニルの分析法
 平成13年の薬事法改訂に伴い,サリチル酸フェニル(PS)の使用規制が大幅に緩和された.化粧品中PSの分析例はなく,今後PS含有化粧品の増加が予想されるため,HPLC法とGC法の2法によるPS定量法を作成した.化粧品試料1.0-2.0gをTHFに溶解して50.0mlとした.HPLC法の測定条件はカラム ODS,移動相 アセトニトリル・水(60:40),検出波長310nm.GC法の測定条件はカラムDB-5(0.53mm i.d.×15m),カラム温度145°C,注入口160°C,FID.本法における化粧品試料中のPS定量限界はHPLC法で0.01%,GC法で0.1%であった.
化粧品,サリチル酸フェニル,高速液体クロマトグラフィー,ガスクロマトグラフィー

 

Ⅲ 食品等に関する調査研究

乾燥梅製品に使用された甘味料の分析
 乾燥梅製品中の10種の甘味料について,前処理を透析法に統合し系統化し,省力化を図った分析法を用いて,使用実態調査を実施した.指定外添加物のCYCが33検体中4検体から検出され,最大値は64g/kgであった.使用基準のある添加物のうち,SAが3検体,AKが6検体,SUCが2検体から検出され,基準値を超えているものや,使用表示が無いものが多数見られた.また,APM,GA,REB,STVの使用頻度が高いことが判明した.8種の甘味料が検出され,2種以上を組み合わせて使用している製品が64%あり,乾燥梅製品における甘味料の使用傾向が明らかとなった.
サイクラミン酸,ズルチン,アリテーム,アスパルテーム,サッカリン,アセスルファムカリウム,スクラロース,ステビオサイド,レバウディオサイドA,グリチルリチン酸,乾燥梅製品

 

輸入醤油等の衛生化学的調査 −食品添加物の含有量調査−
 市販のアジア産醤油19検体について食品添加物の使用実態調査を行った.①日本語の表記が全くない韓国産5検体及びインドネシア産1検体から保存料や甘味料を単独または複数検出した.②中国産2検体から保存料で醤油には使用できないデヒドロ酢酸及び指定外甘味料のサイクラミン酸が各々検出された.以上,対象外または指定外添加物の検出,日本語による記載の欠如または使用した添加物の記載漏れといった食品の表示に関する不備等,輸入醤油には日本の食品衛生法に適合しないものがかなりあることが明らかになった.
醤油,調味料,食品添加物,保存料,甘味料

 

農作物中フルスルファミドの分析における精製の検討
 HPLC(UV)を用いたフルスルファミドの簡易な分析法について検討した.フルスルファミドは試料からアセトンで抽出し,酢酸エチルに転用した.抽出液はシリカゲルとSAX及びPSAカラムで精製した.本操作過程のうち,シリカゲル精製において,フルスルファミドはナカライテスク(株)製ではアセトン-n-ヘキサン(1:4)で,和光純薬(株)製とメルク社製ではアセトン-n-ヘキサン(2:3)で溶出した.精製法に留意して本法に従い6種類の農産物について添加回収試験を行ったところ,58.3~131.3%とほぼ良好な回収率が得られた.

フルスルファミド,農産物,高速液体クロマトグラフ,紫外部吸収検出器,シリカゲルカラムクロマトグラフィー

 

東京都民の食品からのダイオキシン類一日摂取量調査
 一般都民における食品からのダイオキシン類一日摂取量の把握を目的とし,国民栄養調査に基づいたマーケットバスケット法によりトータルダイエット調査を行った.その結果,平均体重を50kgとすると体重1kgの当たりのダイオキシン類一日摂取量は1999年,2000年,2001年それぞれ2.18,1.87,1.25pgTEQ/kg b.w./dayとなり,耐容一日摂取量 4pgTEQ/kg/dayを下回っていた.さらにその摂取量は経時的に減衰傾向を示していた.またこのダイオキシン摂取量の内,約50%以上は魚介類から摂取していた.
ダイオキシン類,ポリ塩化-p-ジオキシン,ポリ塩化ジベンゾフラン,コプラナーPCBs,一日摂取量,トータルダイエット調査

 

魚醤油中の揮発性塩基窒素及び不揮発性アミン類の分析
 輸入及び国産魚醤油中の揮発性塩基窒素(VBN)及び8種の不揮発性アミン類,ヒスタミン,チラミン,プトレシン,カダベリン,トリプタミン,フェネチルアミン,スペルミジン及びスペルミンの含有量調査を実施した.その結果,VBN及びチラミン,カダベリン,プトレシンなど,一部の不揮発性アミン類が輸入品及び国産品のほとんどの魚醤油から比較的高い濃度で検出されることが判明した.しかし,これらは通常魚醤油中に含まれている量であると推察され,その使用量から推定して直ちに健康上問題となる量ではないと判断された.
魚醤油,調味料,揮発性塩基窒素,不揮発性アミン,ヒスタミン,チラミン,カダベリン,プトレシン,トリプタミン,フェネチルアミン

 

健康食品に含まれる化学物質の実態調査 −アガリクスについて−
 免疫力を高め,ガンに効くと標榜されるアガリクス11試料について,重金属,カビ毒,残留農薬等の含有化学物質の実態調査を行った.カビ毒,残留農薬,放射能等は全て検出限度以下であった.臭素は,28及び120ppm検出されたものがあり,一部で臭化メチルによるくん蒸が行われているものと推察された.また,カドミウムが11試料中4試料から約10µg/g前後と高い濃度で検出され,過剰な摂取は避けるべきであると考えられた.また,脳の血流を改善するとされるγ-アミノ酪酸の含有量を調査した結果,3,600~13,000µg/gと高濃度に検出された.
アガリクス,健康食品,重金属,カドミウム,放射能,カビ毒,防かび剤,残留農薬,臭素,γ-アミノ酪酸

 

天然甘味料ステビア製品中の甘味成分分析及び品質評価
 天然甘味料ステビア製品について,TLC及びHPLCによるステビア抽出物,末及び酵素処理ステビアの確認法を検討した後,HPLCでステビオサイド等4成分の甘味配糖体含有量を測定した.ステビア抽出物10製品の配糖体総含有量はすべて80%以上であった.その中の2製品はレバウディオサイドAのみを90%以上含有した.ステビア末は13.6%であった.酵素処理ステビアは処理未反応の配糖体が2.8~4.9%検出された.それら製品中の重金属の残留結果を併せ品質を評価した場合,食品添加物として特に問題となる製品はなかった.
ステビア抽出物,ステビア末,酵素処理ステビア,ステビオサイド,レバウディオサイドA,薄層クロマトグラフィー,高速液体クロマトグラフィー,重金属

 

国内産野菜・果実類中の残留農薬実態調査 −平成13年度−

 2001年4月から2002年3月までに都内に入荷した国産の野菜類8種38検体及び果実類3種25検体について残留農薬実態調査を行った.野菜類では30種類の農薬が7種26検体(検出率68%)から痕跡~0.93ppm検出され,ジスルホトン及びその代謝物であるジスルホトンスルホンが総和で登録保留基準値を超えるほうれんそうが1検体認められた.果実類では18種類の農薬が3種15検体(検出率60%)から痕跡~4.2ppm検出され,アクリナトリンが食品衛生法残留基準値を超えるいちごが1検体認められた.

残留農薬,国産農産物,野菜,果実,有機リン系農薬,有機塩素系農薬,カーバメイト系農薬,含窒素系農薬,ピレスロイド系農薬,殺虫剤,殺菌剤

 

輸入農産物中の残留農薬実態調査(有機リン系農薬及び含窒素系農薬) −平成13年度−
 都内の市場等で購入した輸入生鮮農産物等235作物について,有機リン系農薬及び含窒素系農薬の残留実態調査を行った.その結果,19種45作物から有機リン系農薬13種類が痕跡~0.56ppmの範囲で,8種13作物から含窒素系農薬8種類が痕跡~0.89ppmの範囲でそれぞれ検出された.これらの残留農薬量は,中国産サヤエンドウからアセフェートが0.31ppm,アメリカ産レモンからシマジンが0.89ppm検出されたのを除き残留基準値,国際残留基準値あるいは各国残留基準値以下であった.
残留農薬,輸入農産物,有機リン系農薬,含窒素系農薬

 

輸入農産物中の残留農薬実態調査(有機塩素系農薬,N-メチルカーバメイト系農薬及びその他) −平成13年度−
 2001年4月から2002年3月に都内の市場等で購入した輸入生鮮農作物等72種235作物について,有機塩素系,カーバメイト系及びその他の農薬計75種の残留実態調査を行った.18種48作物から総DDT,イプロジオン,エンドスルファンなど8種の有機塩素系農薬,NAC及びメソミルの2種のカーバメイト系農薬及びTBZ,イマザリル,シペルメトリンなど11種のその他の農薬が痕跡~4.5ppm検出された.これらのうち,未成熟えんどうから検出されたシペルメトリンは残留基準を超えていた.
残留農薬,輸入農産物,有機塩素系農薬,カーバメイト系農薬,ピレスロイド系農薬,殺虫,殺菌剤,除草剤,収穫後使用

 

輸入食品中の放射能濃度(第11報) −平成13年度−
 チェルノブイリ原発事故に由来する放射能汚染食品の実態を明らかにするため,平成13年4月から平成14年3月までに都内で流通していた輸入食品等233試料について放射能汚染実態を調査した.放射能濃度が暫定限度値370Bq/kgを超えるものはなかったが,7試料が50Bq/kgを超えていた.その内訳はフランス産キノコの乾燥トロンペットが260Bq/kg,生鮮ピエ・ド・ムトンが240及び99Bq/kg,生鮮シャンテレルが148Bq/kg,乾燥ジロルが96Bq/kg,生鮮ジロルが55Bq/kg及びイギリス産の蜂蜜が54Bq/kgであった.
チェルノブイリ原発事故,放射能汚染,輸入食品,調査,セシウム,キノコ,蜂蜜,ヨウ化ナトリウムシンチレーション検出器

 

牛肉中ステロイドホルモン測定の試料調製
 牛肉中のエストラジオール-17b(EST),テストステロン(TES),プロゲステロン(PRO)をラジオイムノアッセイ(RIA)で測定するための試料調製法を検討した.アセトニトリル/メタノール(4:1)で抽出,脱脂後,固相抽出カートリッジで精製した.牛肉にEST(5及び50ppt),TES(40及び200ppt),PRO(0.4及び4ppb)を添加し,本試料調製法を用いRIAで測定したときの回収率は60~90%であった.牛肉での検出限界はESTで1ppt,TESで10ppt,PROで0.04ppbと高感度分析が可能で,牛生体中のホルモン濃度を調査する上で有効な分析法である.
牛肉,ステロイドホルモン,エストラジオール-17b,プロゲステロン,テストステロン,ラジオイムノアッセイ,固相抽出カートリッジ,内分泌かく乱化学物質

 

食品の苦情事例−平成13年度−
 平成13年度の食品研究科における苦情事例の中で代表的な5事例について報告した.1) 牛丼中のゴキブリ様異物は横紋筋を確認したことから,牛肉の焦げたものと推定した.2) クッキー中の毛髪様異物はスンプ法で小皮紋理を確認し,ヒトの毛髪と判断した.3) ポテトチップス中のカビ様物質は鉄が付着したものと推察した.4) サーターアンダギーの緑変は苦情品中の炭酸水素ナトリウムと紫芋中のムラサキイモ色素との反応によるものと推察した.5) 抹茶プリン中のカビ様異物は抹茶に含まれるタンニンと鉄とのキレート形成によるものと思われた.

食品,苦情,異物,牛丼,クッキー,毛髪,ポテトチップス,揚げ菓子,プリン

 

化学物質及び自然毒による食中毒等事件例(第19報) −平成13年−
 平成13年に発生し原因物質の究明を行った化学性食中毒等の事例のうち,①フグの卵巣,肝臓等を摂食したことにより,しびれ,運動麻痺等の症状を呈した食中毒2例.②マグロ及びウルメイワシのヒスタミンにより,顔面紅潮,頻脈,発熱等の症状を呈した食中毒及び有症苦情.③コールスローサラダに混入した塩化ベンザルコニウムにより,舌のしびれ,胃痛等の症状を呈した食中毒.④焼きそばに混入した銅により,嘔吐,腹痛,下痢等の症状を呈した食中毒2例.⑤ツブ貝のテトラミンによる食中毒.以上8事例について報告した.
化学性食中毒,フグ,マフグ,コモンフグ,ヒスタミン,塩化ベンザルコニウム,銅,テトラミン

 

中国産ウチムラサキにおける麻痺性貝毒検出事例
 2002年4月,中国産二枚貝を対象として麻痺性貝毒(paralytic shellfish poison:PSP)の緊急監視が行われた.マウス試験の結果,126試料中26試料からPSPが検出され,うち2試料は規制値の1g当たり4マウス単位を超えた.PSPが検出された試料はほとんどが同時期に輸入された威海産のウチムラサキで,他の海域のウチムラサキ及びアサリ,シジミなど他種二枚貝からは検出されなかった.
ウチムラサキ,中国,二枚貝,麻痺性貝毒,マウス単位,サキシトキシン,ゴニオトキシン

 

フルーツゼリーからパテントブルーVを検出した違反事例
 和菓子店の自家製フルーツゼリーから抽出された青色色素を,ペーパークロマトグラフィー,TLC,HPLC及びLC/MSを用いて分析した結果,指定外着色料であるパテントブルーV(C.I.No.42051)であることが確認された.そこで,原料として使用されたフランス産の緑色の香料製剤を分析したところ同着色料が検出され,これは香料製剤由来であることが判明した.香料製剤は,ゼリー製造時に青色に着色する効果を期待してかなり多量に添加されたものと推定される.

パテントブルーV,フルーツゼリー,指定外着色料

 

乾燥梅製品からオレンジII及びアミドブラック10Bを検出した違反事例
 中国産の乾燥梅製品から我が国の許可着色料に該当しない橙色及び暗青色の色素が検出された.これらについてPC及びTLCで定性し,フォトダイオードアレイ検出器付きHPLCを用いて確認したところ,橙色の色素はオレンジII,暗青色の色素はアミドブラック10Bの保持時間及び吸収スペクトルと完全に一致したことから,これらの色素と同定された.これらの色素は我が国では化粧品に使用されている法定色素であり,本報告は検査対象を食用色素だけでなく化粧品用色素にまで拡大し,色素を同定した事例である.
乾燥梅,着色料,オレンジII,アミドブラック10B

  

天然添加物中の重金属及びヒ素含有量(第2報)
 天然添加物19品目64製品について鉛,カドミウム,クロム,水銀,ヒ素を定量した.5元素の最大検出量はそれぞれ2,4.3,9,0.14,2.7µg/gであった.直ちに食品衛生上の問題が生ずる可能性は低いと考えられるが,安全を確保するために,規格基準の早期整備が望まれる.重金属類はヒメマツタケ抽出物,キトサンなどから検出されたが,これらの品目は,食品添加物としてだけでなく健康食品素材としても使用されている実態がある.規格基準は,添加物よりも摂取量が多いと考えられる健康食品素材への使用実態をふまえて作成する必要がある.
重金属,鉛,カドミウム,クロム,水銀,ヒ素,天然添加物

 

食物繊維測定法及びβ-グルカン特異検出試薬によるレイシ,ヒメマツタケ抽出物及び市販アガリクス製品中のβ-グルカン量測定
 レイシ抽出物,ヒメマツタケ抽出物及び市販アガリクス製品を試料とし,β-グルカン量測定のためβ-グルカン特異検出試薬キットを適用し,食物繊維測定法の結果と比較した.その結果,両試験法から得られた測定値には,良好な相関が認められた.β-グルカン特異検出試薬キットは,キノコ及びキノコ製品中のβ-グルカン量の相対的な比較測定法及び製品の品質管理試験法として適用できると考える.
レイシ抽出物,ヒメマツタケ抽出物,アガリクス・ブラゼイ,β-グルカン,食物繊維,既存添加物

 

健康食品素材として使用される既存添加物(トマト色素,アントシアニン系色素,サイリウムシードガム)の品質実態
 既存添加物であり健康食品素材としても使われるトマト色素,アントシアニン系色素(ムラサキヤマイモ色素,ムラサキトウモロコシ色素,ムラサキイモ色素)及びサイリウムシードガムの5品目14製品について試験を行った.極大吸収,色価,水分,エタノール,乾燥減量,灰分,たんぱく質,検鏡を行い,市販品の品質実態を明らかにした.
既存添加物,トマト色素,ムラサキヤマイモ色素,ムラサキトウモロコシ色素,ムラサキイモ色素,サイリウムシードガム,品質

 

生食用カキの品質管理指標としての規格細菌検査成績 (平成元年度~13年度)
 多摩地域で販売されている生食用カキの細菌規格試験を行った.調査期間は, 平成元年度から13年度,検体数は822検体とした.細菌数試験で5万個/gを超過したのは5件(0.6%)であり,大腸菌試験で230MPN/100 gを超過したのは16件(1.9%)であった.腸炎ビブリオは39件(4.7%)から検出され, 黄色ブドウ球菌は2件検出された.サルモネラは不検出であった.セレウス菌は全調査期間を通じて検出され,平均検出率は45.6%であった.
カキ,細菌数,大腸菌,腸炎ビブリオ,黄色ブドウ球菌,サルモネラ,セレウス菌

  

Ⅳ 生活環境に関する調査研究

化学物質による室内空気汚染の実態とその健康影響
 シックハウス症候群(または,シックビルディング症候群)や化学物質過敏症患者の増加が問題になっている.シックハウス症状を誘発する主な原因は,建物の気密性が向上し,建材等から放散するホルムアルデヒドや揮発性有機化合物(VOC)等の室内濃度が健康を害するレベルにまで上昇するためである.シックハウス症候群の他,化学物質過敏症,さらにはアレルギー患者の増加についても環境中の化学物質の増加が要因の一つと考えられている.本稿では,化学物質による室内空気汚染の実態と健康影響について最近の知見をまとめた.
室内空気汚染,シックビルディング症候群,シックハウス症候群,ホルムアルデヒド,揮発性有機化合物,殺虫剤,可塑剤,難燃剤

 

室内空気中化学物質の実態調査(フタル酸エステル類及びリン酸エステル類等) −平成12年度−

 東京都内の住宅,オフィスビルの室内空気及び外気について,35種類の半揮発性有機化合物(SVOC)を測定した.その結果,室内空気中から可塑剤10種,有機リン系難燃剤10種,有機リン系殺虫剤4種及びペルメトリンが検出された。室内で検出された最高濃度は,可塑剤ではフタル酸ジ-n-ブチル7.2µg/m3,有機リン系難燃剤ではリン酸トリス(2-クロロイソプロピル)14.2µg/m3,有機リン系殺虫剤ではフェニトロチオン1.5µg/m3であった.外気においては,有機リン系殺虫剤のジクロルボスが90%以上の測定地点で検出され,都内の大気は広くジクロルボスにより汚染されていることが判明した.

室内空気,外気,フタル酸エステル類,アジピン酸エステル類,有機リン系難燃剤,有機リン系殺虫剤,ペルメトリン,可塑剤,半揮発性有機化合物,内分泌攪乱化学物質

 

室内空気中化学物質の実態調査(ホルムアルデヒド及び揮発性有機化合物) – 平成12年度 -
 東京都内の住宅,オフィスビル及びその周辺外気について,ホルムアルデヒドと揮発性有機化合物,計8物質の空気中濃度を調査した.夏期及び冬期に調査した結果,ほとんどの物質は,夏期の方が高濃度であった.得られた結果の最大値は,ホルムアルデヒド261µg/m3,トルエン682µg/m3,スチレン286µg/m3及びパラジクロロベンゼン4,600µg/m3で,指針値を大きく超えていた.また約30%の住宅で健康被害を訴える居住者がおり,その症状は,目・喉の痛み,頭痛,倦怠感,めまいなどの他,眠れない,気分が鬱状態になる,食物アレルギーの発症など様々であった.しかし調査した物質の室内濃度は,訴えのあった住宅と訴えのなかった住宅間で差が見られなかった.
ホルムアルデヒド,揮発性有機化合物,室内空気,外気

 

新築住宅におけるホルムアルデヒド及び揮発性有機化合物濃度の年次推移 -室内濃度指針値との関係-
 新築住宅室内には,高濃度の空気汚染物質が多数存在するため,シックハウス症候群を引き起こす可能性が高い.厚生労働省は,この問題の対策として,室内空気汚染低減のために,原因と考えられる化学物質の室内濃度指針値を示した.この対策の効果を検証するため,新築住宅における,ホルムアルデヒド(HCHO)と揮発性有機化合物(VOC)濃度の年次推移を調査した.その結果,1997年に指針値が設定されたHCHOの新築住宅室内濃度が,近年になって低減してきた事が確認でき,対策の効果があったと思われた.しかし,VOCについては年次的な減少は見られず,低減対策が徹底していないと考えられた.
ホルムアルデヒド,揮発性有機化合物,年次推移,新築住宅,指針値

 

水試料中のカルボフラン,メタラキシル,ジチオピル,シアナジン及びピリブチカルブの分析法の検討
 1998年に水道水監視項目及びゴルフ場使用農薬にかかわる水道水の水質目標に追加された農薬のうちカルボフラン,メタラキシル,ジチオピル,シアナジン及びピリブチカルブの5物質についてモニタリングに適用できる同時分析法について検討し,以下の結果を得た.熱に弱いカルボフランを含む対象5物質は,GC/MSの注入口温度を220°Cとすることにより同時分析が可能であった.抽出法では,固相抽出法が優れており,溶媒抽出法では,窒素吹きつけ圧力が回収率に影響した.
農薬,カルボフラン,メタラキシル,ジチオピル,シアナジン,ピリブチカルブ

  

ヘッドスペース−GC/MS法による水道水中のトリハロメタン測定時のpHと塩類の影響
 ヘッドスペース−GC/MS法における水道水のpH調整の有無,また10種類の塩類によるトリハロメタン定量値に及ぼす影響を検討した.上水試験方法では水道水はpH約2に調整するが,検量線作成溶液はpH無調整でトリハロメタンを測定している.この条件では,水道水中のトリハロメタン中間体からのトリハロメタン生成は抑制されるが,試料と検量線作成溶液のpHは異なるので,トリハロメタンの気相と水相の分配率が異なっている.従って,検量線作成溶液,水道水は共にpH約2にすることが必要である.検討した塩類の内,塩化ナトリウム,塩化カリウム,硫酸ナトリウムは水道水が異なっても,トリハロメタン値は同値で,また他の塩類に比べ,トリハロメタン値が低値であった.従って,これら塩類は使用適である.
トリハロメタン,水道水,ヘッドスペースGC/MS法,ペーハー,塩

 

都市環境水におけるレジオネラ属菌の生息実態と共存生物調査 (平成13年度)
 平成13年度に水質研究科に搬入された水試料544件についてレジオネラ属菌検査を行った.冷却塔水327件中200件,浴槽水34件中11件,給湯水112件中6件,温泉浴槽水12件中8件,消防用水23件中5件及びその他の都市環境水から36件中1件,それぞれレジオネラが検出された.レジオネラと共存生物との関係についても調査した結果,アメーバ類がレジオネラの増殖に関与していることが示唆された.それ以外の共存生物では特に原生動物の生息率が高かった.また,レジオネラの生息に一般細菌及び大腸菌群との関連性は特に見いだせなかった.
都市環境水,レジオネラ属菌,冷却塔,給湯,温泉,アメーバ類

 

浄水場原水・浄水等における原虫類並びに指標細菌類調査結果 (平成13年度)
 平成13年度年に採取した水道原水,浄水等における原虫類(クリプトスポリジウム,ジアルジア)並びに原虫汚染の指標となる糞便汚染指標細菌の調査結果を取りまとめた.浄水と雑用水では原虫類不検出だった.4類感染症患者発生に伴う井戸水の調査でも不検出だった.多摩地区及び島嶼の水道原水から昨年に引き続いて原虫類が検出され,糞便汚染が進行していることが推察された.また,宮城県内の水道原水からも原虫類が検出された.平成11年度〜13年度のデータを基に,糞便汚染指標細菌と原虫類の相関を検討したところ,多摩川では指標細菌数の対数値と原虫類の対数値に相関が見られ,クリプトスポリジウムによる汚染の恐れの指標とされているウェルシュ菌芽胞と大腸菌ではウェルシュ菌芽胞が指標として優れていると考えられた.
クリプトスポリジウム,ジアルジア,原虫,水道水 ,水道原水,表流水,糞便汚染指標細菌

 

ディスク型固相を用いた環境水中のアルキルフェノール及びビスフェノールAの分析法
 内分泌かく乱化学作用が疑われているアルキルフェノール類及びビスフェノールAを対象に,固相抽出による濃縮及びガスクロマトグラフィー/質量分析計(GC/MS)による一斉分析法について検討した.トリメチルシリル化によりGC/MSのピーク形状が改善され,GC/MSの検出限界は0.003〜0.006ngであった.ディスク型固相及びカートリッジ型固相について検討した結果,ディスク型固相のSDB-XDが回収率に優れ,抽出時間も短かった.井戸水における各化合物の回収率は70%以上で,変動係数は19%以下であった.
アルキルフェノール類, ビスフェノールA,ディスク型固相抽出,ガスクロマトグラフィー/質量分析計,トリメチルシリル化

 

井戸水中の除草剤ベンタゾンの分析及び土壌中の残留性
 井戸水中のベンタゾンのLC/MSによる分析条件を検討した.本法による定量値を公定法であるGC/MS法との定量値と比較したところ,両法の定量値の間には正の相関が認められた(r=0.9948,n=17).土壌試料に10mg/kg(乾土)になるようにベンタゾンを添加して回収試験を行った結果,土壌試料と等量のメタノ−ル:0.01mol/L塩化カルシウム(8:2)で抽出した時のベンタゾンの回収率は73±2%とほぼ良好な結果が得られた.土壌中ベンタゾンは好気的な表層部ではすみやかに分解し,微好気的な深層部では残存率が高かった.
ベンタゾン,液体クロマトグラフ,ガスクロマトグラフ/質量分析計,液体クロマトグラフ/質量分析計

 

多摩地域飲用井戸水および多摩川水系河川水中の内分泌かく乱化学物質の実態調査
 多摩地域飲用井戸水および多摩川水系河川水中の内分泌かく乱化学物質の実態調査を行った.検出率が高かったのはフタル酸ジ-n-ブチル(DBP),フタル酸ジ-2-エチルヘキキル(DEHP),4-ノニルフェノール(4-NP),ビスフェノールA(BPA)であり,それらの検出濃度は最高でも数µg/Lであった.また,河川水からはDBPおよびBEHPの分解物であるフタル酸モノエステルも同じ濃度レベルで検出されることが明らかとなった.さらに,4-NPの汚染原因物質の一つであるノニルフェノールポリエトキシレートの検出濃度は0.01〜2.55µg/Lであった.
内分泌かく乱化学物質,飲用井戸水,河川水,実態調査,フタル酸ジエステル,フタル酸モノエステル,ビスフェノールA,4-ノニルフェノール,ノニルフェノールポリエトキシレート

 

加熱脱着法による室内空気中フタル酸エステル類の微量分析法
 少量の空気試料で測定でき,分析操作が簡易な加熱脱着法によるフタル酸エステル類の分析法を検討し,フタル酸ジアリル以外の11化合物の微量分析法を確立した.標準液及び試料採取後の捕集管にPEG-200及びPEG-300を添加することにより,検量線は安定した直線性を示した.さらにTCT装置をスプリット注入できる様にしたことにより,高濃度迄の測定ができる様になった.また加熱脱着法のため,ブランク値をかなり低くすることができたので微量分析が可能になり,クリ−ンな空間からかなり汚染された空間までの測定が可能である.
加熱脱着,フタル酸エステル類,フタル酸ジブチル,フタル酸ジ-2-エチルヘキシル,室内空気,定量法,ガスクロマトグラフ/質量分析計

 

有機スズ化合物の衛生化学的研究(第10報) 魚介類中のトリブチルスズ及びトリフェニルスズ化合物含有量(1999〜2001)
 1999年度から2001年度に東京都中央卸売市場で購入した総数480の魚介類について,トリブチルスズ(TBT)化合物及びトリフェニルスズ(TPT)化合物の含有量を測定した.両化合物のの検出限界を0.001µg/gとし,1998年までのものより一桁低くした.その結果,検出率が上がり71.9〜97.5%となった.TBTの平均値は0.011〜0.013µg/g,TPTは0.006〜0.009µg/gで,3年間ほとんど変化はなかった.1991年の両化合物に対する法規制以降,日本では海洋汚染が改善されていることから世界的な規制をとることは更に有効であろう.
トリブチルスズ化合物,トリフェニルスズ化合物,魚介類,含有量

 

貝類中の微量元素濃度

 (1) ホタテ貝の部位別カドミウム濃度(生重量あたり,平均値)は,貝柱0.22mg/kg,中腸腺18.8mg/kg,生殖巣1.92mg/kg,エラ0.65mg/kg,外套膜0.48mg/kgであった.中腸腺は全検体ともコーデックス委員会CCFACのカドミウム基準値案(生重量あたり1.0mg/kg)を大幅に超えており,食用には適さず避ける必要がある.鉛の基準値案(生重量あたり1.0mg/kg)を超えるものはなかった. (2) 東京湾産のアサリ,カキ,シジミ,シオフキの微量元素濃度の測定をおこなった.いずれもCCFACのカドミウムおよび鉛の基準値案を超えるものはなかった.

貝,汚染,ホタテ貝,カドミウム,微量元素,鉛,アサリ,カキ,東京湾 

 

Ⅴ 毒性に関する調査研究

ディーゼル排気ガスとスギ花粉症 −胎仔期暴露の影響−

 胎仔期・哺乳期・離乳後に14日間ディーゼル排気ガスに暴露されたラットをスギ花粉で感作しIgE抗体を測定した.胎仔期除塵排気ガス暴露群では,三回感作後から特異なIgEが対照群に比べ有意に上昇した.胎仔期全排気ガス暴露群,哺乳期両暴露群では,四回感作後にIgEが有意に上昇した.離乳後暴露群は対照群と同様であった.免疫機能の形成期における排気ガスの暴露はスギ花粉に対する抗体上昇を起こし易くすること全排気ガス暴露・除塵暴露ともほぼ同様の結果であったことから排気ガス中のガス状成分が関与すると考えられた.

ディーゼル排気ガス,ラット,胎仔期暴露,スギ花粉,IgE

 

アルキルフェノール類のホルモン受容体結合作用
 ヒトエストロゲン受容体(ER),アンドロゲン受容体(ADR)に対して,炭素鎖数の異なるアルキル基を有するフェノール類の影響を調べた.ERへの結合は,環境省が世界で初めて内分泌撹乱化学物質であると確認したノニルフェノール(炭素鎖C9)の作用が最も強く,次がドデシルフェノール(炭素鎖C12)だった.更に,ヒトADRに対しても結合作用を示し,アルキルフェノール類は,ER及びADRの両受容体に結合することを明らかにした.NPのERαに対するIC50値は,オクチルフェノールと同様,魚の内分泌系に影響を及ぼす濃度に近い値だった.

内分泌撹乱作用,ノニルフェノール,オクチルフェノール,エストロゲン受容体,アンドロゲン受容体,ドデシルフェノール,アルキルフェノール

  

除草剤クロルプロファム(CIPC)連続投与による血液,脾臓及び肝臓の経時変化

 馬鈴薯の発芽防止剤クロルプロファム(CIPC)を,0あるいは3%の濃度で餌に添加し,雄のF344ラットに2,4,6,8及び13週間与え経時変化を観察した.投与群では投与2週から貧血及びメトヘモグロビン血症が観察され,13週まで同程度で推移した.投与2週から脾臓の顕著な腫大と肝臓の腫大が観察され,脾臓の組織検索で,投与2週から赤脾髄のうっ血,白脾髄の萎縮,ヘモジデリンの沈着及び髄外造血が,4週から被膜の線維化が観察された.脾臓における組織変化は投与期間に伴い顕著となった.これらの変化はCIPCの代謝物メタクロロアニリンにより誘発されることが示唆された.

クロルプロファム,除草剤,ラット,血液毒性,脾臓,肝臓,経時変化

  

遺伝子組み換え大豆の細胞遺伝学的研究

 CRJ:CD-1雌雄マウスに遺伝子組み換え大豆添加飼料,非組み換え大豆添加飼料および飼育用CE-2を3ケ月間摂取させたものの染色体分析を行ったが,いずれの添加飼料群においても染色体異常細胞の増加は認められなかった.同様に,チャイニーズハムスターの雄に遺伝子組み換え大豆添加飼料,非組み換え大豆添加飼料および飼育用CE-2を自由摂取させ,1週間から36週間まで経時的に染色体分析を行ったが,いずれの添加飼料群,いずれの摂取期間においても染色体異常細胞の増加は認められなかった.これらの結果より,遺伝子組み換え大豆添加飼料摂取による哺乳動物染色体への影響は無いものと判断した.

遺伝子組み換え大豆,染色体分析,マウス,チャイニーズハムスター

 

Ⅵ 公衆衛生情報に関する調査研究

感染症発生動向調査情報処理システムの構築
 厚生労働省で開発した「感染症発生動向調査システム」を利用すると個々の感染症情報をExcel形式で取り出すことができる.このExcel情報に,ExcelやPowerPointなどを利用した各種情報処理を施し,東京都感染症週報等を作成するシステムを構築した.このシステムを用い週報等をPDF形式作成し,ホームページで地域住民に提供すると共に,Eメールが利用できる保健所等には,添付文書として送付している.ホームページのアドレスは,https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/IDSC/である.
感染症,サーベイランス,コメンテータ会議

 

ワールドカップサッカー開催中の症候群別サーベイランス
 ワールドカップ期間中の感染症に対する十分な危機管理体制を確立しておく必要から,従来の発生動向調査を強化,再確認するとともにそれらを補填し,迅速に感染症の発生動向を探知するため,症候群別サーベイランスを試合開催自治体とともに東京都においても実施した.期間中2件の事例について追跡調査を行ったが,特に問題になるような感染症の発生事例は報告されなかった.
感染症,サーベイランス,発生動向調査

 

多摩地区における小規模企業検診(平成13年度)と国民栄養調査の比較
 多摩地区における平成13年度小規模企業検診(小企)結果と平成11年度国民栄養調査(国栄)における検査成績を年齢階級別に比較した.身体状況及び血液検査の平均値と基準値外割合の有意差は,男性より女性の方に多く見られ検査成績は国栄に比べ小企の方が良好であった.小企の女性は全員が就労者で年に1〜2回の検診を受けているが,国栄は3割が未就労者であり検診の受診率が低いと推察された.検診を受けることは,健康確保と自己管理力を身につけることにつながり,生活習慣病予防に重要なことである.
多摩地区,小規模企業検診,国民栄養調査,体格指数,高血圧,高脂血症,貧血,高血糖,t検定,年齢階級別比較

 

Ⅶ 精度管理に関する調査研究 

平成13年度東京都食品衛生検査施設GLP内部点検調査報告
 東京都食品衛生検査施設に対する信頼性確保部門の業務の一つとして,平成13年度は衛生研究所22,市場衛生検査所10,芝浦食肉衛生検査所2,食品環境指導センター2,東京都保健所12の合計48施設を対象に,GLP内部点検(収去点検を含む)を実施した.各施設とも12年度までに比べGLPの推進に一層の理解と努力がみられ,47施設において文書による改善措置の要請をしなかった.改善措置が必要とされた施設においても,改善措置の要請内容は書類の記入および訂正方法の不備であった.これらの点で一層の注意,努力が必要とされるものの,全般的には良好であると判断された.
適正管理運営基準,内部点検,信頼性確保部門

 

東京都環境放射線測定サイト 東京都感染症情報センター 東京都健康安全研究センターサイト
(このホームページの問い合わせ先)
tmiph<at>section.metro.tokyo.jp
※<at>を@に置き換えてご利用ください。
また、個別にお答えしかねる場合も
ありますので、ご了承ください。
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